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王立魔法学園の正門前は、
新入生でごった返していた。
貴族。
平民。
期待と緊張と不安が入り混じった空気。
――そこに。
「……え?」
ざわ、と空気が揺れた。
正門前に現れたのは、
二人並んだ生徒。
一人は、誰が見てもわかる。
「王太子殿下……?」
「リュシアン・アルフォール殿下だ……!」
整った制服姿。
落ち着いた立ち居振る舞い。
――そして。
「……隣の子、誰?」
「え、ちょっと待って」
「可愛……」
言葉が、途中で止まる。
王太子の隣を、
自然に歩いている銀髪の令嬢。
カミラ・ルヴェール。
(……視線、すご)
私は内心で思った。
(想像してたけど、
想像よりすごい)
王子と一緒、というだけで
注目度は倍になる。
なのに。
(私の方、
見られすぎじゃない?)
歩くだけ。
それだけで、周囲のざわめきが広がる。
「婚約者って……」
「え、あの子?」
「可愛すぎじゃない……?」
(はい、想定内)
私は軽く背筋を伸ばし、
歩調を揃える。
慣れていない人の隣を、
慣れているふりで歩くのも、
元アイドルの基本。
――ふと、隣を見る。
「……」
リュシアン殿下。
顔はいつも通り、冷静。
……に見える。
「……殿下?」
小声で声をかけると、
「……っ」
一瞬、肩がぴくっと動いた。
(あ)
(緊張してる)
「だ、大丈夫ですか?」
心配そうに首をかしげる。
――無自覚仕草。
「……問題ない」
返ってきた声は、
少し低い。
(はいはい)
(また耐性削れてる)
周囲からすると。
「今の見た?」
「距離、近くない?」
「自然すぎて逆に何も言えない……」
(空気、制圧完了)
正門をくぐった瞬間、
人の流れが自然に割れた。
道が、できる。
(これはもう、
並んで歩くだけでイベントだな)
リュシアン殿下は、
前方を見ながら言った。
「……注目されているな」
「そうですね」
私は素直に答える。
「でも」
少しだけ間を置いて。
「殿下が隣にいらっしゃるからですよ」
一瞬の沈黙。
「……っ」
王子、完全に言葉を失った。
(ほら)
(自覚ゼロ系アイドル発言)
「……そう、か」
とだけ答えて、
なぜか歩くスピードが少し速くなる。
(照れてる照れてる)
教室棟が見えてきたところで、
リュシアン殿下が小さく咳払いをした。
「……学園では、
互いの立場もある」
つまり。
公では距離を、と。
「はい、もちろん」
私は微笑む。
――完璧回答。
その瞬間。
「……」
殿下の動きが、一拍遅れた。
(え、今の)
(ちょっと名残惜しそうじゃなかった?)
さすがに気のせいだと思いたい。
教室の前。
二人で立ち止まると、
周囲の視線が完全に集中した。
「……あれが、王太子の婚約者」
「噂通り……というか、
噂以上なんだけど……」
(本編、始まりました)
私は、心の中で小さく宣言する。
(ここが、原作の舞台)
(でももう、
最初から展開ズレてる)
リュシアン殿下が、
低い声で言った。
「……では、また」
「はい。また」
そう言って、
それぞれの教室へ。
離れた瞬間。
「……はあ」
殿下の小さな吐息が聞こえた――
気がした。
私は席に着き、窓の外を見る。
(さて)
(ヒロインは、
どう出てくるかな)
原作の本編は、
間違いなく始まった。
でも。
最初に並んで登場したのが
悪役令嬢と王子だった時点で、
もう原作通りにはいかない。
私は、静かに笑った。
新入生でごった返していた。
貴族。
平民。
期待と緊張と不安が入り混じった空気。
――そこに。
「……え?」
ざわ、と空気が揺れた。
正門前に現れたのは、
二人並んだ生徒。
一人は、誰が見てもわかる。
「王太子殿下……?」
「リュシアン・アルフォール殿下だ……!」
整った制服姿。
落ち着いた立ち居振る舞い。
――そして。
「……隣の子、誰?」
「え、ちょっと待って」
「可愛……」
言葉が、途中で止まる。
王太子の隣を、
自然に歩いている銀髪の令嬢。
カミラ・ルヴェール。
(……視線、すご)
私は内心で思った。
(想像してたけど、
想像よりすごい)
王子と一緒、というだけで
注目度は倍になる。
なのに。
(私の方、
見られすぎじゃない?)
歩くだけ。
それだけで、周囲のざわめきが広がる。
「婚約者って……」
「え、あの子?」
「可愛すぎじゃない……?」
(はい、想定内)
私は軽く背筋を伸ばし、
歩調を揃える。
慣れていない人の隣を、
慣れているふりで歩くのも、
元アイドルの基本。
――ふと、隣を見る。
「……」
リュシアン殿下。
顔はいつも通り、冷静。
……に見える。
「……殿下?」
小声で声をかけると、
「……っ」
一瞬、肩がぴくっと動いた。
(あ)
(緊張してる)
「だ、大丈夫ですか?」
心配そうに首をかしげる。
――無自覚仕草。
「……問題ない」
返ってきた声は、
少し低い。
(はいはい)
(また耐性削れてる)
周囲からすると。
「今の見た?」
「距離、近くない?」
「自然すぎて逆に何も言えない……」
(空気、制圧完了)
正門をくぐった瞬間、
人の流れが自然に割れた。
道が、できる。
(これはもう、
並んで歩くだけでイベントだな)
リュシアン殿下は、
前方を見ながら言った。
「……注目されているな」
「そうですね」
私は素直に答える。
「でも」
少しだけ間を置いて。
「殿下が隣にいらっしゃるからですよ」
一瞬の沈黙。
「……っ」
王子、完全に言葉を失った。
(ほら)
(自覚ゼロ系アイドル発言)
「……そう、か」
とだけ答えて、
なぜか歩くスピードが少し速くなる。
(照れてる照れてる)
教室棟が見えてきたところで、
リュシアン殿下が小さく咳払いをした。
「……学園では、
互いの立場もある」
つまり。
公では距離を、と。
「はい、もちろん」
私は微笑む。
――完璧回答。
その瞬間。
「……」
殿下の動きが、一拍遅れた。
(え、今の)
(ちょっと名残惜しそうじゃなかった?)
さすがに気のせいだと思いたい。
教室の前。
二人で立ち止まると、
周囲の視線が完全に集中した。
「……あれが、王太子の婚約者」
「噂通り……というか、
噂以上なんだけど……」
(本編、始まりました)
私は、心の中で小さく宣言する。
(ここが、原作の舞台)
(でももう、
最初から展開ズレてる)
リュシアン殿下が、
低い声で言った。
「……では、また」
「はい。また」
そう言って、
それぞれの教室へ。
離れた瞬間。
「……はあ」
殿下の小さな吐息が聞こえた――
気がした。
私は席に着き、窓の外を見る。
(さて)
(ヒロインは、
どう出てくるかな)
原作の本編は、
間違いなく始まった。
でも。
最初に並んで登場したのが
悪役令嬢と王子だった時点で、
もう原作通りにはいかない。
私は、静かに笑った。
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