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第5話「妹の甘えと、揺らぎ始める立場」
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皇子との謁見から数日後。
私はいつも通り、皇太妃教育のために書斎で本を読んでいた。
そこへ、廊下から甲高い声が聞こえてくる。
「殿下~、こっちですわ~!」
……ミレイユ?
胸がざわつき、私はそっと扉を開けた。
庭園では、ミレイユが皇子の袖を掴んでいた。
淡いピンクのドレスに、ふわふわのリボン。
甘えた声で笑いながら、皇子を見上げている。
「殿下、わたし、お花が大好きなんですの。
お姉様は冷たいから、こういうの興味ないんですって」
その言葉に、皇子の眉がわずかに動いた。
(……冷たい?)
私は胸の奥がきゅっと痛むのを感じた。
皇子は私を見つけると、少し驚いたように言った。
「リディア。君も来ていたのか」
「はい。皇太妃教育の合間に、少しだけ」
ミレイユがすかさず皇子の腕にしがみつく。
「殿下~、わたし、もっとお話したいですわ。
お姉様はいつも無表情でつまらないんですもの」
皇子は困ったように笑った。
「ミレイユ、あまり人を悪く言うものではないよ」
「だって本当ですもの~」
ミレイユはくすくすと笑い、
その笑い声が、私の胸に小さな棘のように刺さった。
その日の夕食。
継母は満足そうに言った。
「ミレイユは殿下に気に入られたようね。
リディア、あなたも見習いなさい。
もっと可愛げを持ちなさいな」
「……はい」
私は静かに答える。
可愛げ。
それは、私が一番持っていないもの。
努力しても、完璧でも、
“可愛い”という評価だけは、決して得られなかった。
ミレイユはスープを飲みながら、にこにこと笑う。
「殿下、わたしのこと褒めてくださったの。
“明るくて可愛い”って」
その言葉に、父が満足げに頷いた。
「ミレイユは愛嬌があるからな。
リディア、お前も少しは見習え」
私は静かにスプーンを置いた。
(……私は、何をしても“冷たい”と言われる)
胸の奥が、またひとつ削られていく。
その夜、鏡の前に立つ。
銀髪は整えられ、姿勢も完璧。
皇太妃教育で鍛えられた所作は、誰よりも美しい。
なのに――
(どうして、私は“可愛くない”のだろう)
答えは出ない。
ただ、静かに目を伏せた。
その時、廊下からミレイユの声が聞こえた。
「お姉様の婚約者、わたしの方が似合ってるわよね~」
胸が、ひどく痛んだ。
それが、すべての始まりだった。
私はいつも通り、皇太妃教育のために書斎で本を読んでいた。
そこへ、廊下から甲高い声が聞こえてくる。
「殿下~、こっちですわ~!」
……ミレイユ?
胸がざわつき、私はそっと扉を開けた。
庭園では、ミレイユが皇子の袖を掴んでいた。
淡いピンクのドレスに、ふわふわのリボン。
甘えた声で笑いながら、皇子を見上げている。
「殿下、わたし、お花が大好きなんですの。
お姉様は冷たいから、こういうの興味ないんですって」
その言葉に、皇子の眉がわずかに動いた。
(……冷たい?)
私は胸の奥がきゅっと痛むのを感じた。
皇子は私を見つけると、少し驚いたように言った。
「リディア。君も来ていたのか」
「はい。皇太妃教育の合間に、少しだけ」
ミレイユがすかさず皇子の腕にしがみつく。
「殿下~、わたし、もっとお話したいですわ。
お姉様はいつも無表情でつまらないんですもの」
皇子は困ったように笑った。
「ミレイユ、あまり人を悪く言うものではないよ」
「だって本当ですもの~」
ミレイユはくすくすと笑い、
その笑い声が、私の胸に小さな棘のように刺さった。
その日の夕食。
継母は満足そうに言った。
「ミレイユは殿下に気に入られたようね。
リディア、あなたも見習いなさい。
もっと可愛げを持ちなさいな」
「……はい」
私は静かに答える。
可愛げ。
それは、私が一番持っていないもの。
努力しても、完璧でも、
“可愛い”という評価だけは、決して得られなかった。
ミレイユはスープを飲みながら、にこにこと笑う。
「殿下、わたしのこと褒めてくださったの。
“明るくて可愛い”って」
その言葉に、父が満足げに頷いた。
「ミレイユは愛嬌があるからな。
リディア、お前も少しは見習え」
私は静かにスプーンを置いた。
(……私は、何をしても“冷たい”と言われる)
胸の奥が、またひとつ削られていく。
その夜、鏡の前に立つ。
銀髪は整えられ、姿勢も完璧。
皇太妃教育で鍛えられた所作は、誰よりも美しい。
なのに――
(どうして、私は“可愛くない”のだろう)
答えは出ない。
ただ、静かに目を伏せた。
その時、廊下からミレイユの声が聞こえた。
「お姉様の婚約者、わたしの方が似合ってるわよね~」
胸が、ひどく痛んだ。
それが、すべての始まりだった。
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