陰キャに恋は早すぎる

ツワブキ

文字の大きさ
28 / 35

決断

しおりを挟む
 ──どれくらいこうしているのだろう。

 滉は硬い床の上で胎児のように丸まったまま動け

ないでいる。窓の外に目線を転じると、外はすっかり暗くなっていた。滉はゆるゆると体を起こして立ち上がる。少しだけ目眩をおぼえたが、それを無視してテーブルの上に乱雑に置かれていたリモコンで部屋の照明を消した。

 外の明かりが射し込むだけになった暗い部屋で、今度はベッドに倒れ込むように横たわる。昼前に朝食兼昼食に軽く食事をして以来何も食べていない。それなのに何かを食べたいと思えない。

 滉はごろんと体の向きを変えて仰向けに寝転がる。

(のん、泣いてたな)

 いくら人の感情の機微に疎い滉であっても、歩が滉に向けて言った「好き」という言葉がどういう意味を持って発せられたのかくらいは理解できた。

(俺のこと、好きだったんだ)

 ずっと前からと言っていた。いったいいつから好きで居続けてくれたんだろう。

 滉は歩のことを友達としか思っていない。そんな滉の傍で歩はどんな気持ちで滉を見ていたのだろう。

 瞑目して滉はその瞼の裏に歩を思い描く。

 歩は見た目に反して豪快な性格で、よく喋ってよく笑う。怒っているときは少しだけ唇を尖らせる癖がある。食べ物の好き嫌いはないが、辛いものが少し苦手。幼馴染だからよく知っているはずだった。

(本気で怒ると真顔になるんだ…)

 幼馴染で、感情が顔に出やすい歩の気持ちなんて全てわかったような気でいたが、実際のところ大事なことは何一つ気付けなかった。歩が表に出していた感情は、あくまで歩が表に出してもいいと判断した一部分に過ぎないのだ。

「あ…」

 滉はその時初めて、歩の態度が変わってしまった瞬間に気付いた。

(俺が彼女ができたって、のんに話した時だ…)

 滉は思わず口元を手で覆う。

 あの時、もう寝る間際で部屋も暗かったから歩の表情はよくわからなかった。しかし、あの時を境に歩の態度が変わってしまった。

(俺に彼女ができて嫌だったんだ)

 その時の歩の気持ちを想像して、胸が潰れるような思いがした。滉は強い後悔の念に襲われる。

(なんで気付いてあげられなかったんだろう)

 歩は滉のことを忘れたいと願っている。恋人がいるのに、滉を忘れられないと幸せになれないとでもいうような口ぶりだった。

 滉は横たえていた体を勢いよく起こす。その勢いのまま部屋の端を見る。

「あーーー」

 そして、前髪を掻きむしって低く唸る。

(のん、さっきこれ見たんだ)

 部屋の隅には、先月彼女と出かけたテーマパークで彼女と揃いで買ったキャラクターの耳を模したカチューシャと、キャラクターの描かれたポップコーンバケツが置かれていた。

 滉は乱暴な動作でベッドから立ち上がると、床に置いてあったゴミ箱を手にし、部屋の隅のそれらをゴミ箱に詰め込む。

(のんにあんな顔をさせるくらいなら…)

 滉は持っていたゴミ箱を乱暴にその場に置いてテーブルの上のスマホを手にする。

 開いたのは彼女─里穂とのトーク画面。滉はそこに手早くメッセージを打ち込む。すぐに既読の文字が付いて着信があった。

「はい」

『滉!?さっきのLINE、別れるってどういうこと!?』

 滉の返事に被せるように、里穂が電話口で声を荒げる。

「ごめん」

『急にそんな、なんで?理由は?』

 震える声を聞きながら、滉は下ろした拳に力を込める。

「大切にしたい友達がいるから」

『……は?』

「その友達、俺のことが好きだから俺に彼女がいると悲しむんだ。だから、別れたい。」

『え、なにそれ。彼女の私よりその友達のが大事ってこと?』

「うん。ごめん」

『……』

 相手は滉の返事にすっかり黙り込む。

 そして、通話がぷつりと断ち切られた。

 滉ははぁーと大きく息を吐く。初めての彼女でたしかに滉は彼女を大切にしていた。こんな風に一方的に別れることになるなんて思いもしなかった。

 しかし、今の滉はどんな犠牲を払ってでも一緒にいたい相手がいる。

 滉の想いと歩の想いは重なり合わない。滉の想いと歩の想いはそもそも種類が違うのだ。

 それでも、滉はどんな形であれ歩と一緒にいたい。

(俺のことが好きなら俺といた方がのんは幸せになれる)


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

処理中です...