婚約破棄されたので、辺境でのんびり暮らします 〜地獄の皇太姫教育から解放されたら、本来の私が戻ってきました〜

丸顔ちゃん。

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第7話

王宮を離れ、公爵家の馬車に揺られながら、
レティシアは窓の外をぼんやりと眺めていた。

夜の街並みは静かで、
どこか遠い世界のように感じられる。

「……レティシア」

向かいに座る父・アーヴィン公爵が、
低く、しかし優しい声で呼んだ。

「はい、お父様」

「辛かっただろう」

その一言に、
レティシアの胸がきゅっと締めつけられた。

誰かに“辛かっただろう”と言われたのは、
いつ以来だろう。

「……私は、皇太子妃候補として当然の務めを──」

「務めなど知らん」
父はきっぱりと言い切った。

「お前はまだ十代の娘だ。
遊びたい日も、眠りたい日もあったはずだ。
それを奪ってしまった」

レティシアは言葉を失った。

父は続ける。

「レティシア。
お前をこのまま王都に置いておくつもりはない」

「……え?」

「明日の朝一番で、
お前をエルディナ辺境伯領へ送る」

エルディナ──
母の実家であり、
レティシアの祖父母が治める温暖な辺境の地。

「お祖父様とお祖母様のところ、ですか?」

「ああ。
あの二人は、お前を心から愛している。
お前が甘えられる唯一の場所だ」

レティシアの胸に、
じんわりと温かいものが広がる。

甘える──
そんなこと、考えたこともなかった。

「……私が、甘えてもいいのでしょうか」

「甘えろ」
父は即答した。

「お前は十分すぎるほど努力した。
これからは、好きに生きればいい」

レティシアは、
初めて“未来”というものを想像した。

朝、好きな時間に起きてもいい。
本を読んでもいい。
散歩をしてもいい。
笑っても、泣いてもいい。

「……そんな生活が、本当に許されるのでしょうか」

「許すとも。
お前はもう、皇太子妃候補ではない。
ただのレティシアだ」

ただのレティシア──
その言葉は、
なぜか涙が出るほど嬉しかった。

「……ありがとうございます、お父様」

アーヴィン公爵は、
娘の頭にそっと手を置いた。

「レティシア。
お前は私の誇りだ。
どうか……幸せになれ」

その言葉に、
レティシアの胸が温かく満たされていく。

馬車は静かに進み、
王都の灯りが遠ざかっていく。

その光は、
もうレティシアを縛るものではなかった。

──明日から、私は自由になる。

その実感が、
レティシアの心をそっと軽くした。
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