【第一部完結・改稿版】ハージェント家の天使

夜霞

文字の大きさ
148 / 247
第一部

「モニカ」になれない【2】

しおりを挟む
 マキウスはじっとモニカを見つめた。

「リュド殿が期待する『モニカ』ですか?」

 モニカは何度も頷いたのだった。

「お兄ちゃんは、一緒に暮らしていた頃の『モニカ』を求めていました。髪を切って欲しいと言われた時も」

 モニカがリュドヴィックに言われて、リュドヴィックの髪を切ろうとしていたのを、マキウスは使用人から聞いていた。
 そして、切らずに終わったことも。

「お兄ちゃんは『いつもの長さに切って欲しい』と言いました。一緒に暮らしていた頃のように。
 けれども、私はお兄ちゃんと一緒に暮らしていた『モニカ』じゃない。だから、お兄ちゃんが言っている『いつもの長さ』が、わからなかったんです……!」
「リュド殿に『いつもの長さがわからない。いつもの長さを教えて欲しい』とは、言わなかったんですか?」
「でも、それを言ったら、お兄ちゃんに私が『モニカ』じゃないって、バレてしまうじゃないですか……。私が「モニカ」じゃないって知ったら、お兄ちゃんはどう思うんだろうってーーどんな顔をするんだろうって……。そう考えたら、怖くなってしまって……」
「モニカ……」
「お兄ちゃんを悲しませたくないんです……! お兄ちゃんの期待を裏切りたくないんです! そんなこと、きっと『モニカ』は望んでいない!」

 モニカは両手で顔を覆って泣き出した。

「やっぱり、私は『モニカ』じゃないんです。『モニカ』になれないんです! それなのに、どうして私はモニカになったのでしょうか? モニカになれないのに、どうして私が……!」

 あの日、マキウスがモニカの正体を問い詰めた時、モニカは自身の中から『モニカ』が旅立つ際に、モニカを託されたと話していた。
「みんなを、よろしくね」と、言われたと。

「『モニカ』にならないといけないのに……『モニカ』の言う「みんな」の為にも。私が「モニカ」にならないといけないのに……」

 マキウスはモニカが顔を覆っていた両手首を掴んだ。
 ゆるゆるとモニカの両手を下ろさせると、そこには潤んだ青い目で、じっとマキウスを見つめてくるモニカがいたのだった。

「マキウス様……?」
「貴女は『モニカ』にはなれません。どんなに『モニカ』の真似や振りをしても。何故なら……」

 マキウスはそっと息をつくと、モニカに顔を近づけた。
 そうして、囁いたのだった。

「貴女は、『モニカ』ではないからです」

 モニカは大きく目を見開いた。

「そうですよね……。私では『モニカ』にはなれないですよね……」
「仮に貴女ではなく、私が『モニカ』の真似をしても、『モニカ』にはなれません。アマンテやアガタ、姉上、他の誰がやっても同じです。誰一人として、『モニカ』にはなれません」
「それは、どうして……?」

 マキウスはモニカの両頬を流れる涙を吸い取り、涙の跡を舌で舐めとると、そっと顔を離す。

「貴女がモニカを託されたのは、貴女が『モニカ』になる為ではありません」

 マキウスは「これはあくまで私の想像ですが……」と、前置きをしてから続ける。

「貴女がモニカを託され、貴女がモニカになったのは、貴女なりに『モニカ』の代わりに、みんなを見守って欲しかったからではないでしょうか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

処理中です...