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おまけ
ブーゲンビリア侯爵と姉弟ー過去ー【8】
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ヴィオーラの母親は、夫であるブーゲンビリア侯爵の前では、「具合が悪い時」に娘に当たることを隠そうとしていた。
ヴィオーラもそれを知っていたので、これまで父親の前では怪我を見られても「自分で転んだ」、「自分で怪我をした」と言って、母親のことをずっと黙っていたのだった。
けれども、そんな子供の嘘など侯爵である父親には通用しなかったのだろう。それか、ヴィオーラの母親の取り巻きでもある母親付きの使用人以外から既に聞いていたのか。
どこかでヴィオーラの怪我の正体を知っていたようで、父親はいつも言葉こそかけてこないが、痛ましげな視線を向けてきた。
この時の父親も呆れたように溜め息を吐いたのだった。
「マキウス、男なら泣いてばかりいるな。自分が悪くないのなら、もっと堂々としなさい」
「はい……」
「ヴィオーラにーー姉に何かあった時、守れるのは男であるお前だけだ。もっと強くなるんだ」
「お父様は、守ってくれないの……?」
「私はお前たちより長く生きている。ずっと一緒には居られない」
肩を落とした弟をヴィオーラが見つめていると、今度は「ヴィオーラ」と父親に声を掛けられた。
ヴィオーラが父親の方を振り向くと、父親はヴィオーラの腫れている右頰に手を添えたのだった。
「ヴィオーラ。お前はもう少し、姉として、女として、弟を想いやれ。我が母・シネンシスの様に、優しく慎ましやかな女性になりなさい」
「……はい」
ヴィオーラのミドルネームであるシネンシスは、父親の母親ーーヴィオーラから見れば祖母、の名前でもあった。
ヴィオーラが生まれる前に祖母は亡くなってしまったらしいが、ひとり息子の父親を大切に育てたとペルラから聞いたことがあった。
「お父様、あの……」
「後で薬を塗りなさい。これでは痕が残ってしまう。嫁入り前の女の顔に傷が残ってしまったら、私だけではなく、お前も困るだろう」
「私は困りません……」
「将来困るかもしれないぞ」
初めて触れた父親の手は冷たかった。ヴィオーラの腫れている頬が、熱を持っていたからかもしれない。
そんな父親の手を感じていると、父親の言葉ですっかり自信を無くして俯いていた息子に向かって、侯爵は先程よりも優しく声を掛けたのだった。
「マキウス、姉の後ろに隠れてばかりいないで、もっと強くなりなさい。将来的には、お前が私の跡を継ぐのだ」
「はい……」
「返事をする時は、相手の目を見てやるんだ。自分が何もやましくない時は特に」
「はい……!」
顔を上げて、力強く頷いたマキウスの頭を、父親は満足そうに撫でた。
滅多に見られない父親の微笑に姉弟が魅入っていると、父親は立ち上がった。
そうして、姉弟を置いて颯爽と去って行ったのだった。
姉弟が呆然として、父親が立ち去った方を見ていると、それから少しして、傷薬や軟膏の入った箱を持った二人の乳母のペルラが慌ててやって来たのだったーー。
ヴィオーラもそれを知っていたので、これまで父親の前では怪我を見られても「自分で転んだ」、「自分で怪我をした」と言って、母親のことをずっと黙っていたのだった。
けれども、そんな子供の嘘など侯爵である父親には通用しなかったのだろう。それか、ヴィオーラの母親の取り巻きでもある母親付きの使用人以外から既に聞いていたのか。
どこかでヴィオーラの怪我の正体を知っていたようで、父親はいつも言葉こそかけてこないが、痛ましげな視線を向けてきた。
この時の父親も呆れたように溜め息を吐いたのだった。
「マキウス、男なら泣いてばかりいるな。自分が悪くないのなら、もっと堂々としなさい」
「はい……」
「ヴィオーラにーー姉に何かあった時、守れるのは男であるお前だけだ。もっと強くなるんだ」
「お父様は、守ってくれないの……?」
「私はお前たちより長く生きている。ずっと一緒には居られない」
肩を落とした弟をヴィオーラが見つめていると、今度は「ヴィオーラ」と父親に声を掛けられた。
ヴィオーラが父親の方を振り向くと、父親はヴィオーラの腫れている右頰に手を添えたのだった。
「ヴィオーラ。お前はもう少し、姉として、女として、弟を想いやれ。我が母・シネンシスの様に、優しく慎ましやかな女性になりなさい」
「……はい」
ヴィオーラのミドルネームであるシネンシスは、父親の母親ーーヴィオーラから見れば祖母、の名前でもあった。
ヴィオーラが生まれる前に祖母は亡くなってしまったらしいが、ひとり息子の父親を大切に育てたとペルラから聞いたことがあった。
「お父様、あの……」
「後で薬を塗りなさい。これでは痕が残ってしまう。嫁入り前の女の顔に傷が残ってしまったら、私だけではなく、お前も困るだろう」
「私は困りません……」
「将来困るかもしれないぞ」
初めて触れた父親の手は冷たかった。ヴィオーラの腫れている頬が、熱を持っていたからかもしれない。
そんな父親の手を感じていると、父親の言葉ですっかり自信を無くして俯いていた息子に向かって、侯爵は先程よりも優しく声を掛けたのだった。
「マキウス、姉の後ろに隠れてばかりいないで、もっと強くなりなさい。将来的には、お前が私の跡を継ぐのだ」
「はい……」
「返事をする時は、相手の目を見てやるんだ。自分が何もやましくない時は特に」
「はい……!」
顔を上げて、力強く頷いたマキウスの頭を、父親は満足そうに撫でた。
滅多に見られない父親の微笑に姉弟が魅入っていると、父親は立ち上がった。
そうして、姉弟を置いて颯爽と去って行ったのだった。
姉弟が呆然として、父親が立ち去った方を見ていると、それから少しして、傷薬や軟膏の入った箱を持った二人の乳母のペルラが慌ててやって来たのだったーー。
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