【第一部完結・改稿版】ハージェント家の天使

夜霞

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おまけ

ブーゲンビリア侯爵と姉弟・下

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(思い返せば、あの時もペルラが私たちの元に的確にやって来たのは、お父様が呼んでくださったからですね)

 外の景色を眺めながら、ヴィオーラは物思いに耽っていた。
 店主が言っていた時だけではなかった。いつもヴィオーラやマキウスが父親と話した後、必ずと言っていい程、慌てた様子のペルラがやって来た。
 思い返すと、あれはいつも父親がペルラを呼んでくれたからではないだろうか。
 ヴィオーラも、マキウスも、泣きたい時は常に人目がつかないところに逃げ込んでいた。
 母親に叩かれたヴィオーラも、そんなヴィオーラを見て泣くマキウスも、いつも物陰でこっそり泣いていた。
 そんなところに、父親はやって来ては、厳しい言葉を投げかけた。ーーこれも大人になったいま思い返すと、愛のある厳しい言葉だったが。
 そうして、父親が立ち去ると、入れ違いに姉弟を探していたペルラがやって来てくれたのだった。

(あれは、もしかしたら、お父様なりの優しさだったのかもしれません)

 姉弟の母親の関係が悪い以上、父親が姉弟のどちらかを優遇すれば、もう片方は冷遇される。
 マキウスを優遇すればヴィオーラが、ヴィオーラを優遇すればマキウスが。
 常に姉弟のどちらかが、ヴィオーラの母親や、その取り巻きを始めとする周囲から冷遇されると、父親は考えたのだろう。
 そうならないように、姉弟が同時に優遇される方法を、父親も模索してくれていたのなら。

(けれども、私は考えてしまうのです。もう少し、お父様が私とマキウスのお母様、両者の仲に気を遣っていてくれたらと)

 もっと早い段階で、それこそ、ヴィオーラが生まれる前から、父親が正妻と妾の仲を取り持ってくれていたのなら、こういう悲しい関係にはならなかったのではないかと。
 マキウスの母親は亡くならず、マキウスは実家に戻されず、ヴィオーラの母親の「具合」もおかしくならなかったのではないだろうか。

「今となっては、もう過ぎた話ですね……」

 いつも厳しい言葉をかけてきた侯爵だったが、マキウスと砂糖菓子を分け合って食べ、加工職人に怪我を見られたあの時だけは、怪我を労わり、ヴィオーラの腫れた頬を優しく撫でてくれた。
 あの後、侯爵は騎士団の任務の途中で命を落とし、加工職人が無実の罪を被せられて罷免された。マキウスの母親は心労から亡くなり、後ろ盾の無くなったマキウスは地方にあるハージェント男爵家に引き取られた。
 全ては過ぎ去ったこと。父親の真意も、今は確かめる術さえなかった。

 ヴィオーラが小さく溜め息をつくと、丁度、馬車がブーゲンビリア侯爵家の屋敷に到着したようだった。
 屋敷の前で出迎えてくれたセルボーンが、馬車の扉を開けてくれた。
 ヴィオーラが馬車から降りると、空には一番星が輝き出していた。
 まるで父親の様に、ヴィオーラが手の届かない場所で輝く一番星に目を細めると、ヴィオーラは屋敷に入って行ったのだった。
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