宝石達は夜に舞う

滝淵まり

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第1話 Do you know CARAT?

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夜20時45分、日本有数の美術館である大華道美術館には、おびただしい数の警官が動き回り、パトカーは忙しなくサイレンを鳴らしていた。
「松山警部、配置完了しました。」
「ご苦労。」
松山耕三、御年46歳。警視庁刑事部捜査二課所属。通称、鬼の目の松山。20年以上捜査を続けてきた松山警部の目は、いかなる隙も見逃さない。
「しかし警部、本当に奴らは来るのでしょうか?今どき予告状を出して盗むなんて…」
「わからん。ただ、予告状をわざわざ出すような奴だ。気を引き締めろ!」


今夜21時。大華道美術館所蔵、ブラッディ・アップルを頂きに参ります。
怪盗カラット


「予告の時間まであと1分です!」
警官の声と同時に、周囲の緊張も更に高まる。
「さぁ、こそ泥。お手並み拝見と行こうじゃないか。」
5、4、3、2、1
21時ジャスト。時計の長針が文字盤の12を指すと同時に、大華道美術館と真反対ほ方向で花火が上がった。
「な、なんだ!?」
打ち上がる花火に、その場にいる全員が気を取られてしまった。しかし、それがトラップだといち早く気づいたのは松山警部だった。
「しまった…あの花火は我々の注意を反らすためのトラップ。とすれば、もう既に奴らは…」
「よう、警察さん!」
美術館の屋上から声がした。声の主は月に照らされ美しく輝くブラッディ・アップルを持っている。横には1人ずつ並び、全員が黒ずくめ。
「怪盗カラット…」
「俺は名はダイヤ、怪盗カラットのリーダーを務めさせて頂いております。以後お見知りおきを。予告状通り、ブラッディ・アップルは頂戴致します。」
「貴様ら、ここから逃げられるとでも思ってるのか!」
「逃げられる見込みが無かったら、こんなことしてねぇって、警察さん。おっと、ちょうどマスコミの方々も来たようだしな、そろそろ帰るわ!」
ダイヤの右隣の男が喋り出した。
松山警部は後ろを振り返ると声の主の言う通り、沢山のマスコミが押し寄せてきた。
「あいつらだ!あいつらが怪盗カラットだ!」
「しっかり撮れよ!明日の朝刊の見出しだ!!」
マスコミ各社の食いつき様が凄まじい。それもそのはず、この現代に怪盗などと名乗る者は珍しい。このチャンスを逃すわけにはいかない
「それじゃあ、俺たちは帰らせて頂きます。じゃあな、また楽しもうぜ!」
そう言うと、怪盗カラットは突如現れたヘリコプターから吊るされたロープに掴まり、逃走した。
「奴らを追え!すぐに非常線を張れ、絶対に逃がすな!!」
警部の指示の元、警官達が蜘蛛の子を散らすように、パトカーに乗り込みカラットを追いかけた。
「怪盗カラット…楽しませてくれそうだ。」
警部の目は相変わらず鬼のように、厳しい。しかし、口元は微かに笑っていた。


翌日、新聞各紙には1面に怪盗カラットの記事が飾られていた。顔はブラッディ・アップルを持っていた男しか映っていなかった。

「へぇ~、怪盗ねぇ。現代の、しかも日本にいるとは。」

「すげぇー、怪盗とかマジでカッコいい…」

「ねぇお母さん!このお兄さんとこの間喋ったんだよ!」

「怪盗カラット、面倒させてくれる。次は我々の番だ。覚悟しろよ、ガキども。」

様々な意見や思惑が交わるなか、怪盗カラットは世間を騒がす有名人になっていた。


同じ頃、とあるバーでは。
「おい、見ろよ!今日の新聞、俺達のことばっかだぜ!」
「そりゃ、あれだけ派手に盗めば注目だって浴びますよ。」
「色んな雑誌にもたっくさん俺達のこと載っとったわ。まぁ、悪い気はせぇへんけどな。」
「これでよかったの?ダイヤ。」
「あぁ、派手にやってこそ怪盗。そしてそんな怪盗に、素晴らしい好敵手が欲しいものだねぇ。」
そう言いながら目の前の机に放った書類は、松山警部の顔写真と調査報告書だった。
「そんなの要りませんよ。敵を増やしたくありませんからね。それにダイヤ、あなたは顔が知られてしまってるんですから、気をつけてくださいね。」
肩をすくめるダイヤ。
「まぁいいじゃないか。こうして、ブラッディ・アップルは手に入ったんだ。俺達の計画に狂いは無いさ。」
ブラッディ・アップルを手に持ち、眺めるダイヤの目はどこか遠くを見つめているようだった。



この時、彼らはまだ気づいていなかった。怪盗カラットが巨大な陰謀の渦に巻き込まれていることに。
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