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第一章
魔法を見た
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お風呂を出たら、そこにはまだアグニーがいた。どうやら待っていてくれたみたいだ。
俺をみるや否や満面の笑みで親指を立てる。
「気持ちよかったですか?」
「うん」
俺の声とは真反対の声の大きさに少し頬が綻…んだと思う。俺も親指をたてて返した。
「さっこっちに来てください、髪を乾かしますから」
アグニーの前にあるソファを示しながら俺を呼ぶ。俺はそれに応じて、その席に座った。
(どうやって乾かすんだろう)
見る限り手にドライヤーらしきものは持っていない。
その疑問はアグニーが詠唱を初めて分かった。
「ワーム」
ブワっと髪の毛が舞い水滴が辺りに散っていく。それは俺が初めて現実で見た魔法だ。
頭皮に感じる少し熱い風は前世を思い出させる。
(よくやってもらったな)
手術後で手が動かない時とかは看護師さんに乾かしてもらった。その時は勿論ドライヤーだ。
「すごい」
本当はもう少し感想を伝えたいところだが、そこまでは口が回らないので端的に。
「ありがとうございます。まぁ風魔法は得意じゃないのでこのくらいが精々なんですけどね」
そう言って照れくさそうに笑って言葉を紡いだ。
このくらいとアグニーは言ったが、魔法を使えない俺にとってはもう既に凄いのだ。
(俺にも使えるかな?いや、使えるか)
ゲーム内でのジュンは魔法が得意だった。しかしながら、その実力は王太子には敵わず嫉妬するのだが。
「それにしても髪の毛がさらさらですねぇ…俺は癖っ毛なんでかなり羨ましいです。はい!乾きましたよ」
「ありがとう」
アグニーに感謝を告げて、乾いた髪を触る。確かにさらさらだった。
「では、いつでも呼んでください!」
そう言ってアグニーは部屋から出ていった。最後まで元気溌剌だったので、少し部屋が静かに感じた。
しかしその時間も一瞬。入れ替わりで人が入って来る。
「邪魔するわ」
そう、ビビアンだ。
済ました顔で入って来たビビアンだが、おれをみるなり何やら瞳をキラキラさせる。
「その服懐かしいわ…まだあったのね」
「!?」
その言葉に驚いた後、自分が着ている服を確認する。
全体的に紺を基調としてできていて、ところどころに白色と黄色の刺繡がかっこよく施されている。胸元にはリボンが飾ってあるが、それもかわいいよりもかっこいいという方が近いだろう。
明らかに女児が着るデザインではない。どちらかといえば男児が着るような服である。
(これをビビアンが着ていた…?)
意味が分からず、頭がこんがらがってくる。思わず俺は眉をひそめる。
それに気付いたのか、ビビアンは気まずそうな顔を作った。
「これは、まだいうべきじゃなかったかな…」
「…?」
何を言っているのかがよく聞こえなかった。聞き返したい気持ちもあるが、おそらくはぐらかされるだろう。何よりも喋る体力も残ってない。
「あ…」
だんだんと目の前がぼやけてきた、頭もなんだか動かないし、
「ジュン…⁉どう──」
「おやすみ…」
(今日はもう疲れちゃった…何の用か聞かないでごめんね、ビビアン…)
***
「おやすみ」
そう呟いて彼は寝た。紛らわしい寝方に少しの苛立ちを覚えながらも、確かに自分も疲れたなと感じる。
(この家を紹介するのはかなり根が折れた。)
この部屋に来たのには理由があったのだが、寝ている人物を起こすほどではない。自分は起こさないようにジュンを抱っこしベッドへと運ぶ。しかし、想像していたよりも軽く、逆によたってしまう。
「…小さい」
もとからこじんまりとしていた体はベッドに置いたことによりさらに際立った。
明らかにおかしいだろう、腕の太さに軽さ。それに身長だってそうだ。全体的にかなり貧相なものである。
しかし、顔だけはいい。こちらは平均以上、いや王太子にだって並べるレベルだ。そこだけはきれいに管理していたのだろう。
(どうして…?無表情も関係しているのか…?)
そこからの考察ができるほどまだ自分は大人ではないのだと自覚をする。
(…虐めようと思ってたのに)
俺をみるや否や満面の笑みで親指を立てる。
「気持ちよかったですか?」
「うん」
俺の声とは真反対の声の大きさに少し頬が綻…んだと思う。俺も親指をたてて返した。
「さっこっちに来てください、髪を乾かしますから」
アグニーの前にあるソファを示しながら俺を呼ぶ。俺はそれに応じて、その席に座った。
(どうやって乾かすんだろう)
見る限り手にドライヤーらしきものは持っていない。
その疑問はアグニーが詠唱を初めて分かった。
「ワーム」
ブワっと髪の毛が舞い水滴が辺りに散っていく。それは俺が初めて現実で見た魔法だ。
頭皮に感じる少し熱い風は前世を思い出させる。
(よくやってもらったな)
手術後で手が動かない時とかは看護師さんに乾かしてもらった。その時は勿論ドライヤーだ。
「すごい」
本当はもう少し感想を伝えたいところだが、そこまでは口が回らないので端的に。
「ありがとうございます。まぁ風魔法は得意じゃないのでこのくらいが精々なんですけどね」
そう言って照れくさそうに笑って言葉を紡いだ。
このくらいとアグニーは言ったが、魔法を使えない俺にとってはもう既に凄いのだ。
(俺にも使えるかな?いや、使えるか)
ゲーム内でのジュンは魔法が得意だった。しかしながら、その実力は王太子には敵わず嫉妬するのだが。
「それにしても髪の毛がさらさらですねぇ…俺は癖っ毛なんでかなり羨ましいです。はい!乾きましたよ」
「ありがとう」
アグニーに感謝を告げて、乾いた髪を触る。確かにさらさらだった。
「では、いつでも呼んでください!」
そう言ってアグニーは部屋から出ていった。最後まで元気溌剌だったので、少し部屋が静かに感じた。
しかしその時間も一瞬。入れ替わりで人が入って来る。
「邪魔するわ」
そう、ビビアンだ。
済ました顔で入って来たビビアンだが、おれをみるなり何やら瞳をキラキラさせる。
「その服懐かしいわ…まだあったのね」
「!?」
その言葉に驚いた後、自分が着ている服を確認する。
全体的に紺を基調としてできていて、ところどころに白色と黄色の刺繡がかっこよく施されている。胸元にはリボンが飾ってあるが、それもかわいいよりもかっこいいという方が近いだろう。
明らかに女児が着るデザインではない。どちらかといえば男児が着るような服である。
(これをビビアンが着ていた…?)
意味が分からず、頭がこんがらがってくる。思わず俺は眉をひそめる。
それに気付いたのか、ビビアンは気まずそうな顔を作った。
「これは、まだいうべきじゃなかったかな…」
「…?」
何を言っているのかがよく聞こえなかった。聞き返したい気持ちもあるが、おそらくはぐらかされるだろう。何よりも喋る体力も残ってない。
「あ…」
だんだんと目の前がぼやけてきた、頭もなんだか動かないし、
「ジュン…⁉どう──」
「おやすみ…」
(今日はもう疲れちゃった…何の用か聞かないでごめんね、ビビアン…)
***
「おやすみ」
そう呟いて彼は寝た。紛らわしい寝方に少しの苛立ちを覚えながらも、確かに自分も疲れたなと感じる。
(この家を紹介するのはかなり根が折れた。)
この部屋に来たのには理由があったのだが、寝ている人物を起こすほどではない。自分は起こさないようにジュンを抱っこしベッドへと運ぶ。しかし、想像していたよりも軽く、逆によたってしまう。
「…小さい」
もとからこじんまりとしていた体はベッドに置いたことによりさらに際立った。
明らかにおかしいだろう、腕の太さに軽さ。それに身長だってそうだ。全体的にかなり貧相なものである。
しかし、顔だけはいい。こちらは平均以上、いや王太子にだって並べるレベルだ。そこだけはきれいに管理していたのだろう。
(どうして…?無表情も関係しているのか…?)
そこからの考察ができるほどまだ自分は大人ではないのだと自覚をする。
(…虐めようと思ってたのに)
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