【第一部完結・改稿版】ハージェント家の天使

夜霞

文字の大きさ
219 / 247
第一部

★介添え【10】

しおりを挟む
 浴室から出ると、二人分の新しいバスタオルと共に白いバスローブが二着用意されていた。
 沐浴をしている間に、使用人が用意してくれたのだろうか。

(バスローブなんて、これまで着たことないから着方が分からない……)

 バスタオルを肩に掛けた後に、ふと気になって辺りを探す。
 いつもなら、替えの下着とネグリジェが用意されているが、今日はそれが見当たらなかった。
 念のため、先程まで着ていたドレスや下着を入れていた籠も確認したが、そちらは既に回収していったのか、籠の中は空っぽであった。
 ドレスを脱いでいる時は、替えの下着とネグリジェが置いてあったが、脱いだ服と一緒に間違えて回収されてしまったのだろうか。

「下着も沐浴に入る前は、置いてあったのにどうして……?」

 モニカが呟いた時、浴室の扉が開いて、腰にタオルを巻いたマキウスが出て来た。
 モニカが肩にバスタオルを掛けた状態で立ち尽くしているのを見ると、マキウスは目を剥いて近寄って来たのだった。

「風邪を引きますよ。早く身体を拭いて下さい」

 自分も濡れている中、マキウスはもう一枚のバスタオルでモニカの髪を拭いて、身体を拭いてくれる。
 力強く拭いてくれるマキウスに負けないように、モニカは声を張り上げたのだった。

「替えの下着とネグリジェが見当たらないんです。バスローブも着たことがないから、着方が分からなくて……」
「私を待っていてくれた訳じゃないんですね……」

 マキウスは不服そうに口を尖らせたようだが、モニカの身体を拭きながら説明してくれた。

「替えの服なら、使用人に命じて下げさせました。今夜は必要ないので」
「必要ないって、どういうことですか?」
「沐浴の前にも話した通り、私の愛おしい『天使』を目の前にして、気持ちを止められそうにありません。今夜から少しずつ慣れていきましょう」

 肩に掛けていたバスタオルを外し、バスローブを着せてくれながら「私に触れられるのは平気なんですよね?」と再確認される。
 モニカが頷くと、マキウスは満足そうな笑みを浮かべたのだった。

「だからって、今日からやるんですか……」
「なんでも早い方がいいんです。私も身体を拭くので、少しだけ待って下さい」

 手早く自分の身体と髪を拭いたマキウスだったが、白に近い灰色の長い髪からは、絶えなく雫が落ちていた。
 バスローブを着ている間に、モニカは自分が使っていたバスタオルを持つと、邪魔にならないように、そっと灰色の髪を拭いたのだった。

「モニカ?」

 不思議そうに振り返ったマキウスに、モニカは小さく微笑む。

「マキウス様も風邪を引きますよ」
「全く……」

 どこか照れているように見えたのは気のせいだろうか。何も言わなかったので、そのままマキウスの長い髪を拭き続ける。
 さすがに身長差があるので頭には手が届かなかったが、マキウスが背を向けてバスローブを着ている間、毛先を中心に拭いていったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

最後の女

蒲公英
恋愛
若すぎる妻を娶ったおっさんと、おっさんに嫁いだ若すぎる妻。夫婦らしくなるまでを、あれこれと。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...