【第一部完結・改稿版】ハージェント家の天使

夜霞

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第一部

王都の表と裏【4】

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(マキウス様に連れて来られなければ、決して知ることなかった。私、今でも充分、贅沢な暮らしをしていたんだ)

 傍らのマキウスを見上げる。
 マキウスはこの場所を知っていた。
 モニカが使用人たちに囲まれて、飢えることない生活を送っている間も、常に清潔な身体を保ち、綺麗なドレスを着ている間も、彼はこの場所を考えていたのかもしれない。
 ドブ川でゴミを漁る子供たちや貧民街の者たちのことを。

(何も知らなかった。貴族がいて、庶民がいる身分社会の国なら、こんな場所があって、最下層で苦労している人たちだっているはずなのに……)

 少し考えればわかるはずだった。
 ヒエラルキーの中にいる最下層の人たちのことを。
 富める者がいるなら、その反対に貧しい者たちが存在することを。

(全く知らない人がこの光景を見たら、きっとショックで倒れちゃう。自分が知らない、認めたくない光景が目の前に広がっているから……)

 もしかして、とモニカは気がつく。
 孤児だったという「モニカ」は、この光景を知っていたかもしれない。
 レコウユスも同じかはわからないが、それでもヒエラルキーの最下層に住む人々がいることは知っていただろう。

 けれどもここにいるモニカは、孤児だった「モニカ」ではない。
 異なる世界から来た「モニカ」が、この光景を知っているとは限らないから。

 それもあって、マキウスはここに連れて来たくなかったのだろうか。
 治安が悪く、知らない世界を前に、モニカがショックを受けると分かっていたから。

 橋の上に来ると、マキウスは立ち止まって、川下の子供たちを見つめたのだった。
 
「強き者がいれば弱き者がいるように、富める者がいれば貧しい者がいます」

 マキウスはひび割れ、汚れている橋の袂に触れた。
 モニカも指先でそっと触れてみると、すぐに指は黒くなってしまった。

「そんな貧しい者たちが生活出来るようにするのも、我々貴族の役目です。ですが、全ての貴族がそうではないことも事実です」

 マキウスは橋の袂に触れていた手を、手が白くなるくらい強く握りしめていた。

「そんな環境を改善しようと、今の国王の代から、貧民街の支援を始めることになり、そこに一部の王族や貴族、騎士が貧民街の支援に名乗り出ました。私や姉上も同じです」
 
 マキウスやヴィオーラを始めとする、国王に賛同している者たちは、貧民街を改革しようとしていた。
 住みやすい環境にする為に、貧民街の清掃に乗り出し、飢える者たちに食料支援をして、孤児に衣食住と学ぶ機会を与え、職のない者に仕事の斡旋をした。
 騎士団の巡回を強化する形で、犯罪を減らそうとしていた。
 
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