【第一部完結・改稿版】ハージェント家の天使

夜霞

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第一部

甘く輝く・上【4】

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「お先に、季節のパンケーキセットが二つになります」

(カフェにいたことを忘れてた……!)

 それでも、夢の中とはいえ、マキウスの言葉が心に響いたのに変わりはなかった。
 女性店員がテーブルに並べてくれる間、モニカはマキウスを直視出来ず俯いていたが、それはマキウスも同じ様で、耳まで赤くなって顔を背けていたのだった。

「ごゆっくりどうぞ」

 最後に、木製のクリップで留めた伝票を置いていくと、女性店員は立ち去ったのだった。

「……ここが店内だったということを忘れていました」
「私もです。マキウス様」

 そうして、二人は顔を見合わせると、笑い合ったのだった。

 モニカは頼んでいた紅茶のティーポットから、琥珀色の紅茶をカップに注ぐと口をつけた。
 茶葉はダージリンだろうか。優しい香りに心が落ち着いた。

 同じく紅茶に口をつけたマキウスだったが、一口飲むと、何故か驚いたように瞬きを繰り返したのだった。
 けれども、何も言わないまま、そこにいつもの様に大量の砂糖を加えたところで、モニカの視線に気づいたらしい。
 端正な顔をほんのり赤く染めたのだった。

「こんなに笑って、ゆっくりしたのは、久しぶりかもしれません。近くにニコラや使用人の皆さんがいると、なかなかゆっくり出来ないので」

 ニコラや使用人たちが悪いという訳ではない。
 御國だった頃と違い、屋敷の中は、常に人が居て、人の目があった。
 着替えも、食事も、沐浴も、屋敷内を散歩する時さえも、常に誰かがついていて、一人になれなかった。
 乳母のアマンテの力を借りていても、ニコラもまだまだ手が掛かり、なかなか心休まる時が無かったのだった。

「これまで、身近に子供や使用人が居たことが無かったので、なかなか慣れなくて……。これではいけませんね」
「私もまだまだ慣れません。地方の屋敷に住んでいた頃は、使用人は少なく、屋敷や自分の身の回りのことは、ほとんど自分でやっていましたからね」
「そうなんですね。意外です……」
「今でこそ我が家は王都に住み、使用人もいますが、元は地方に住む男爵家です。下町の者たちと生活はさほど変わりません。姉上の様な侯爵家なら別ですが……」

 マキウスが地方に住んでいた頃、祖父のハージェント男爵は小さな屋敷に住んでおり、また人を雇う余裕もあまりなかったので、使用人はほんの数人しか雇っていなかった。
 祖父母が亡くなり、その後、マキウスが王都の騎士団に所属することになると、地方の使用人たちには引き続き地方に残ってもらい、屋敷の管理をお願いすることにした。
 今でも定期的に連絡を寄越しては、屋敷に異変がないことや、地方の様子を知らせてくれるらしい。
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