ひこうき雲

みどり

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円天②

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遡ること数ヶ月前


2月初旬にゆいは冬休みで実家に帰省していた。

父親のレンは仕事で留守だった。


母・あいと祖母たちと久しぶりに食事をしている時に

ゆいはふと言った。


「ねぇ、ママ、私しばらくまだこの家に帰って来ていいかな?」

「いいに決まってるじゃないの。ここはゆいの家よ。」

「うん。ありがとう、ママ」

ゆいの祖母たち、マツとナミ、はなはいつもと違う雰囲気に何か察したが

黙っていた。


「ミチヒロ君と何かあったの?」

あいは聞いた。


「昨日、ミシマさんとご飯行った時に聞いたの。」


高校の卒業間近にゆいはファミリーレストランで短期アルバイトをしていた。

その頃大学生だったミシマは卒業後東京で就職し働いていた。

映像を撮影・製作する会社で、ミチヒロは大学卒業後ミシマのツテで入社していた。

当時のアルバイト仲間はそれぞれ別のことをしていたが

社会人になってからは、異職種会議として年に一度は集まり

情報交換やお互いの近況等話し合っていたので、繋がっていた。

職業柄、ゆいの従兄弟の杏たちと仕事をすることもあった。


帰国してすぐにゆいはミシマに呼び出され会った。


その時に、ミチヒロが他の女性と交際しており

ミシマは注意したがミチヒロに聞き入れられることはなく

「ゆいにちゃんと話せ」とだけ伝えたが「連絡はあったか?」

と言われた。


ゆいは、ミチヒロからはっきり聞いたわけではないが

知っている、と答えた。


年末年始の休暇に「どこ遊びに行く?」とミチヒロからメッセージが届いたが

ゆいは年末年始は仕事で、2月頃冬休みになることをミチヒロは知っているはずだ。

ゆいは、自分ではない誰かに送ったメッセージが間違って届いたとわかった。

なので、わざと「お正月は仕事だよ。」と返した。

ミチヒロからは「そうだよね。ゴメン、ゴメン」と返ってきたが

それで終了した。


ミシマはゆいを心配してのことだとわかっていたので

ゆいもその場は努めて明るく接した。


その後、ミチヒロからはパタリと連絡が無くなった。




ひと通りゆいから話を聞いたあいは「わかったわ」とだけ言い

それ以上何も言わなかった。

マツおばあちゃんは「問い詰めた方がいいんじゃない?」と言い

ナミおばあちゃんとはなおばあちゃんは

「ゆいの好きにすれば良い。私たちはいつもゆいの味方よ。忘れないで。」

と言った。


その後

ゆいからミチヒロに何か連絡しても

「忙しいんだよ!」

「何?オレはオマエのタクシーじゃねえし!」」

と冷たい反応をされるだけだった。


ミチヒロは事実を話すことはなかった。



ゆいは自分が高校生の頃ミチヒロに酷い態度をとっていたことを

思い出していた。

「自分のしたことはいつか自分に返ってくるって本当かな。」


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