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誰がための2
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ソファーに腰掛けたラビにストールをかけるとアーデルは紅茶を淹れにキッチンへと入った。湯を沸かしている間に悶々と考える。
タイミングまではわからなかったものの、彼はシャンディがいつかこういう行動に出てしまう事をわかっていたのではないだろうか。
自殺を図ったという知らせにラビは『どうしてここまで』と言った。何も知らなければ『どうして自殺なんて』と言うのではないか。でもラビは驚きよりも悔しさが勝っているように見えた。
茶葉を蒸らしている間の時間はアーデルにとって美味しい紅茶を待つ楽しい時間だったのに、今は何も感じない。ティーポットの中で揺れる茶葉を見つめた後、蓋をした。
「少し飲んで落ち着きませんか?」
頃合いを見計らって紅茶を注いだカップをラビの前に置くと深呼吸をしてから一口だけ飲んですぐにカップを置いた。
「ラビ皇子……」
「旅行に、行きませんか?」
頑なに旅行に行こうとするラビになんと答えるべきかアーデルは迷っていた。このまま行ってしまって本当にいいのだろうか。アーデルの迷いはラビの中にもあった。
「とりあえず、何があったのかお話いただけませんか?」
「旅行は……」
「解決してから行きましょう」
「解決なんて絶対にしないんです! あなたの誕生日が終わってしまう!」
「誕生日は確かに生まれた日ではありますが、祝っていただくのに日付は関係ないと思っています」
「で、ですが……」
「もしあなたが戦争でいない間に私が誕生日を迎えたら私は後日祝っていただく事はできないのですか?」
「そんな事はありません! 何がなんでも祝います!」
「そういう事です。あなたが祝ってくださる事に意味があるのであって、誕生日に祝われなければ意味がないというわけではありませんから」
アーデルはいつもラビを納得させようと言葉を捻り出し、ラビもそれに納得してきたのだが、今回ばかりは理由が違う。仕方ない状況ではない。綿密に練ってきた計画をシャンディが邪魔をした。命を取り留めた事に安堵するよりもその気持ちが強いラビは自分を最低な人間だと拳を握りしめて責めるも悔しさは消えない。
「……アーデルが帰ってくる二日前に一度家に帰ったんです。そしたらあなたが残してくれた置き手紙を見つけました。一週間程で帰ってくると書いてあったので僕はどうしてもあなたを出迎えたかった。僕ばかりあなたを一人にしてしまっていたから、あなたが帰ってくる時には必ず出迎えたいと思って」
嬉しい言葉ではあったが、ラビの表情から察するにシャンディは容易に受け入れたわけではなかった。
「それをシャンディに伝えたら急に怒り出して……」
「言い合いになった?」
こくんと小さく頷くラビにアーデルも頷く。
蘇るシャンディとの嫌な言い合い。頑なに曲げようとしない意見。頑なに理解しようとしないラビの気持ち。頑なに受け入れようとしない変化。ラビは結婚してもシャンディとは今までどおりだと思っていた。笑い合って楽しい時間を過ごせるし、妻となる女性ともきっと上手くやっていけると。でも現実はそんなに上手くいかなかった。
最悪だったあの日の記憶にラビの表情が歪む。
『来月はアーデルの誕生日があるから一緒にはいられない。彼女と初めて過ごす誕生日だから一人にはしたくないんだ』
『私は一人にしてもいいっていうの!?』
『僕は結婚してるんだ。君の事は幼馴染として大切に思ってるけど、彼女の事は愛してるんだ』
ラビの発した言葉にショックを受け、傷ついて涙するシャンディが号泣した。
『もういい!わかった!そんなに帰りたいなら帰してあげる!帰ればいいでしょ!父親を亡くして悲しんでる私よりものほほんと生きてる彼女を優先する冷たい人間だと思わなかった!何が愛よ!愛が何かも知らないくせに!』
『シャンディ』
『死んでやるから」「シャンディやめてくれ』
『私は言ったから。私が死んだらあなたのせいだって』
『シャンディ、そういうのは──』
『帰ってよッ!!』
アーデルには言えない。自分が発した一言のせいでシャンディが自殺したのかもしれないなど恐ろしくて言えなかった。
「自殺を仄めかすような会話はなかったのですか?」
ビクッと肩を跳ねさせるラビにアーデルが苦笑する。
「あったのですね」
再び頷くラビにアーデルが背を撫でる。
「……シャンディは感情的になる事はあってもそんな言葉を口にする子ではなかったんです」
「……気持ちは、わからなくはないです」
「そうなのですか?」
頷くアーデルが俯き、今度はラビが言葉を待つ。
「人は、たった一つの悲しみを受けるだけで死んでしまいたいと思う生き物です。今を耐えれば気持ちの整理がついて悲しみが薄れ、受け入れられる日が来るとわかっているのに、今があまりにも悲しくて、死んでしまいたくなる」
「アーデルのお母様が亡くなられた日、ですか?」
「はい。ですが、これは私の感情ではなく父の感情です。私が十歳になった頃、不謹慎にも母がいない事に慣れたかどうか聞いてしまったんです。そしたら父は怒りもせず笑ってこう言ったんです。死にたいと思う気持ちは消えたけど、悲しみは今もずっと消えてない、と。人によるでしょうが、四年経っても消えない悲しみを一ヶ月で癒せるはずもなく、大きすぎる悲しみに襲われている中で更なる悲しみを受けたシャンディさんは……」
「死にたくなった……」
あの言葉は脅しだと思っていた。自分を引き留めるための脅しだと。実際、あの場で自分が留まればシャンディは自殺する事はなかった。恨みながら自殺したのだろうか。手紙には遺書があったとは書いてなかった。だが、あのシャンディが遺書も残さず自殺するだろうかとも考える。
アーデルが病で死んだら悲しみに暮れる自信がある。飲まず食わずで衰弱していく自分が容易に想像できるのだ。ラビはそれだけアーデルに心を寄せている。もしシャンディもそうなのだとしたら確かに自殺を考え実行に移す可能性は高いとラビも納得する。だが、ラビは納得できていない部分もあった。
「アーデル、僕が最低な人間である事を前提に話を聞いてもらえますか?」
「はい」
あくまでも憶測でしかなく、内容としては最低。しかし、自分の中だけで留めていてはアーデルには伝わらないと覚悟を決めた。
「シャンディは僕達が旅行に行く日を知っていたのではないでしょうか」
「話したのですか?」
「まさか! ありえません!」
ビバリーの件で懲りていると必死にかぶりを振る。
「もし僕が突き放した事にショックを受けて自殺を図ったのであれば彼が帰ってすぐか、数日後には実行するはず。なのにそれなりに時間が経ってから実行した。ショックだからとすぐに実行できるわけではないのかもしれないけど、それにしてはタイミングが良すぎる気がするんです」
封筒には速達のハンコが押されている。ならば届いたのは昨日。一昨日実行に移したのか、それとも昨日移したのかはわからないが、よりにもよって旅行に行く前。知っていて、旅行に行かせないために自殺を図ったのではないか、とラビは考えていた。
「もし仮にシャンディさんが私達の旅行の計画を知っていたのだとして、どうやって知ったのでしょう?」
「……市場の人から聞いたのかもしれませんね」
市場にある馴染みの店の店主には旅行に行くから暫く来られないという話はした。ハイデンに行く事も言った。いいねと笑ってくれて、お土産を買ってくると約束もした。それに、いつ出発するかも。
二人が市場に買い物に行っている事をシャンディは知っている。だから何食わぬ顔で二人の知り合いだと言えば話は弾むだろう。そこから聞き出したのかもしれない。
自殺するほど思い詰めていた相手を悪く言いたくはないが、シャンディならやりかねないとラビはシャンディ・ウェルザーを知りすぎているだけに否定できなかった。
出発の日に手紙が届くよう使用人達の動きを想定していたか、それとも自分に何かあったらすぐにラビ・ワーナーに手紙を出せと言っていたのかはわからないが、もし後者だとすれば計算は容易い。
全て計算された出来事なのだとしたらと考えると身体が震える。
「私は……彼女の事をよく知らないのでなんとも言えませんが、皇子に対する彼女の執着には少し異常性を感じます」
「僕達は……恥ずかしながら共依存のような関係性でした。肉体関係は何もなかったのですが、精神的には依存し合っていたと思います」
「でもラビ皇子は結婚してからシャンディさんを頼る事はほとんどありませんでしたよね?」
「それは……」
アーデルに惹かれてしまったからシャンディに頼ろうという心が微塵も無くなってしまったのが理由だが、伝えるのが恥ずかしくて口にできなかった。
「結婚したら夫は妻と共にあるべきだと思うので……」
「でもシャンディさんはそうじゃなかった」
ラビが頷く。
「何度言っても理解してもらえなくて……」
「結婚は私達にとって突然でしたから、シャンディさんにとっても突然すぎる事だったのでしょうね。依存していたあなたが、依存してくれていたあなたが結婚してしまう現実を受け入れられないか、受け入れたくないのか……どちらにせよ、彼女は今もあなたと共依存の関係でありたいのだと思います」
「でも僕はそうじゃないんです。僕が一緒にいたいのはアーデルですから」
微笑むアーデルの手を両手で握ったラビがそれを額に持っていく。
「どうか、疑わないでください。僕はあなたの夫として使命をまっとうしたいんです。この結婚に後悔してほしくないから僕は全力であなたに尽くすつもりです。シャンディではなくあなたに」
「疑ってはいませんよ。私も同じ気持ちですから」
ようやく表情に安堵が見えたラビの手をしっかり握り返すとラビが立ち上がる。
「じゃあ、旅行に行きましょう」
「待ってください」
立ち上がったラビがすぐに座り直した。
「今回はなんとか一命を取り留めましたが、もしこれがラビ皇子へのなんらかの感情を持って実行したものであれば、目を覚ました際にあなたの姿が見えなければ無関心と判断して今度は本当に死んでしまうかもしれません」
「またあなたを一人にしてシャンディの傍にはいられません。僕はあなたと結婚したんです。僕はあなたの夫なんですッ」
「わかっています。私も今回は帰りを待ちますとは言いません」
目を見開いたラビの脳内に一瞬にして浮かぶ最悪の展開。何を考えているのか容易に想像がつくアーデルは大丈夫だとかぶりを振る。
「今回は私も一緒に行きます」
「え……」
アーデルの中には固い決意があった。
タイミングまではわからなかったものの、彼はシャンディがいつかこういう行動に出てしまう事をわかっていたのではないだろうか。
自殺を図ったという知らせにラビは『どうしてここまで』と言った。何も知らなければ『どうして自殺なんて』と言うのではないか。でもラビは驚きよりも悔しさが勝っているように見えた。
茶葉を蒸らしている間の時間はアーデルにとって美味しい紅茶を待つ楽しい時間だったのに、今は何も感じない。ティーポットの中で揺れる茶葉を見つめた後、蓋をした。
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「そういう事です。あなたが祝ってくださる事に意味があるのであって、誕生日に祝われなければ意味がないというわけではありませんから」
アーデルはいつもラビを納得させようと言葉を捻り出し、ラビもそれに納得してきたのだが、今回ばかりは理由が違う。仕方ない状況ではない。綿密に練ってきた計画をシャンディが邪魔をした。命を取り留めた事に安堵するよりもその気持ちが強いラビは自分を最低な人間だと拳を握りしめて責めるも悔しさは消えない。
「……アーデルが帰ってくる二日前に一度家に帰ったんです。そしたらあなたが残してくれた置き手紙を見つけました。一週間程で帰ってくると書いてあったので僕はどうしてもあなたを出迎えたかった。僕ばかりあなたを一人にしてしまっていたから、あなたが帰ってくる時には必ず出迎えたいと思って」
嬉しい言葉ではあったが、ラビの表情から察するにシャンディは容易に受け入れたわけではなかった。
「それをシャンディに伝えたら急に怒り出して……」
「言い合いになった?」
こくんと小さく頷くラビにアーデルも頷く。
蘇るシャンディとの嫌な言い合い。頑なに曲げようとしない意見。頑なに理解しようとしないラビの気持ち。頑なに受け入れようとしない変化。ラビは結婚してもシャンディとは今までどおりだと思っていた。笑い合って楽しい時間を過ごせるし、妻となる女性ともきっと上手くやっていけると。でも現実はそんなに上手くいかなかった。
最悪だったあの日の記憶にラビの表情が歪む。
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『私は一人にしてもいいっていうの!?』
『僕は結婚してるんだ。君の事は幼馴染として大切に思ってるけど、彼女の事は愛してるんだ』
ラビの発した言葉にショックを受け、傷ついて涙するシャンディが号泣した。
『もういい!わかった!そんなに帰りたいなら帰してあげる!帰ればいいでしょ!父親を亡くして悲しんでる私よりものほほんと生きてる彼女を優先する冷たい人間だと思わなかった!何が愛よ!愛が何かも知らないくせに!』
『シャンディ』
『死んでやるから」「シャンディやめてくれ』
『私は言ったから。私が死んだらあなたのせいだって』
『シャンディ、そういうのは──』
『帰ってよッ!!』
アーデルには言えない。自分が発した一言のせいでシャンディが自殺したのかもしれないなど恐ろしくて言えなかった。
「自殺を仄めかすような会話はなかったのですか?」
ビクッと肩を跳ねさせるラビにアーデルが苦笑する。
「あったのですね」
再び頷くラビにアーデルが背を撫でる。
「……シャンディは感情的になる事はあってもそんな言葉を口にする子ではなかったんです」
「……気持ちは、わからなくはないです」
「そうなのですか?」
頷くアーデルが俯き、今度はラビが言葉を待つ。
「人は、たった一つの悲しみを受けるだけで死んでしまいたいと思う生き物です。今を耐えれば気持ちの整理がついて悲しみが薄れ、受け入れられる日が来るとわかっているのに、今があまりにも悲しくて、死んでしまいたくなる」
「アーデルのお母様が亡くなられた日、ですか?」
「はい。ですが、これは私の感情ではなく父の感情です。私が十歳になった頃、不謹慎にも母がいない事に慣れたかどうか聞いてしまったんです。そしたら父は怒りもせず笑ってこう言ったんです。死にたいと思う気持ちは消えたけど、悲しみは今もずっと消えてない、と。人によるでしょうが、四年経っても消えない悲しみを一ヶ月で癒せるはずもなく、大きすぎる悲しみに襲われている中で更なる悲しみを受けたシャンディさんは……」
「死にたくなった……」
あの言葉は脅しだと思っていた。自分を引き留めるための脅しだと。実際、あの場で自分が留まればシャンディは自殺する事はなかった。恨みながら自殺したのだろうか。手紙には遺書があったとは書いてなかった。だが、あのシャンディが遺書も残さず自殺するだろうかとも考える。
アーデルが病で死んだら悲しみに暮れる自信がある。飲まず食わずで衰弱していく自分が容易に想像できるのだ。ラビはそれだけアーデルに心を寄せている。もしシャンディもそうなのだとしたら確かに自殺を考え実行に移す可能性は高いとラビも納得する。だが、ラビは納得できていない部分もあった。
「アーデル、僕が最低な人間である事を前提に話を聞いてもらえますか?」
「はい」
あくまでも憶測でしかなく、内容としては最低。しかし、自分の中だけで留めていてはアーデルには伝わらないと覚悟を決めた。
「シャンディは僕達が旅行に行く日を知っていたのではないでしょうか」
「話したのですか?」
「まさか! ありえません!」
ビバリーの件で懲りていると必死にかぶりを振る。
「もし僕が突き放した事にショックを受けて自殺を図ったのであれば彼が帰ってすぐか、数日後には実行するはず。なのにそれなりに時間が経ってから実行した。ショックだからとすぐに実行できるわけではないのかもしれないけど、それにしてはタイミングが良すぎる気がするんです」
封筒には速達のハンコが押されている。ならば届いたのは昨日。一昨日実行に移したのか、それとも昨日移したのかはわからないが、よりにもよって旅行に行く前。知っていて、旅行に行かせないために自殺を図ったのではないか、とラビは考えていた。
「もし仮にシャンディさんが私達の旅行の計画を知っていたのだとして、どうやって知ったのでしょう?」
「……市場の人から聞いたのかもしれませんね」
市場にある馴染みの店の店主には旅行に行くから暫く来られないという話はした。ハイデンに行く事も言った。いいねと笑ってくれて、お土産を買ってくると約束もした。それに、いつ出発するかも。
二人が市場に買い物に行っている事をシャンディは知っている。だから何食わぬ顔で二人の知り合いだと言えば話は弾むだろう。そこから聞き出したのかもしれない。
自殺するほど思い詰めていた相手を悪く言いたくはないが、シャンディならやりかねないとラビはシャンディ・ウェルザーを知りすぎているだけに否定できなかった。
出発の日に手紙が届くよう使用人達の動きを想定していたか、それとも自分に何かあったらすぐにラビ・ワーナーに手紙を出せと言っていたのかはわからないが、もし後者だとすれば計算は容易い。
全て計算された出来事なのだとしたらと考えると身体が震える。
「私は……彼女の事をよく知らないのでなんとも言えませんが、皇子に対する彼女の執着には少し異常性を感じます」
「僕達は……恥ずかしながら共依存のような関係性でした。肉体関係は何もなかったのですが、精神的には依存し合っていたと思います」
「でもラビ皇子は結婚してからシャンディさんを頼る事はほとんどありませんでしたよね?」
「それは……」
アーデルに惹かれてしまったからシャンディに頼ろうという心が微塵も無くなってしまったのが理由だが、伝えるのが恥ずかしくて口にできなかった。
「結婚したら夫は妻と共にあるべきだと思うので……」
「でもシャンディさんはそうじゃなかった」
ラビが頷く。
「何度言っても理解してもらえなくて……」
「結婚は私達にとって突然でしたから、シャンディさんにとっても突然すぎる事だったのでしょうね。依存していたあなたが、依存してくれていたあなたが結婚してしまう現実を受け入れられないか、受け入れたくないのか……どちらにせよ、彼女は今もあなたと共依存の関係でありたいのだと思います」
「でも僕はそうじゃないんです。僕が一緒にいたいのはアーデルですから」
微笑むアーデルの手を両手で握ったラビがそれを額に持っていく。
「どうか、疑わないでください。僕はあなたの夫として使命をまっとうしたいんです。この結婚に後悔してほしくないから僕は全力であなたに尽くすつもりです。シャンディではなくあなたに」
「疑ってはいませんよ。私も同じ気持ちですから」
ようやく表情に安堵が見えたラビの手をしっかり握り返すとラビが立ち上がる。
「じゃあ、旅行に行きましょう」
「待ってください」
立ち上がったラビがすぐに座り直した。
「今回はなんとか一命を取り留めましたが、もしこれがラビ皇子へのなんらかの感情を持って実行したものであれば、目を覚ました際にあなたの姿が見えなければ無関心と判断して今度は本当に死んでしまうかもしれません」
「またあなたを一人にしてシャンディの傍にはいられません。僕はあなたと結婚したんです。僕はあなたの夫なんですッ」
「わかっています。私も今回は帰りを待ちますとは言いません」
目を見開いたラビの脳内に一瞬にして浮かぶ最悪の展開。何を考えているのか容易に想像がつくアーデルは大丈夫だとかぶりを振る。
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