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食事
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昼食、椿にどこへ向かうのか聞くと予想どおり高級料亭だった。一見さんお断りの敷居も値段も高い料亭。椿がどういう物を食べて育ったのか知りたいとは思うが、流石に不安になる。
「あ……」
それを安堵させた【定休日】の文字。椿は落ち込んでいたが、柊は安堵した。
「何か買って帰ろうか」
「そうですね」
食べさせたかったのだろう椿の苦笑に気にするなと頭を撫でるもいつもの笑顔にはならない。かといってわがままもなければあからさまに落ち込むこともしない。
「何が食べたい? なんでもいいぞ」
「お鍋はいかがですか?」
「鍋か。いいね」
「では買い物に行きましょう」
鍋が恋しい季節ではあるが好き好んで食べはしない。最後に食べたのはいつだったか。実家に帰った際に食べたような……そんな記憶も定かではないのはもう何年も帰っていないから。
三十二年間の人生で鍋をつついたのは何度あるだろう。それぐらい食べない物だが、椿が作るならと喜んで賛成する。
車を走らせスーパーへ。
「椿は買い物したことあるのか?」
「ありません」
「一度も?」
「はい。買い物は全てお祖母様がしていたものですから」
「椿は何も欲しくなかったのか?」
「はい」
何も知らないのだから欲しい物があるはずもない。世の中にどれほどの物があるのか知っていれば物欲も出るだろうがその世界がなかった椿は物欲とは縁遠い生き物。
世俗に染まらせないようにしていたのか、それとも自分の存在を崇高なものへと押し上げたかったのかは知らないが柊は皇家に良い印象を抱いてはいない。世俗から離れた生活を望んで続ける謎の資産家。金に困らない生活は羨ましくとも自由を得られないのであれば生きている意味がないとさえ思う。だから柊は椿を哀れに思ってしまう。花も恥じらう十七歳の乙女。朝露さえ照れてしまうほど眩い年頃だ。それを朝露ごと摘もうとする祖母は彼女にとって害悪でしかないのだからと。
「俺もなんでもかんでも叶えてやれるわけじゃないけど、君が知りたいと思う物を与えてやりたい」
「置いてくださっているだけで充分でございます」
椿は勘違いしたりしない。だから常に一線をちゃんと引いている。自分は婚約者ではなく居候。契約で結ばれた家政婦。柊だけがたった数日間で椿との生活を心地良いと思っている。分かってはいるが少し寂しさを感じることに苦笑しながら駐車場に車を止めて一緒に中へと入っていく。
「旦那様は笑いすぎです」
「だってお前……ッ……天の声って……くるしッ!」
買い物を終えてスーパーから出た椿は笑い続けている柊に怒っている。
「だって上から声がするんですよ!? そんなのありえない話じゃありませんか!」
マイクを通して売り出し商品やスタッフを呼び出す声に驚いた椿がコソッと口にした『このお店は天の声が聞こえます』と言ってからずっと笑い続けている。宗教家からしか聞けないだろうその言葉を真剣な顔で耳打ちする椿が妙にツボに入ってしまった柊の笑いは車に乗ってからも止まらない。
世の中にはスピーカーやマイクがあってと説明したところで椿には理解できない。風呂の湯がボタン一つで入る仕組みもまだ理解していないのにマイクやスピーカーなど信じられるはずがない。
時代の流れに取り残されてしまっている少女を哀れに思う気持ちはあれど柊には新鮮だった。
「帰ったら色々教える。椿の頭の中が大混乱大渋滞になるかもな」
「かもしれません」
家電は必要最低限置いてあるが椿はそれを触ろうとはしない。わからない物には触れるなと言った柊の言葉を律儀に守っている。冷蔵庫を見た際も大きさに驚いていた。まだ付けていないテレビをつけたらどう思うのか、少し楽しみだった。
車を走らせる間もいつもならかけるラジオはなし。外を眺める椿に自分のサングラスを渡してかけておくよう告げた。何があるかわからない。どこかで椿の関係者に見つかるかもしれない。いつか必ず来るだろうその瞬間も椿が納得したときであればいい。嫌だと泣き喚く椿を自分は引き止められるだろうか。警察に言うと言われればきっと怖気ずく。警察に捕まってしまえば椿を居候させるどころではないのだから。
「似合いますか?」
「ビックリするほど似合ってない」
セレブっぽくなるかと思ったが髪型と着物のせいか、セレブには見えなかった。それがまたおかしくて笑う柊を横目で見る椿もつられて笑う。
窓に映るサングラスをかけた自分。確かに似合っていない。
「椿、やっぱり服を買おう。そんな着物着てたらすぐにバレそうだ」
「……確かにそうかもしれません」
街に降りても着物を着ている人はほとんどいない。この格好で街を歩いているのは見つけてくれと言っているようなもの。
「俺が買うから」
何か言いかけてすぐ口を閉じた。自分で買うと言ったところで現金を持っていない。買ってもらう他ないが、買ってもらう理由がない。
サングラスの下で困った顔をする椿に「ただし」と付け加える。
「俺が選んだ服を買うから。これはプレゼントっていうか俺が君に着せたい服を買うだけのこと。男は一緒に歩く人には自分好みの服装をしてもらいたいもんなんだよ」
「ありがとうございます」
柊の優しさに感謝しながら頭を下げた。
「だから明日買いに行こう。今日は腹ペコだ」
「はい」
ナビを見ながら目的地へ向かう時間は長く感じたのに帰りはあっという間に感じる。本当に同じ時間を走ったのかと疑うほどに。
車の中で他愛のない話をする。主に食事。互いに過去のことは聞かないし、家柄のことも聞かない。仕事や学校のことも聞かず、ただ互いに共通している話題だけを話し続けた。
「すぐに準備しますね」
「俺が手伝うことは?」
「ありません。座っていてください」
「だと思った。それじゃあテレビでも見て待ってようかな」
「てれび?」
材料を置いてキッチンから出てテーブルの上からリモコンを取った。テレビがなんなのかわかっていない椿にリモコンを揺らしてからテレビに向けてスイッチを押す。
「ッ!?」
急に鳴り出した音に大袈裟なほど跳ねた身体。音量を下げると胸を押さえながら怪訝な顔でテレビを覗く。言いたいことが山のようにある顔で手にはネギ。そのアンバランスさに
吹き出しそうになるのを柊は必死に堪えていた。
なぜ人がこの小さな箱の中に? その疑問が頭を占めている椿の前でチャンネルを変えると椿は大きく目を見開いたあと慌ててキッチンへと逃げ帰る。
「これがテレビ」
「ど、どういう仕組みなのですか? なぜ人がその中にいるのですか? それはなんですか? なぜ、なぜ……」
山積みになった疑問を全てぶつけようとすると雪崩のように崩れてしまいそうで言葉が止まる。
「仕組みを説明するのは難しいけど、時代ってのは流れてるもんで椿の知らない物に溢れてる。布一枚しか巻いてなかった時代からそんな立派な着物が生み出されたように、人の知恵と努力によって便利な世の中になってる。ボタン一つで火がつくなんて知らなかっただろ? でも実際そうやって火がついてる。そういうのがたくさんあるんだよ」
婚約者と偽って部屋に入ったあの日、椿は使い方を教えてもらってお粥を作った。IHキッチンなど知るはずもない椿はそれが火の代わりと言われても未だに納得できていないが使い方を紙に書いて近くの壁に貼って使いこなしている。
「映画とかドラマとか色々見れるんだよ。見なきゃわかんないだろうけど、食事終わったら体験してみるか?」
「はい……」
乗り気ではない返事。わけのわからない物を見る抵抗はあれど断らない。好奇心はあるのだろうか? 柊の一つの疑問。
スーパーに入ったらもっと子供のようにはしゃぐと思っていたのだが意外にも冷静だった。それは店内放送に気を取られていたせいかもしれないが、今のところ目を輝かせている姿を見たのは車内でだけ。
こんなに色々経験させるのは良くないのではないかと多少の悩みは持ちながらも経験できるときにしておくべきと考えてとりあえずテレビを消した。
ダイニングテーブルの椅子を引いて腰掛ける。いつもならここでパソコンを開いてメールチェックなどをするが今日はしない。料理する椿の後ろ姿を眺めながら椿が立てる物音に集中する。
静かな空間は嫌いではない。むしろ三十超えてからは賑やかな場所のほうが苦手になってきた。自分のプライベート空間で鳴る音は自分の家では聞いたことがない音で不思議な感覚を覚えながらも心地良さも感じる。
「手伝えることあったら言ってくれ」
「そこでジッとしててください」
「りょーかい」
予想どおりの言葉に肩を竦める。
頭の中で浮かぶのはキッチンに入った自分が椿を後ろから抱きしめるところ。犯罪だと頭上に浮かぶ妄想を叩き消してハーッと息を吐き出す。どこからどう見ても二十歳前後。二十歳過ぎていると言われても疑いはしない。それだけ大人びていることもあってつい想像してしまう。
なぜこんなに落ち着くのか自分でもわからない。でも惹かれているのは事実。
「あー……」
「お疲れですか?」
せっせと動く椿をどれぐらい眺めていたのか。無意識に漏れた言葉に鍋の用意を終えた椿が心配そうに顔を覗き込んでくる。
慌てて身体を起こして大丈夫だと手を揺らす。
「あーいや、昼間から鍋が食えるなんて良い日だなと思ってさ」
「たくさん食べてくださいね」
ガスコンロをセットしてある程度仕上がった物をその上に運ぶ。煙として抜けてくる良い匂いに腹の虫が鳴る。椿が作る物に間違いはない。腹の虫もすっかり味を覚えて胃sまった。
人前で腹を鳴らすことなどなかったのに椿の前ではよく鳴らしている。貪欲だと自分に笑いながら箸と器を受け取ってお楽しみの蓋が開くのを今か今かと子供のように待つこの時間も悪くないと感じる。楽しみにしたこともなければこんな風に食事を待ったことさえない柊にとってあっという間に上書きされた食事の時間は悪くないものとなっていた。
「あ……」
それを安堵させた【定休日】の文字。椿は落ち込んでいたが、柊は安堵した。
「何か買って帰ろうか」
「そうですね」
食べさせたかったのだろう椿の苦笑に気にするなと頭を撫でるもいつもの笑顔にはならない。かといってわがままもなければあからさまに落ち込むこともしない。
「何が食べたい? なんでもいいぞ」
「お鍋はいかがですか?」
「鍋か。いいね」
「では買い物に行きましょう」
鍋が恋しい季節ではあるが好き好んで食べはしない。最後に食べたのはいつだったか。実家に帰った際に食べたような……そんな記憶も定かではないのはもう何年も帰っていないから。
三十二年間の人生で鍋をつついたのは何度あるだろう。それぐらい食べない物だが、椿が作るならと喜んで賛成する。
車を走らせスーパーへ。
「椿は買い物したことあるのか?」
「ありません」
「一度も?」
「はい。買い物は全てお祖母様がしていたものですから」
「椿は何も欲しくなかったのか?」
「はい」
何も知らないのだから欲しい物があるはずもない。世の中にどれほどの物があるのか知っていれば物欲も出るだろうがその世界がなかった椿は物欲とは縁遠い生き物。
世俗に染まらせないようにしていたのか、それとも自分の存在を崇高なものへと押し上げたかったのかは知らないが柊は皇家に良い印象を抱いてはいない。世俗から離れた生活を望んで続ける謎の資産家。金に困らない生活は羨ましくとも自由を得られないのであれば生きている意味がないとさえ思う。だから柊は椿を哀れに思ってしまう。花も恥じらう十七歳の乙女。朝露さえ照れてしまうほど眩い年頃だ。それを朝露ごと摘もうとする祖母は彼女にとって害悪でしかないのだからと。
「俺もなんでもかんでも叶えてやれるわけじゃないけど、君が知りたいと思う物を与えてやりたい」
「置いてくださっているだけで充分でございます」
椿は勘違いしたりしない。だから常に一線をちゃんと引いている。自分は婚約者ではなく居候。契約で結ばれた家政婦。柊だけがたった数日間で椿との生活を心地良いと思っている。分かってはいるが少し寂しさを感じることに苦笑しながら駐車場に車を止めて一緒に中へと入っていく。
「旦那様は笑いすぎです」
「だってお前……ッ……天の声って……くるしッ!」
買い物を終えてスーパーから出た椿は笑い続けている柊に怒っている。
「だって上から声がするんですよ!? そんなのありえない話じゃありませんか!」
マイクを通して売り出し商品やスタッフを呼び出す声に驚いた椿がコソッと口にした『このお店は天の声が聞こえます』と言ってからずっと笑い続けている。宗教家からしか聞けないだろうその言葉を真剣な顔で耳打ちする椿が妙にツボに入ってしまった柊の笑いは車に乗ってからも止まらない。
世の中にはスピーカーやマイクがあってと説明したところで椿には理解できない。風呂の湯がボタン一つで入る仕組みもまだ理解していないのにマイクやスピーカーなど信じられるはずがない。
時代の流れに取り残されてしまっている少女を哀れに思う気持ちはあれど柊には新鮮だった。
「帰ったら色々教える。椿の頭の中が大混乱大渋滞になるかもな」
「かもしれません」
家電は必要最低限置いてあるが椿はそれを触ろうとはしない。わからない物には触れるなと言った柊の言葉を律儀に守っている。冷蔵庫を見た際も大きさに驚いていた。まだ付けていないテレビをつけたらどう思うのか、少し楽しみだった。
車を走らせる間もいつもならかけるラジオはなし。外を眺める椿に自分のサングラスを渡してかけておくよう告げた。何があるかわからない。どこかで椿の関係者に見つかるかもしれない。いつか必ず来るだろうその瞬間も椿が納得したときであればいい。嫌だと泣き喚く椿を自分は引き止められるだろうか。警察に言うと言われればきっと怖気ずく。警察に捕まってしまえば椿を居候させるどころではないのだから。
「似合いますか?」
「ビックリするほど似合ってない」
セレブっぽくなるかと思ったが髪型と着物のせいか、セレブには見えなかった。それがまたおかしくて笑う柊を横目で見る椿もつられて笑う。
窓に映るサングラスをかけた自分。確かに似合っていない。
「椿、やっぱり服を買おう。そんな着物着てたらすぐにバレそうだ」
「……確かにそうかもしれません」
街に降りても着物を着ている人はほとんどいない。この格好で街を歩いているのは見つけてくれと言っているようなもの。
「俺が買うから」
何か言いかけてすぐ口を閉じた。自分で買うと言ったところで現金を持っていない。買ってもらう他ないが、買ってもらう理由がない。
サングラスの下で困った顔をする椿に「ただし」と付け加える。
「俺が選んだ服を買うから。これはプレゼントっていうか俺が君に着せたい服を買うだけのこと。男は一緒に歩く人には自分好みの服装をしてもらいたいもんなんだよ」
「ありがとうございます」
柊の優しさに感謝しながら頭を下げた。
「だから明日買いに行こう。今日は腹ペコだ」
「はい」
ナビを見ながら目的地へ向かう時間は長く感じたのに帰りはあっという間に感じる。本当に同じ時間を走ったのかと疑うほどに。
車の中で他愛のない話をする。主に食事。互いに過去のことは聞かないし、家柄のことも聞かない。仕事や学校のことも聞かず、ただ互いに共通している話題だけを話し続けた。
「すぐに準備しますね」
「俺が手伝うことは?」
「ありません。座っていてください」
「だと思った。それじゃあテレビでも見て待ってようかな」
「てれび?」
材料を置いてキッチンから出てテーブルの上からリモコンを取った。テレビがなんなのかわかっていない椿にリモコンを揺らしてからテレビに向けてスイッチを押す。
「ッ!?」
急に鳴り出した音に大袈裟なほど跳ねた身体。音量を下げると胸を押さえながら怪訝な顔でテレビを覗く。言いたいことが山のようにある顔で手にはネギ。そのアンバランスさに
吹き出しそうになるのを柊は必死に堪えていた。
なぜ人がこの小さな箱の中に? その疑問が頭を占めている椿の前でチャンネルを変えると椿は大きく目を見開いたあと慌ててキッチンへと逃げ帰る。
「これがテレビ」
「ど、どういう仕組みなのですか? なぜ人がその中にいるのですか? それはなんですか? なぜ、なぜ……」
山積みになった疑問を全てぶつけようとすると雪崩のように崩れてしまいそうで言葉が止まる。
「仕組みを説明するのは難しいけど、時代ってのは流れてるもんで椿の知らない物に溢れてる。布一枚しか巻いてなかった時代からそんな立派な着物が生み出されたように、人の知恵と努力によって便利な世の中になってる。ボタン一つで火がつくなんて知らなかっただろ? でも実際そうやって火がついてる。そういうのがたくさんあるんだよ」
婚約者と偽って部屋に入ったあの日、椿は使い方を教えてもらってお粥を作った。IHキッチンなど知るはずもない椿はそれが火の代わりと言われても未だに納得できていないが使い方を紙に書いて近くの壁に貼って使いこなしている。
「映画とかドラマとか色々見れるんだよ。見なきゃわかんないだろうけど、食事終わったら体験してみるか?」
「はい……」
乗り気ではない返事。わけのわからない物を見る抵抗はあれど断らない。好奇心はあるのだろうか? 柊の一つの疑問。
スーパーに入ったらもっと子供のようにはしゃぐと思っていたのだが意外にも冷静だった。それは店内放送に気を取られていたせいかもしれないが、今のところ目を輝かせている姿を見たのは車内でだけ。
こんなに色々経験させるのは良くないのではないかと多少の悩みは持ちながらも経験できるときにしておくべきと考えてとりあえずテレビを消した。
ダイニングテーブルの椅子を引いて腰掛ける。いつもならここでパソコンを開いてメールチェックなどをするが今日はしない。料理する椿の後ろ姿を眺めながら椿が立てる物音に集中する。
静かな空間は嫌いではない。むしろ三十超えてからは賑やかな場所のほうが苦手になってきた。自分のプライベート空間で鳴る音は自分の家では聞いたことがない音で不思議な感覚を覚えながらも心地良さも感じる。
「手伝えることあったら言ってくれ」
「そこでジッとしててください」
「りょーかい」
予想どおりの言葉に肩を竦める。
頭の中で浮かぶのはキッチンに入った自分が椿を後ろから抱きしめるところ。犯罪だと頭上に浮かぶ妄想を叩き消してハーッと息を吐き出す。どこからどう見ても二十歳前後。二十歳過ぎていると言われても疑いはしない。それだけ大人びていることもあってつい想像してしまう。
なぜこんなに落ち着くのか自分でもわからない。でも惹かれているのは事実。
「あー……」
「お疲れですか?」
せっせと動く椿をどれぐらい眺めていたのか。無意識に漏れた言葉に鍋の用意を終えた椿が心配そうに顔を覗き込んでくる。
慌てて身体を起こして大丈夫だと手を揺らす。
「あーいや、昼間から鍋が食えるなんて良い日だなと思ってさ」
「たくさん食べてくださいね」
ガスコンロをセットしてある程度仕上がった物をその上に運ぶ。煙として抜けてくる良い匂いに腹の虫が鳴る。椿が作る物に間違いはない。腹の虫もすっかり味を覚えて胃sまった。
人前で腹を鳴らすことなどなかったのに椿の前ではよく鳴らしている。貪欲だと自分に笑いながら箸と器を受け取ってお楽しみの蓋が開くのを今か今かと子供のように待つこの時間も悪くないと感じる。楽しみにしたこともなければこんな風に食事を待ったことさえない柊にとってあっという間に上書きされた食事の時間は悪くないものとなっていた。
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