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冷めた芋も
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重い気分で帰宅したラビは家の前にハウザー家の馬車がないことに気がついた。
「帰ったのだろうか……」
棚の上に置いたカップがない。アーデルが片付けたのかもしれない。ココは帰った。そう考えてもいいのかもしれないが、ラビの身体は馬車から降りようとはしなかった。
彼が家に帰ったならいい。だが、アーデルも一緒だったら? 家に入ったらキッチンに洗われたカップが三つあるだけでアーデルはいない。アーデルのことだからきっとテーブルの上に書き置き一枚残して入るだろうが、それを読んで自分がどういう気持ちになるか容易に想像がついていたから家の中に入ろうとしない。
「ラビ皇子、いかがなさいました?」
心配した御者がかける声にハッとして慌てて馬車を降りた。
ココが持ってきた芋の入った箱が棚の側に置かれている。食べたかったのか、ただ二人の輪に入っていたかったのかはわからないが、それを見ながら残念に思う自分に溜息をつく。
「僕はなんてクソみたいな人間なんだ……」
この箱の中に入って膝を抱えたい気分だった。
自分の家は確かに狭いが、膝を抱えたところで自分の身の丈に合っているとは思えない。自分の身の丈に合う場所は芋が入るような箱の中だと自虐するラビの耳にドアが開く音が聞こえた。
「ラビ皇子?」
馬車が止まる音を聞いて窓から見ていたが、なかなか入ってこないラビを心配したアーデルが迎えに出てきた。一瞬で全身に緊張が走り、身体が強張る。
「い、いらしたのですね!」
「ええ、ここが自宅ですので」
不思議そうな表情でこちらを見ているアーデルに口許が緩むのを感じて唇を内側に引っ込めながら何度も頷く。
「何をされているのですか?」
「い、いえ、何も! 何もしていません! ただ箱を見ていただけです!」
「箱を? お芋しか入っていませんよ?」
笑ってくれるアーデルが家にいたことに安堵して地面を蹴って三段飛ばして上がった。一気に距離が縮まったことにアーデルが驚くもすぐにドアを大きく開けて中へと誘う。
外の気温とは真逆の上着を必要としない暖かな空気にホッと息を吐き出したラビがコートハンガーに上着をかけて暖炉の前に行く。
「あ、あれ?」
「どうしました?」
「ココ・ハウザーさんがいない……」
てっきり家の中に移動したのだと思っていたラビがアーデルに振り返るとアーデルは首を傾げた。
「もうとっくに帰りましたよ?」
「え……」
「皇子がシャンディさんの家に行ってから三十分後ぐらいに帰りました」
「ど、どうして!?」
「彼は結婚祝いを届けに来ただけで、長居するつもりはなかったそうです。午後から新たにパイプを作った国との会議があるらしくて、それで時間を早めて訪ねて来たんだとか」
ラビの顔が青ざめる。彼が世界一多忙な経営者だと言われていることは知っていた。今日の訪問も多忙の中、時間を作って来てくれたのだと容易に想像がつくのに自分はまともな会話もしないまま、もてなすこともしないまま家を離れた。きっと結婚式に予定が合わなかったからと二人の結婚を祝いに来てくれたのに時間が取れた今日やって来てくれたはずなのに。
なんてことをしてしまったのかと後悔に身体の動きだけではなく瞬きも呼吸さえも止めたラビをアーデルが心配する。
「ラビ皇子?」
固まったまま動かないラビの顔を覗き込もうにも廊下が狭くて横を通って前に回り込むことができない。
「ラビ皇子」
トントンと肩を叩くも返事はない。一体どうしてしまったのかと首を傾げるアーデルにラビが突然振り向いた。
「キャアッ!」
「わああッ!! ご、ごめんなさい!!」
「だ、大丈夫です! ど、どうしました!?」
あまりの勢いに夜盗にでも襲われたかのような悲鳴を上げたアーデルにラビまで驚いた。互いに心臓をバクバクと大きな音を立てさせながら顔を見合わせる。
「ぼ、僕はなんてことを……! 多忙であるココ・ハウザー氏になんのおもてなしもしないまま家を離れてしまった! あまつさえ夕方まであなたを一人にして僕は何を……!」
膝をついたと思うと両手まで床について四つん這いになったラビが地面に額をつけるのに一秒も掛からなかった。
「も、もももも申し訳ございま──」
「ラビ皇子、立ってください」
「は、はい!」
飛び跳ねるように立ち上がったラビはアーデルの声に恐怖を覚えていた。土下座はしないと約束した。してほしいと思ったことは一度もないし、これからもきっと思うことはないから土下座はするなと言われていたのにやってしまった。
「彼はあなたにお会いできたことを喜んでいました。式典でもなかなかお会いできないからレアだと」
「レア……僕が……?」
「豪傑であるあなたの武勇伝を聞いてみたかったとも言っていました」
「ぼ、僕に武勇伝なんてありません!」
「彼はなぜあなたが根暗だと呼ばれているのかがわからないと言っていました。ラビ・ワーナーは強くて、勇敢で、心優しい人なのにと」
「そ、そんな、僕なんて……」
褒められるような人間ではないと何度もかぶりを振るラビにアーデルも同じようにかぶりを振った。
「あなたはとても優しい人です。それは妻である私もとてもよく感じていることです」
褒められることのない人生を生きてきた自分を日の浅い付き合いしかしていない二人がこんなに褒めてくれることにどう反応していいのかわからない。ココのことは何も知らないが、アーデルは嘘つきではない。その言葉は嘘ではないだろう。ただ、褒められてそれを受け入れることに慣れていないラビは視線を彷徨わせる。その様子にアーデルがクスッと笑った。
「皇子が淹れてくださった珈琲がとても美味しいと絶賛していましたよ。もし秘伝でなければ淹れ方を手紙に書いて送ってほしいとまで」
「あ、あんなのでよかったらいくらでも……」
「それからこれを」
「あ……」
ソファーの前のテーブルを指すアーデルを目で追うと見つけたのは皿の上に乗った芋。
「焼きたてはもちろんですが、ココが見つけてくるお芋は冷めても美味しいんですよ。だからラビ皇子が帰ったら絶対に食べさせてくれって」
「ぼ、僕の分、ですか?」
「そうです」
「あ、あなたは食べないのですか?」
シートを叩いてソファーに座るよう促すアーデルに従って腰掛けると芋が一本しかないことに対して問いかけるとアーデルが珍しく視線を逸らした。アーデルもよく顔ではなく少し視線を外して話す癖があるが、こうしてあからさまなまでに外すことは少ない。どうしたのかと問いかけると俯いた。
「アーデル?」
「……も……ま、した……」
「え?」
ゴニョゴニョと話す言葉を聞き取れず、少し屈んで耳を傾けるとまたゴニョゴニョとアーデルが口を動かす。
「三本も、食べた、ので……」
目を瞬かせていたラビが数秒後、堰を切ったように笑いだした。初めて見るラビの爆笑する姿だが、理由が理由なだけにアーデルの顔が一気に赤く染まっていく。
「食べてみてください! 絶対に一本じゃ足りないって言いますよ! 二本でも三本でもペロリと食べちゃうぐらい美味しいお芋なんですから!」
「すぐ食べます」
「わ、私が食いしん坊なわけではありませんから!」
「僕は食いしん坊なのでたぶん五本は食べられると思います」
少食で小口だと思っていた相手は意外にも大口で食べる大食漢。あれもこれもと手を伸ばしては大きな口へと詰め込んでいく。それがこの細い身体に吸収されてしまうのだから毎日の生活の中で唯一不思議さが消えない光景でもある。
半分に割った焼き芋を皮も剥かないままかぶりついた瞬間に目を見開いた。早すぎる反応だが、咀嚼せずともわかる甘さ。甘い匂いと噛んだ瞬間に舌に触れたねっとりとした食感から伝わってくる甘味。彼が蜜芋と呼ぶのも納得だと思うほどに甘くて美味しかった。
大きな芋だった。それこそアーデルの片手では手に余るほどの太さがあったのに半分を三口で食べてしまったラビの口の大きさに驚いてしまう。驚いている間に残りも三口で食べてしまった。
「お、お水どうぞ!」
「ありがとうございます。パサついてないので口の中の水分が持っていかれなくていいですね」
水瓶の中に溜めている汲んできた山水をカップに入れて持ってきたアーデルから受け取って一気に飲み干したラビの満足げな笑顔につられてアーデルも笑顔になる。
「本当に美味しくて何本でも食べられそうです。五本は食べられそうだ」
「じゃあ明日も焼き芋しませんか? 焼き方はココが書き残してくれたんです。ラビ皇子に焼きたても食べてもらいたいからって。焼きたても本当にすっごく美味しいですから」
「楽しみです。たくさん焼きましょう」
「はい」
ラビは自分が全ての物事に対してネガティブすぎる事と臆病すぎる事に嫌気がさすことは何度もあったが、これほどまでに申し訳ないと感じたのは初めてだった。一人でショックを受けて、暴走して、やるべき事を疎かにした。それは相手が王族貴族でなくとも失礼であることに変わりない。
優しいのは自分ではなく彼ら二人である。こんな自分を優しいと言ってくれるのだから。ありがたくて涙が出そうだった。
その日の夜、ラビはハウザー家に手紙を出した。宛先はもちろんココ・ハウザー。今日の無礼と芋のお礼と感想。珈琲の淹れ方とオススメの銘柄。そして、次は焼きたてと淹れたてを一緒に味わえたらともてなす準備をしておくことを約束事として書いた。
「お菓子、たくさん食べてくださいね」
「はい」
寝室の隅に置かれた箱の中にある大量のハウザーのお菓子。蓋を開けるともはやそれは宝箱のようで、いつまで見ていても飽きることはない。
「明日のお芋、楽しみですね」
「はい。すごく楽しみです」
そう言って二人は枕元の電気を消した。明日も今日みたいな気持ちのいい晴れである事を祈りながら心地の良い眠りについた。
「帰ったのだろうか……」
棚の上に置いたカップがない。アーデルが片付けたのかもしれない。ココは帰った。そう考えてもいいのかもしれないが、ラビの身体は馬車から降りようとはしなかった。
彼が家に帰ったならいい。だが、アーデルも一緒だったら? 家に入ったらキッチンに洗われたカップが三つあるだけでアーデルはいない。アーデルのことだからきっとテーブルの上に書き置き一枚残して入るだろうが、それを読んで自分がどういう気持ちになるか容易に想像がついていたから家の中に入ろうとしない。
「ラビ皇子、いかがなさいました?」
心配した御者がかける声にハッとして慌てて馬車を降りた。
ココが持ってきた芋の入った箱が棚の側に置かれている。食べたかったのか、ただ二人の輪に入っていたかったのかはわからないが、それを見ながら残念に思う自分に溜息をつく。
「僕はなんてクソみたいな人間なんだ……」
この箱の中に入って膝を抱えたい気分だった。
自分の家は確かに狭いが、膝を抱えたところで自分の身の丈に合っているとは思えない。自分の身の丈に合う場所は芋が入るような箱の中だと自虐するラビの耳にドアが開く音が聞こえた。
「ラビ皇子?」
馬車が止まる音を聞いて窓から見ていたが、なかなか入ってこないラビを心配したアーデルが迎えに出てきた。一瞬で全身に緊張が走り、身体が強張る。
「い、いらしたのですね!」
「ええ、ここが自宅ですので」
不思議そうな表情でこちらを見ているアーデルに口許が緩むのを感じて唇を内側に引っ込めながら何度も頷く。
「何をされているのですか?」
「い、いえ、何も! 何もしていません! ただ箱を見ていただけです!」
「箱を? お芋しか入っていませんよ?」
笑ってくれるアーデルが家にいたことに安堵して地面を蹴って三段飛ばして上がった。一気に距離が縮まったことにアーデルが驚くもすぐにドアを大きく開けて中へと誘う。
外の気温とは真逆の上着を必要としない暖かな空気にホッと息を吐き出したラビがコートハンガーに上着をかけて暖炉の前に行く。
「あ、あれ?」
「どうしました?」
「ココ・ハウザーさんがいない……」
てっきり家の中に移動したのだと思っていたラビがアーデルに振り返るとアーデルは首を傾げた。
「もうとっくに帰りましたよ?」
「え……」
「皇子がシャンディさんの家に行ってから三十分後ぐらいに帰りました」
「ど、どうして!?」
「彼は結婚祝いを届けに来ただけで、長居するつもりはなかったそうです。午後から新たにパイプを作った国との会議があるらしくて、それで時間を早めて訪ねて来たんだとか」
ラビの顔が青ざめる。彼が世界一多忙な経営者だと言われていることは知っていた。今日の訪問も多忙の中、時間を作って来てくれたのだと容易に想像がつくのに自分はまともな会話もしないまま、もてなすこともしないまま家を離れた。きっと結婚式に予定が合わなかったからと二人の結婚を祝いに来てくれたのに時間が取れた今日やって来てくれたはずなのに。
なんてことをしてしまったのかと後悔に身体の動きだけではなく瞬きも呼吸さえも止めたラビをアーデルが心配する。
「ラビ皇子?」
固まったまま動かないラビの顔を覗き込もうにも廊下が狭くて横を通って前に回り込むことができない。
「ラビ皇子」
トントンと肩を叩くも返事はない。一体どうしてしまったのかと首を傾げるアーデルにラビが突然振り向いた。
「キャアッ!」
「わああッ!! ご、ごめんなさい!!」
「だ、大丈夫です! ど、どうしました!?」
あまりの勢いに夜盗にでも襲われたかのような悲鳴を上げたアーデルにラビまで驚いた。互いに心臓をバクバクと大きな音を立てさせながら顔を見合わせる。
「ぼ、僕はなんてことを……! 多忙であるココ・ハウザー氏になんのおもてなしもしないまま家を離れてしまった! あまつさえ夕方まであなたを一人にして僕は何を……!」
膝をついたと思うと両手まで床について四つん這いになったラビが地面に額をつけるのに一秒も掛からなかった。
「も、もももも申し訳ございま──」
「ラビ皇子、立ってください」
「は、はい!」
飛び跳ねるように立ち上がったラビはアーデルの声に恐怖を覚えていた。土下座はしないと約束した。してほしいと思ったことは一度もないし、これからもきっと思うことはないから土下座はするなと言われていたのにやってしまった。
「彼はあなたにお会いできたことを喜んでいました。式典でもなかなかお会いできないからレアだと」
「レア……僕が……?」
「豪傑であるあなたの武勇伝を聞いてみたかったとも言っていました」
「ぼ、僕に武勇伝なんてありません!」
「彼はなぜあなたが根暗だと呼ばれているのかがわからないと言っていました。ラビ・ワーナーは強くて、勇敢で、心優しい人なのにと」
「そ、そんな、僕なんて……」
褒められるような人間ではないと何度もかぶりを振るラビにアーデルも同じようにかぶりを振った。
「あなたはとても優しい人です。それは妻である私もとてもよく感じていることです」
褒められることのない人生を生きてきた自分を日の浅い付き合いしかしていない二人がこんなに褒めてくれることにどう反応していいのかわからない。ココのことは何も知らないが、アーデルは嘘つきではない。その言葉は嘘ではないだろう。ただ、褒められてそれを受け入れることに慣れていないラビは視線を彷徨わせる。その様子にアーデルがクスッと笑った。
「皇子が淹れてくださった珈琲がとても美味しいと絶賛していましたよ。もし秘伝でなければ淹れ方を手紙に書いて送ってほしいとまで」
「あ、あんなのでよかったらいくらでも……」
「それからこれを」
「あ……」
ソファーの前のテーブルを指すアーデルを目で追うと見つけたのは皿の上に乗った芋。
「焼きたてはもちろんですが、ココが見つけてくるお芋は冷めても美味しいんですよ。だからラビ皇子が帰ったら絶対に食べさせてくれって」
「ぼ、僕の分、ですか?」
「そうです」
「あ、あなたは食べないのですか?」
シートを叩いてソファーに座るよう促すアーデルに従って腰掛けると芋が一本しかないことに対して問いかけるとアーデルが珍しく視線を逸らした。アーデルもよく顔ではなく少し視線を外して話す癖があるが、こうしてあからさまなまでに外すことは少ない。どうしたのかと問いかけると俯いた。
「アーデル?」
「……も……ま、した……」
「え?」
ゴニョゴニョと話す言葉を聞き取れず、少し屈んで耳を傾けるとまたゴニョゴニョとアーデルが口を動かす。
「三本も、食べた、ので……」
目を瞬かせていたラビが数秒後、堰を切ったように笑いだした。初めて見るラビの爆笑する姿だが、理由が理由なだけにアーデルの顔が一気に赤く染まっていく。
「食べてみてください! 絶対に一本じゃ足りないって言いますよ! 二本でも三本でもペロリと食べちゃうぐらい美味しいお芋なんですから!」
「すぐ食べます」
「わ、私が食いしん坊なわけではありませんから!」
「僕は食いしん坊なのでたぶん五本は食べられると思います」
少食で小口だと思っていた相手は意外にも大口で食べる大食漢。あれもこれもと手を伸ばしては大きな口へと詰め込んでいく。それがこの細い身体に吸収されてしまうのだから毎日の生活の中で唯一不思議さが消えない光景でもある。
半分に割った焼き芋を皮も剥かないままかぶりついた瞬間に目を見開いた。早すぎる反応だが、咀嚼せずともわかる甘さ。甘い匂いと噛んだ瞬間に舌に触れたねっとりとした食感から伝わってくる甘味。彼が蜜芋と呼ぶのも納得だと思うほどに甘くて美味しかった。
大きな芋だった。それこそアーデルの片手では手に余るほどの太さがあったのに半分を三口で食べてしまったラビの口の大きさに驚いてしまう。驚いている間に残りも三口で食べてしまった。
「お、お水どうぞ!」
「ありがとうございます。パサついてないので口の中の水分が持っていかれなくていいですね」
水瓶の中に溜めている汲んできた山水をカップに入れて持ってきたアーデルから受け取って一気に飲み干したラビの満足げな笑顔につられてアーデルも笑顔になる。
「本当に美味しくて何本でも食べられそうです。五本は食べられそうだ」
「じゃあ明日も焼き芋しませんか? 焼き方はココが書き残してくれたんです。ラビ皇子に焼きたても食べてもらいたいからって。焼きたても本当にすっごく美味しいですから」
「楽しみです。たくさん焼きましょう」
「はい」
ラビは自分が全ての物事に対してネガティブすぎる事と臆病すぎる事に嫌気がさすことは何度もあったが、これほどまでに申し訳ないと感じたのは初めてだった。一人でショックを受けて、暴走して、やるべき事を疎かにした。それは相手が王族貴族でなくとも失礼であることに変わりない。
優しいのは自分ではなく彼ら二人である。こんな自分を優しいと言ってくれるのだから。ありがたくて涙が出そうだった。
その日の夜、ラビはハウザー家に手紙を出した。宛先はもちろんココ・ハウザー。今日の無礼と芋のお礼と感想。珈琲の淹れ方とオススメの銘柄。そして、次は焼きたてと淹れたてを一緒に味わえたらともてなす準備をしておくことを約束事として書いた。
「お菓子、たくさん食べてくださいね」
「はい」
寝室の隅に置かれた箱の中にある大量のハウザーのお菓子。蓋を開けるともはやそれは宝箱のようで、いつまで見ていても飽きることはない。
「明日のお芋、楽しみですね」
「はい。すごく楽しみです」
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