空色のクレヨン

和歌さん

お寺の住職、哲宗(てっしゅう)の妻、和歌は
毎朝早起きしてお寺の門の前を掃き掃除していました。

ある日
和歌は寝坊してしまいました。

和歌より先に目覚めた哲宗は
和歌がぐっすり眠っているので
起こさずにそのままにしていました。

哲宗は朝ごはんを作り始めます。
もちろん和歌の分と
ネコたちの分も用意します。

お腹を空かせた雪とその子どもたちが
哲宗の周りに集まって来ました。

「あれ？てつさん、わかさんいないの？」

ソラは哲宗に聞きました。

「わかさんはまだ寝てるんだよ。
　たまにはゆっくり寝かせてあげようじゃないか。」

お母さんネコの雪がニャァと鳴きました。

「わたしはだれでもご飯をくれたらいいよ。」

「だってさ！」

ソラが哲宗に言いました。

「何だい？」

「お母さんは、ご飯が食べられたらいいから。ご飯をくれるのは
　てつさんでもわかさんでもどっちでもいいんだってさ！」

「そういうことか。てつさんがあげるご飯も美味しいぞ！　
　お待たせ。さぁ、食べな。」


オバケのソラはご飯を食べなくても
お腹が空かないのですが
ご飯を食べないとお母さんネコの雪が心配するので
いつも少しだけネコのご飯を食べていました。



「わぁ～。寝ぼうしちゃった！ごめんなさい。みんな！」

そこへ和歌があわてて走って来ました。

「なんだ。もう少し寝ててもよかったのに。」

哲宗が言いました。

「そうよ。さわがしくされたら落ち着いてご飯食べられないじゃないの。」

お母さんネコの雪がご飯を食べながらそう言いましたが
ソラはだまっていました。

「和歌さんも一緒に食べようよ。」

「うん。ありがと。てつさん。」

こうしてみんなで朝ごはんを一緒に食べました。



朝ごはんの片づけが終わった後
和歌はお寺の門の外に出て
掃除を始めました。

ソラは和歌について行きました。

ランドセルを背負った小学生たちが
門の前を通り過ぎて行きます。

和歌は掃除をしながら
子どもたちに声をかけます。

「おはよう。いってらっしゃい。」

子どもたちも挨拶を返します。

ソラは和歌の足下でそれをじっと見ていました。

「わぁ、かわいいネコ！」

誰かのひとことをきっかけに

ソラはあっという間に子どもたちに
囲まれてしまいました。


「ねぇねぇ、お姉さん、このネコなんて名前なの？」

「かわいい！だっこしてもいい？」

和歌は子どもたちから質問攻めにあってしまいました。

「この子の名前はソラっていうのよ。」

一度にたくさんの子どもたちに囲まれて
恥ずかしがり屋で怖がりなネコのソラは
和歌のズボンにしがみついていました。

「みんな、この子は恥ずかしがり屋さんなの。
　びっくりしちゃったみたい。」

ソラを抱き上げた和歌は子どもたちに言いました。

「そうだったんだ。」

「ごめんね。びっくりさせちゃって。」

「急にさわってごめんね。」

子どもたちは口々に言いました。



「ねぇ、お姉さん、この子、明日もここにいる？」

「ええ、もちろん！いるわよ。」

「わぁ～い。じゃあね、ソラ。行ってきます！」

「また明日ね。ソラ。」

子どもたちは学校へと向かいました。


小学生たちを見送った後
和歌が言いました。

「ソラ大丈夫？」

「うん。大丈夫だよ。」


部屋の中に入ると
哲宗が言いました。

「明日から掃除の時間を変えてみたらどうかな？」

和歌が言いました。

「私もそう思ってた！」