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他人事ではなく
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「ユーフェミア! 無事だったか!」
帰ってきた馬車の音を聞いて玄関まで駆け付けたトリスタンのハグを受け止めて背中を撫でる。
「陛下、ご心配おかけしました」
「無事ならよいのだ。君が無事であればそれでいい」
クライアはどうなってもいい。そんな風にも聞こえた。
今回のことは他の同盟国にも知れ渡ることだろうが、きっと誰も手を出そうとはしない。敵国からのテロを受けたのであれば同盟国は加勢に馳せ参じるだろう。だが、今回のことは王が原因。悲しいことに王が原因で国が崩壊するのは珍しいことではない。
「やはりか……」
部屋に戻って事の顛末を聞いたトリスタンは納得したように頷いた。
クライアのクーデターの様子は想像どおりで、その事情も想像通り。
民になんの説明もなく民が愛している王妃を廃妃にし、慕っていた王妃の喪失の傷が癒えないままに新たな女性が王妃の座に就いた。そしてまた、なんの説明もないまま過ぎていく毎日に不満を募らせた者たちが己が命を懸けて行った抗議をレオンハルトはどう受け止めたのか。
「ララはどう思っただろうな?」
「ララ様、ですか?」
「今回のクーデターの原因の一つはララだ。それはこの一年、ララが王妃として何もしてこなかったという証明でもある。事実、ララは王妃の仕事を軽んじていたのだろう? それは民にも伝わっていたはずだ」
貧困街にいるその日暮らしの者たちが通う酒場がどれほど忙しいのか、ユーフェミアは知らない。そこで働いていたララが看板娘としてどんな風に仕事をこなしていたのかも知らない。
それでも、酒場の仕事と王妃の仕事は全くの別物。民の前に出て話を聞く。国を支える民たちがどんな生活をして、どんな物を作っているのか知ること。この国の基礎を学びに行くのも仕事の一つ。それを自分は下町出身で知っているからと軽んじることは許されない。
ララがどんな風に公務をこなしていたのか知らないため直接批判はできないものの、あの日、ララが言った言葉から察するに王妃の公務に誇りを持っているわけではないだろう。
「下町の娘にシュライアのようになれと言ってもそれは無理だ。シュライアは元公女。比べるほうがおかしい。しかし、だからといって努力しなくてもよいわけではない。何も知らぬからこそ誰よりも努力して誠心誠意、国に尽くす姿を見せねばならぬ。甘えてはならぬのだが……レオンハルトが甘やかしていては……いや、結局その甘やかしに甘えるのだからララの責任か」
自分も下町の娘を嫁にした身。当時、自分はユーフェミアを気遣うことも甘やかすこともできず、自分のことで手いっぱいだった。それでもユーフェミアは甘えようとしたことは一度もない。もう嫌だと泣いて眠って、翌日また頑張る。
右も左もわからない中でユーフェミアはよくやってきた。だからトリスタンは何があってもユーフェミアを守ろうと思っていた。それが間違いであってもユーフェミアが傷つかないのであればそれでいいと独りよがりなこともたくさんしてきた自覚もある。
レオンハルトもそれに気付かなければならない。でなければクライアはもう二度と元には守らないだろうから。
「わたくしも、一年目二年目はほとんど何もできず、王族としての心得や所作、言われたとおりに公務をこなすことに必死でした。王族はこんなことまでするのかと驚きっぱなしで」
「悠々自適に暮らしていると思われているが、実際はそれほどでもない。毎日忙しい日々を送っていたりするからな、僕たちは」
「そうですね。前両陛下がいかにご多忙な日々をお過ごしだったか、よくわかりました」
先代が偉大であればあるほど、プレッシャーは大きい。自分も同じようにできるのだろうか、自分は認めてもらえるのだろうかと不安で眠れない日もあった。
もしララが当時の自分たちと同じ心境にいるのであればアドバイスの一つでも言えたのだが、ララからはそれが微塵も感じられなかった。同席すると言ったララをレオンハルトが突き放してくれたのは助かった。
「ですが、レオンハルト王も甘やかしているばかりではないと思うのです」
「教育していると?」
「世界会議のときもそうでしたが、ララ様に怒っていました」
「あれは教育ではない。怒鳴らなければ止められないだけだ」
「私には彼が女性の暴走の止め方を知らないだけのように見えたのです」
「ほう」
世界会議のときも城でのときも同じで、ララに言い聞かせるのにレオンハルトは怒鳴って言い聞かせた。それはとても夫が妻に言い聞かせるときにするべきことではなく、まるで主従関係のようで。
その原因の一つがレオンハルトが軍人だったことにあるのではとユーフェミアは考えた。
一つの失敗が命取りになってしまう軍人時代、部下をまとめるのに大声を出し、叱る時にも大声を出し、鼓舞にさえも大声を出す。それがレオンハルトにとっては当たり前。
シュライアを廃妃にするほど愛した女性だ。頭から威圧的な態度を取りはしなかっただろうが、何度言っても聞かないなら怒鳴るしかない。しっかりと話し合うのではなく相手が萎縮するほど怒鳴りつける。彼はそれしか方法を知らないのだと。
「叱ればいいというわけではないし、無駄に甘やかすべきではない」
「わたくしが手のひら大のダイヤモンドを陛下に黙って購入したらどうします?」
「許す」
「国税で買ったと言ったら?」
「君はそんなことはしない」
「買ったと言ったら?」
「う……それは……」
たらればの話などしたところで意味はないとわかっている。それでもトリスタンに想像させるにはそうするしかないのだが、いつも「君はそんなことしない」と言って話にならないのだから。
少し圧をかけるように笑顔で強めに問いかけると目を左右に動かしてどうすべきかと考えている。
「怒るだろうな」
「どうやって?」
「ユーフェミア、国税は王族の私財ではない。民が必死に働いて納めてくれているものだ。それをダイヤモンドなど買うために使うなどと何を考えているんだ!」
咳払いをしてから怒って見せるトリスタンの手を両手で包んで軽く引き寄せるユーフェミアにトリスタンは目を見開く。
「だって……欲しかったんです。わたくしに似合うと思いませんか?」
「似合う! よし! 僕の私財から補填しておこう! 今回だけは許す! 君のためにあるようなダイヤだ!」
普段甘えないユーフェミアからの甘えに目をハートにしたトリスタンの対応にスッと手を離したユーフェミアは苦笑しながら首を振る。
「レオンハルト王はそこまで酷い対応ではなかったでしょうけれど、シュライア様を廃妃にしてまで迎えた妻から甘えられると弱かったのかもしれませんね」
「酷い対応とは……」
それこそ酷い対応だと言いたげなトリスタンを無視してユーフェミアは溜息を吐いた。
「お二人でちゃんと話し合っているとよいのですが……」
「レオンハルトが変わらなければクライアは一ヵ月ももたないだろうな」
「シュライア様が残られましたので、シュライア様を求めている民は大人しくなるでしょうけど……」
「ララに不満を持っている民はどうかな」
ユーフェミアもそれを危惧していた。
訴える者の中にはララへの不満を抱えている者もいた。ララが王妃の仕事を軽んじている以上はその不満が解消されることはないだろう。
王妃の仕事は軽んじながら、王妃としての見目は大事にする。それでは誰もついてこない。ララがそこを理解しなければクーデターは止まらないのではないかと不安になる。
「わたくしは、あれが他人事ではないような気がしてならないのです」
「アステリアでもクーデターが起こると?」
「わたくしたちはやるべきことをちゃんとやれているのでしょうか?」
「世継ぎ問題は解決したじゃないか」
「それはわたくしたちの間での話です。そうではなく、ちゃんと国民に示すべきなのではないでしょうか? 子供はもう暫く待ってほしいと。必ず希望が訪れるからと」
「クリュスタリスから養子をもらうことも言うのか?」
「……わかりません。どうするのが一番正しいのか……。それでも、民に不安や怒りを抱かせて涙を流させることだけは避けなければなりません。世継ぎ問題も彼らはもう二十年も不満を訴えずに待ってくれているのです。わたくしたちも正しい選択をしなければなりません」
正直者が全て正しいわけではない。嘘が正解となるときもある。だが、自分たちはずっと、民を騙してきた。種のある者を種無しにし、問題のある者を問題なしにした。そして、それを受け入れてくれた民のことを考えず、その上に胡坐をかいて甘え、二十年も希望を与えようとしなかったのだ。
前王達は若くして亡くなった。現王もそうならないという保障はないのに、世継ぎがいない不安がどういうものか考えもしなかった自分たちがいかに愚かであったかをクライアのクーデターで考えさせられた。
二年後か三年後に自分たちが養子を受けられるとして、その二年か三年間、国民たちは「今年も世継ぎが見られなかった」という不安を抱えなければならない。
この国は安泰だという証がないアステリアに不満や不安がないわけではないだろう民の気持ちをちゃんと理解しなければならないだろう。
「……そうだな。ちゃんと話そう。僕たちが希望を与えないで誰が与えるのか」
「そうですね」
「何が最善か、共に考えよう」
「はい」
一緒に考えようなどと言われたことがあっただろうか。
今までのトリスタンなら「僕に任せろ」と言って特攻隊のように一人で前を進んでいた。それで守っているつもりだったことも今のユーフェミアには理解できる。
自分を後ろに置くことで守っているつもりだった。守ろうとしていた。実際、それによってユーフェミアが守られていたのも事実。
しかし、それが間違いであったことにようやく気付いた。
守られるのではなく共に立たなければならない。傷つくのさえ覚悟して立つ。国の象徴として民のために何ができるのかを二人で共に考え、そして実行していかなければならなかったのに、それに気付くのに二十年もかかった。
していなかったわけではない。だが、それはあくまでも決められた公務であって自分たちが考えて行ったものではない。決められた舞台の上で決められた台詞を口にするだけのマリオネットではないのだから。
「アステリアの民は立派ですね」
「当然だ。僕たちを育ててくれた者たちだぞ。僕たちよりもずっと立派で、アステリアの誇りだ」
アステリアが存在するのは自分たちがしっかりしていたからではなく、アステリアの民がしっかりしていたからだと気付いた。
国を愛し、国のために生きている。それが国を支え、王を支え、そして国を育てていく。
感謝してもしきれない想いを胸に二人はもう一度誓い合った。
民のために生きると。
帰ってきた馬車の音を聞いて玄関まで駆け付けたトリスタンのハグを受け止めて背中を撫でる。
「陛下、ご心配おかけしました」
「無事ならよいのだ。君が無事であればそれでいい」
クライアはどうなってもいい。そんな風にも聞こえた。
今回のことは他の同盟国にも知れ渡ることだろうが、きっと誰も手を出そうとはしない。敵国からのテロを受けたのであれば同盟国は加勢に馳せ参じるだろう。だが、今回のことは王が原因。悲しいことに王が原因で国が崩壊するのは珍しいことではない。
「やはりか……」
部屋に戻って事の顛末を聞いたトリスタンは納得したように頷いた。
クライアのクーデターの様子は想像どおりで、その事情も想像通り。
民になんの説明もなく民が愛している王妃を廃妃にし、慕っていた王妃の喪失の傷が癒えないままに新たな女性が王妃の座に就いた。そしてまた、なんの説明もないまま過ぎていく毎日に不満を募らせた者たちが己が命を懸けて行った抗議をレオンハルトはどう受け止めたのか。
「ララはどう思っただろうな?」
「ララ様、ですか?」
「今回のクーデターの原因の一つはララだ。それはこの一年、ララが王妃として何もしてこなかったという証明でもある。事実、ララは王妃の仕事を軽んじていたのだろう? それは民にも伝わっていたはずだ」
貧困街にいるその日暮らしの者たちが通う酒場がどれほど忙しいのか、ユーフェミアは知らない。そこで働いていたララが看板娘としてどんな風に仕事をこなしていたのかも知らない。
それでも、酒場の仕事と王妃の仕事は全くの別物。民の前に出て話を聞く。国を支える民たちがどんな生活をして、どんな物を作っているのか知ること。この国の基礎を学びに行くのも仕事の一つ。それを自分は下町出身で知っているからと軽んじることは許されない。
ララがどんな風に公務をこなしていたのか知らないため直接批判はできないものの、あの日、ララが言った言葉から察するに王妃の公務に誇りを持っているわけではないだろう。
「下町の娘にシュライアのようになれと言ってもそれは無理だ。シュライアは元公女。比べるほうがおかしい。しかし、だからといって努力しなくてもよいわけではない。何も知らぬからこそ誰よりも努力して誠心誠意、国に尽くす姿を見せねばならぬ。甘えてはならぬのだが……レオンハルトが甘やかしていては……いや、結局その甘やかしに甘えるのだからララの責任か」
自分も下町の娘を嫁にした身。当時、自分はユーフェミアを気遣うことも甘やかすこともできず、自分のことで手いっぱいだった。それでもユーフェミアは甘えようとしたことは一度もない。もう嫌だと泣いて眠って、翌日また頑張る。
右も左もわからない中でユーフェミアはよくやってきた。だからトリスタンは何があってもユーフェミアを守ろうと思っていた。それが間違いであってもユーフェミアが傷つかないのであればそれでいいと独りよがりなこともたくさんしてきた自覚もある。
レオンハルトもそれに気付かなければならない。でなければクライアはもう二度と元には守らないだろうから。
「わたくしも、一年目二年目はほとんど何もできず、王族としての心得や所作、言われたとおりに公務をこなすことに必死でした。王族はこんなことまでするのかと驚きっぱなしで」
「悠々自適に暮らしていると思われているが、実際はそれほどでもない。毎日忙しい日々を送っていたりするからな、僕たちは」
「そうですね。前両陛下がいかにご多忙な日々をお過ごしだったか、よくわかりました」
先代が偉大であればあるほど、プレッシャーは大きい。自分も同じようにできるのだろうか、自分は認めてもらえるのだろうかと不安で眠れない日もあった。
もしララが当時の自分たちと同じ心境にいるのであればアドバイスの一つでも言えたのだが、ララからはそれが微塵も感じられなかった。同席すると言ったララをレオンハルトが突き放してくれたのは助かった。
「ですが、レオンハルト王も甘やかしているばかりではないと思うのです」
「教育していると?」
「世界会議のときもそうでしたが、ララ様に怒っていました」
「あれは教育ではない。怒鳴らなければ止められないだけだ」
「私には彼が女性の暴走の止め方を知らないだけのように見えたのです」
「ほう」
世界会議のときも城でのときも同じで、ララに言い聞かせるのにレオンハルトは怒鳴って言い聞かせた。それはとても夫が妻に言い聞かせるときにするべきことではなく、まるで主従関係のようで。
その原因の一つがレオンハルトが軍人だったことにあるのではとユーフェミアは考えた。
一つの失敗が命取りになってしまう軍人時代、部下をまとめるのに大声を出し、叱る時にも大声を出し、鼓舞にさえも大声を出す。それがレオンハルトにとっては当たり前。
シュライアを廃妃にするほど愛した女性だ。頭から威圧的な態度を取りはしなかっただろうが、何度言っても聞かないなら怒鳴るしかない。しっかりと話し合うのではなく相手が萎縮するほど怒鳴りつける。彼はそれしか方法を知らないのだと。
「叱ればいいというわけではないし、無駄に甘やかすべきではない」
「わたくしが手のひら大のダイヤモンドを陛下に黙って購入したらどうします?」
「許す」
「国税で買ったと言ったら?」
「君はそんなことはしない」
「買ったと言ったら?」
「う……それは……」
たらればの話などしたところで意味はないとわかっている。それでもトリスタンに想像させるにはそうするしかないのだが、いつも「君はそんなことしない」と言って話にならないのだから。
少し圧をかけるように笑顔で強めに問いかけると目を左右に動かしてどうすべきかと考えている。
「怒るだろうな」
「どうやって?」
「ユーフェミア、国税は王族の私財ではない。民が必死に働いて納めてくれているものだ。それをダイヤモンドなど買うために使うなどと何を考えているんだ!」
咳払いをしてから怒って見せるトリスタンの手を両手で包んで軽く引き寄せるユーフェミアにトリスタンは目を見開く。
「だって……欲しかったんです。わたくしに似合うと思いませんか?」
「似合う! よし! 僕の私財から補填しておこう! 今回だけは許す! 君のためにあるようなダイヤだ!」
普段甘えないユーフェミアからの甘えに目をハートにしたトリスタンの対応にスッと手を離したユーフェミアは苦笑しながら首を振る。
「レオンハルト王はそこまで酷い対応ではなかったでしょうけれど、シュライア様を廃妃にしてまで迎えた妻から甘えられると弱かったのかもしれませんね」
「酷い対応とは……」
それこそ酷い対応だと言いたげなトリスタンを無視してユーフェミアは溜息を吐いた。
「お二人でちゃんと話し合っているとよいのですが……」
「レオンハルトが変わらなければクライアは一ヵ月ももたないだろうな」
「シュライア様が残られましたので、シュライア様を求めている民は大人しくなるでしょうけど……」
「ララに不満を持っている民はどうかな」
ユーフェミアもそれを危惧していた。
訴える者の中にはララへの不満を抱えている者もいた。ララが王妃の仕事を軽んじている以上はその不満が解消されることはないだろう。
王妃の仕事は軽んじながら、王妃としての見目は大事にする。それでは誰もついてこない。ララがそこを理解しなければクーデターは止まらないのではないかと不安になる。
「わたくしは、あれが他人事ではないような気がしてならないのです」
「アステリアでもクーデターが起こると?」
「わたくしたちはやるべきことをちゃんとやれているのでしょうか?」
「世継ぎ問題は解決したじゃないか」
「それはわたくしたちの間での話です。そうではなく、ちゃんと国民に示すべきなのではないでしょうか? 子供はもう暫く待ってほしいと。必ず希望が訪れるからと」
「クリュスタリスから養子をもらうことも言うのか?」
「……わかりません。どうするのが一番正しいのか……。それでも、民に不安や怒りを抱かせて涙を流させることだけは避けなければなりません。世継ぎ問題も彼らはもう二十年も不満を訴えずに待ってくれているのです。わたくしたちも正しい選択をしなければなりません」
正直者が全て正しいわけではない。嘘が正解となるときもある。だが、自分たちはずっと、民を騙してきた。種のある者を種無しにし、問題のある者を問題なしにした。そして、それを受け入れてくれた民のことを考えず、その上に胡坐をかいて甘え、二十年も希望を与えようとしなかったのだ。
前王達は若くして亡くなった。現王もそうならないという保障はないのに、世継ぎがいない不安がどういうものか考えもしなかった自分たちがいかに愚かであったかをクライアのクーデターで考えさせられた。
二年後か三年後に自分たちが養子を受けられるとして、その二年か三年間、国民たちは「今年も世継ぎが見られなかった」という不安を抱えなければならない。
この国は安泰だという証がないアステリアに不満や不安がないわけではないだろう民の気持ちをちゃんと理解しなければならないだろう。
「……そうだな。ちゃんと話そう。僕たちが希望を与えないで誰が与えるのか」
「そうですね」
「何が最善か、共に考えよう」
「はい」
一緒に考えようなどと言われたことがあっただろうか。
今までのトリスタンなら「僕に任せろ」と言って特攻隊のように一人で前を進んでいた。それで守っているつもりだったことも今のユーフェミアには理解できる。
自分を後ろに置くことで守っているつもりだった。守ろうとしていた。実際、それによってユーフェミアが守られていたのも事実。
しかし、それが間違いであったことにようやく気付いた。
守られるのではなく共に立たなければならない。傷つくのさえ覚悟して立つ。国の象徴として民のために何ができるのかを二人で共に考え、そして実行していかなければならなかったのに、それに気付くのに二十年もかかった。
していなかったわけではない。だが、それはあくまでも決められた公務であって自分たちが考えて行ったものではない。決められた舞台の上で決められた台詞を口にするだけのマリオネットではないのだから。
「アステリアの民は立派ですね」
「当然だ。僕たちを育ててくれた者たちだぞ。僕たちよりもずっと立派で、アステリアの誇りだ」
アステリアが存在するのは自分たちがしっかりしていたからではなく、アステリアの民がしっかりしていたからだと気付いた。
国を愛し、国のために生きている。それが国を支え、王を支え、そして国を育てていく。
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