216 / 247
第一部
★介添え【7】
しおりを挟む
「っは……!」
床に倒れた衝撃でマキウスの唇が離れ、ようやく息が出来た。
まとめてもらった金の髪が落ちてきて、隣で倒れるマキウスの髪にかかった。
「何を……するんですか……!?」
息も絶え絶えに起き上がりながら浴室の床に倒れているマキウスに問うと、モニカの金の髪をそっと払いながら起き上がる。
「油断して、貴女がずっと下を向いているからですよ」
「油断なんて……してないです!」
せっかく洗ってもらった髪が、また泡だらけになってしまった。
それを残念に思いながら、床に落ちたバスタオルを拾っていると、シャワーの音が聞こえてきた。
振り返ると、シャワーを持ったマキウスが肩から丁寧に湯を掛けてくれた。
「マキウス様も、びしょ濡れですね……」
何も身につけていなかった上半身には泡がついていた。
床に倒れた拍子に、ズボンだけでなく、限りなく白に近い灰色の髪までぐっしょり濡れてしまったようで、髪から落ちた幾つもの雫が、マキウスの頬を伝い落ちたのだった。
騎士として鍛えられたマキウスの上半身を凝視しそうになり、慌てて顔を背ける。
「これなら、最初から一緒に入るべきでしたね」
マキウスはモニカの背中や後ろ髪についた泡を流しながら納得したように返してきた。
胸元や腹部を洗い流すのにマキウスからシャワーを借りている間、服を脱ぐからとマキウスは一度浴室から出ていった。
「ふう……」
泡を流し終えると、解けた髪をまとめ直して、湯を張っていたバスタブに入る。
ようやく一人になれて安心したのも束の間、すぐにマキウスは戻ってきたのだった。
「もう戻ってき……」
扉を振り返ったマキウスを一目見たモニカは だったが、大きく目を見開くと、すぐに目を逸らした。
「き、着替えに行ったんじゃないんですか!?」
「服を脱ぐとは言いましたが、着替えるとは一言も言っていません」
「だ、だからって……! 裸なんて……!?」
服を脱いで戻ってきたマキウスは、腰にタオルを巻いただけの裸身であった。
魔力の明かりの下で見つめたマキウスの身体は、騎士だけあって無駄な肉のない、引き締まった体つきをしていた。
ほどよく筋肉もついた男らしい屈強な身体に、モニカは真っ赤になったのだった。
「照れているんですか?」
意地悪い笑みを浮かべたマキウスは、先程までモニカが使っていた椅子を引っ張ってくると、バスタブの隣に座る。
そして、バスタブに溜めた湯の中に、顎まで入っているモニカに手を伸ばすと、耳朶にそっと触れてきたのだった。
「こんなに耳まで真っ赤になって……」
「お、お湯が熱いだけです……」
マキウスの言う通り、羞恥で赤くなっているのを知られたくなくて虚勢を張ったが、夫にはバレているようだった。
小さく笑うと、耳朶を揉んできたのだった。
「湯が熱いなら、顎まで入らなくもいいのではありませんか?」
「入りたい気分なので……」
「そうやって、顔を赤らめる貴女も魅力的ですね」
顎を上げると、耳朶から手を離したマキウスはモニカの前髪にそっと触れてきた。
最初こそビクリと小さく肩を揺らしてしまったが、前髪を整えてくれるマキウスに身を委ねたのだった。
「まだ、怖いですか?」
「少しずつ慣れてきました。マキウス様ならいくら触られても平気です」
モニカが心に抱えている傷を気にしているのか、やはり時折気遣わしげに見つめてくる。
「そうですか……」
前髪から離れた掌が頬に触れた時、モニカは猫の様にマキウスの大きな掌に擦り寄った。
一瞬、アメシストの様な目を大きく見開いた後、満足そうに口元を緩めたようだった。
頬を触れていた掌は、顎、鎖骨、デコルテと下りていき、やがてモニカが胸元を隠しているバスタオルへと行きついた。
「マキウス様?」
バスタオルに触れたまま止まってしまったマキウスを不思議に思い、腰を浮かし掛けた時だった。
急に両手でバスタオルを掴んできたかと思うと、一気に引っ張られた。
「わわわ……」
慌ててバスタオルを押さえるが、非力なモニカが、屈強なマキウスに敵うはずがなかった。
「油断しましたね」
湯に浸かっていたこともあり、身体に巻いていたバスタオルは取れかかっていたようだった。
バスタオルが剥ぎ取られた先には、マキウスの悪戯めいた笑みがあったのだった。
床に倒れた衝撃でマキウスの唇が離れ、ようやく息が出来た。
まとめてもらった金の髪が落ちてきて、隣で倒れるマキウスの髪にかかった。
「何を……するんですか……!?」
息も絶え絶えに起き上がりながら浴室の床に倒れているマキウスに問うと、モニカの金の髪をそっと払いながら起き上がる。
「油断して、貴女がずっと下を向いているからですよ」
「油断なんて……してないです!」
せっかく洗ってもらった髪が、また泡だらけになってしまった。
それを残念に思いながら、床に落ちたバスタオルを拾っていると、シャワーの音が聞こえてきた。
振り返ると、シャワーを持ったマキウスが肩から丁寧に湯を掛けてくれた。
「マキウス様も、びしょ濡れですね……」
何も身につけていなかった上半身には泡がついていた。
床に倒れた拍子に、ズボンだけでなく、限りなく白に近い灰色の髪までぐっしょり濡れてしまったようで、髪から落ちた幾つもの雫が、マキウスの頬を伝い落ちたのだった。
騎士として鍛えられたマキウスの上半身を凝視しそうになり、慌てて顔を背ける。
「これなら、最初から一緒に入るべきでしたね」
マキウスはモニカの背中や後ろ髪についた泡を流しながら納得したように返してきた。
胸元や腹部を洗い流すのにマキウスからシャワーを借りている間、服を脱ぐからとマキウスは一度浴室から出ていった。
「ふう……」
泡を流し終えると、解けた髪をまとめ直して、湯を張っていたバスタブに入る。
ようやく一人になれて安心したのも束の間、すぐにマキウスは戻ってきたのだった。
「もう戻ってき……」
扉を振り返ったマキウスを一目見たモニカは だったが、大きく目を見開くと、すぐに目を逸らした。
「き、着替えに行ったんじゃないんですか!?」
「服を脱ぐとは言いましたが、着替えるとは一言も言っていません」
「だ、だからって……! 裸なんて……!?」
服を脱いで戻ってきたマキウスは、腰にタオルを巻いただけの裸身であった。
魔力の明かりの下で見つめたマキウスの身体は、騎士だけあって無駄な肉のない、引き締まった体つきをしていた。
ほどよく筋肉もついた男らしい屈強な身体に、モニカは真っ赤になったのだった。
「照れているんですか?」
意地悪い笑みを浮かべたマキウスは、先程までモニカが使っていた椅子を引っ張ってくると、バスタブの隣に座る。
そして、バスタブに溜めた湯の中に、顎まで入っているモニカに手を伸ばすと、耳朶にそっと触れてきたのだった。
「こんなに耳まで真っ赤になって……」
「お、お湯が熱いだけです……」
マキウスの言う通り、羞恥で赤くなっているのを知られたくなくて虚勢を張ったが、夫にはバレているようだった。
小さく笑うと、耳朶を揉んできたのだった。
「湯が熱いなら、顎まで入らなくもいいのではありませんか?」
「入りたい気分なので……」
「そうやって、顔を赤らめる貴女も魅力的ですね」
顎を上げると、耳朶から手を離したマキウスはモニカの前髪にそっと触れてきた。
最初こそビクリと小さく肩を揺らしてしまったが、前髪を整えてくれるマキウスに身を委ねたのだった。
「まだ、怖いですか?」
「少しずつ慣れてきました。マキウス様ならいくら触られても平気です」
モニカが心に抱えている傷を気にしているのか、やはり時折気遣わしげに見つめてくる。
「そうですか……」
前髪から離れた掌が頬に触れた時、モニカは猫の様にマキウスの大きな掌に擦り寄った。
一瞬、アメシストの様な目を大きく見開いた後、満足そうに口元を緩めたようだった。
頬を触れていた掌は、顎、鎖骨、デコルテと下りていき、やがてモニカが胸元を隠しているバスタオルへと行きついた。
「マキウス様?」
バスタオルに触れたまま止まってしまったマキウスを不思議に思い、腰を浮かし掛けた時だった。
急に両手でバスタオルを掴んできたかと思うと、一気に引っ張られた。
「わわわ……」
慌ててバスタオルを押さえるが、非力なモニカが、屈強なマキウスに敵うはずがなかった。
「油断しましたね」
湯に浸かっていたこともあり、身体に巻いていたバスタオルは取れかかっていたようだった。
バスタオルが剥ぎ取られた先には、マキウスの悪戯めいた笑みがあったのだった。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる