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第一部
「モニカ」になれない【1】
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夜、マキウスがいつものように寝室にやってくると、既に寝室内は暗くなっていた。
今夜も帰宅が遅くなってしまった。遅い時間の帰宅だからか、珍しくモニカの出迎えがなかった。
愛娘のニコラの様子を見に行くと、ニコラを看ていた乳母のアマンテから、モニカは既に夕食を済ませて、先に寝室で休んでいると教えられたのだった。
外から差し込む月明かりを頼りにベッドに目を凝らすと、一人分の膨らみがあった。
(もう、休んだのでしょうか……?)
マキウスは訝しんだ。
リュドヴィックが帰ってからモニカの様子がおかしいことは、帰宅時にペルラから聞かされていた。
途中まで、モニカたち兄妹の再会の場に立ち会っていたティカやアマンテからは、特に異常は無かったと聞いていたのだが。
(それとも、疲れて寝てしまったのでしょうか?)
モニカがリュドヴィックとどんな話をしたのか聞きたかったマキウスだが、当のモニカが疲れているのなら無理強いはしたくなかった。
(魔法石に魔力の補充だけしたら、邪魔をしないように私も休むとしましょう)
今晩は魔法石の補充以外、特にやらなければならない用事もない。
妻が休んでいるなら、魔力の補充が済み次第、自分も休むべきだろう。明日も朝から仕事がある。
モニカの邪魔をしないように、マキウスがそっとベッドに入った時だった。
「ん……」
「モニカ? すみません。起こしてしまいましたか?」
モニカを起こしてしまったかと、謝った時だった。
「……マキウス様? いつの間に帰って来たんですか?」
「少し前です。疲れているかと思ったので起こさなくていいと、使用人たちに伝えたのです」
「お出迎えもせずにすみません。気遣って頂いて……」
マキウスはベッド脇の灯りだけを点けた。
「リュド殿との時間はどうでした……」
「か?」と、言いながらモニカの顔を見たマキウスは、ハッとして言葉を飲み込んだのだった。
「……モニカ? まさか、泣いているのですか?」
ベッド脇の淡い灯りに照らされたモニカの目は、赤く腫れ、頬には涙の跡が残っていたのだった。
「あれ? 拭いたはずなのに、残っていましたか?」
ゴシゴシと手の甲で顔を拭くモニカの手を、マキウスは止めた。
「……リュド殿と何かありましたか?」
今のモニカが、ここまで泣いているのを見るのは始めてだった。
自然とマキウスの心臓は早くなった。
「何もありません。何も無かったんです……」
「なら、どうして貴方は泣いているのですか?」
「それは……」
マキウスの眉間が険しくなった。
リュドヴィックに対して憤り、頭に血が上ってきた。
「やはりリュド殿と何かあったのではないですか? 義理の兄とはいえ、妻を泣かせたのは許しません。今から私が抗議を……」
ベッドから立ち上がりかけたマキウスの腕を、身を起こしたモニカが慌てて掴んだ。
「違うんです! お兄ちゃんは何も悪くないんです!」
「なら、どうして貴女は泣いているのですか?」
マキウスはモニカをじっと見つめる。
すると、みるみる内にモニカの青色の両目に、涙が溢れて来たのだった。
「やっぱり、私はモニカじゃないんだって……。モニカになれないんだって」
「それは、どういう意味でしょうか……?」
モニカは涙を零し、嗚咽混じりになりながらも話してくれた。
「どんなに頑張っても、私は『モニカ』になれないんだってわかったんです。お兄ちゃんは『モニカ』を期待しているのに……。
私は『モニカ』じゃないから、お兄ちゃんが期待する『モニカ』になれないんです……!」
今夜も帰宅が遅くなってしまった。遅い時間の帰宅だからか、珍しくモニカの出迎えがなかった。
愛娘のニコラの様子を見に行くと、ニコラを看ていた乳母のアマンテから、モニカは既に夕食を済ませて、先に寝室で休んでいると教えられたのだった。
外から差し込む月明かりを頼りにベッドに目を凝らすと、一人分の膨らみがあった。
(もう、休んだのでしょうか……?)
マキウスは訝しんだ。
リュドヴィックが帰ってからモニカの様子がおかしいことは、帰宅時にペルラから聞かされていた。
途中まで、モニカたち兄妹の再会の場に立ち会っていたティカやアマンテからは、特に異常は無かったと聞いていたのだが。
(それとも、疲れて寝てしまったのでしょうか?)
モニカがリュドヴィックとどんな話をしたのか聞きたかったマキウスだが、当のモニカが疲れているのなら無理強いはしたくなかった。
(魔法石に魔力の補充だけしたら、邪魔をしないように私も休むとしましょう)
今晩は魔法石の補充以外、特にやらなければならない用事もない。
妻が休んでいるなら、魔力の補充が済み次第、自分も休むべきだろう。明日も朝から仕事がある。
モニカの邪魔をしないように、マキウスがそっとベッドに入った時だった。
「ん……」
「モニカ? すみません。起こしてしまいましたか?」
モニカを起こしてしまったかと、謝った時だった。
「……マキウス様? いつの間に帰って来たんですか?」
「少し前です。疲れているかと思ったので起こさなくていいと、使用人たちに伝えたのです」
「お出迎えもせずにすみません。気遣って頂いて……」
マキウスはベッド脇の灯りだけを点けた。
「リュド殿との時間はどうでした……」
「か?」と、言いながらモニカの顔を見たマキウスは、ハッとして言葉を飲み込んだのだった。
「……モニカ? まさか、泣いているのですか?」
ベッド脇の淡い灯りに照らされたモニカの目は、赤く腫れ、頬には涙の跡が残っていたのだった。
「あれ? 拭いたはずなのに、残っていましたか?」
ゴシゴシと手の甲で顔を拭くモニカの手を、マキウスは止めた。
「……リュド殿と何かありましたか?」
今のモニカが、ここまで泣いているのを見るのは始めてだった。
自然とマキウスの心臓は早くなった。
「何もありません。何も無かったんです……」
「なら、どうして貴方は泣いているのですか?」
「それは……」
マキウスの眉間が険しくなった。
リュドヴィックに対して憤り、頭に血が上ってきた。
「やはりリュド殿と何かあったのではないですか? 義理の兄とはいえ、妻を泣かせたのは許しません。今から私が抗議を……」
ベッドから立ち上がりかけたマキウスの腕を、身を起こしたモニカが慌てて掴んだ。
「違うんです! お兄ちゃんは何も悪くないんです!」
「なら、どうして貴女は泣いているのですか?」
マキウスはモニカをじっと見つめる。
すると、みるみる内にモニカの青色の両目に、涙が溢れて来たのだった。
「やっぱり、私はモニカじゃないんだって……。モニカになれないんだって」
「それは、どういう意味でしょうか……?」
モニカは涙を零し、嗚咽混じりになりながらも話してくれた。
「どんなに頑張っても、私は『モニカ』になれないんだってわかったんです。お兄ちゃんは『モニカ』を期待しているのに……。
私は『モニカ』じゃないから、お兄ちゃんが期待する『モニカ』になれないんです……!」
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