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第21話「初夜――距離のある優しさ」
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北方の城に入ると、
空気は王都よりもずっと冷たかった。
けれど――
胸の奥の緊張の方が、もっと冷たかった。
(……今日から、私はこの人の妻)
噂では“冷徹残酷”。
嫁いだ令嬢は三年持たない。
そんな相手と、
同じ屋根の下で暮らす。
足が震えた。
アレクシスは長い廊下を歩きながら、
一度も振り返らなかった。
ただ、低い声だけが響く。
「北方は厳しい土地だ。
だが、理不尽はない。
必要なのは力と覚悟だけだ」
(……王都とは違う)
王都は噂と偏見で人を殺す。
北方は実力だけを見る。
アレクシスは続ける。
「お前が王都でどう扱われていたかは知っている。
だがここでは関係ない。
“辺境伯夫人”として扱う」
その言葉は冷たいのに、
どこか誠実だった。
アレクシスが立ち止まった。
「ここがお前の部屋だ」
扉が開くと、
暖炉の火が静かに揺れていた。
王都の部屋よりも質素だが、
温かい。
(……噂の“冷徹残酷”とは違う?)
アレクシスは淡々と言った。
「必要なものがあれば言え。
衣服も、王都のものでは寒さに耐えられん」
私は思わず問い返した。
「……私のために、用意を?」
アレクシスは眉ひとつ動かさず答えた。
「当然だ。
妻を凍えさせる夫がどこにいる」
胸が少しだけ揺れた。
(……優しい?
いや、これは“義務”としての言葉)
そう思い込もうとした。
アレクシスは部屋の中央で立ち止まり、
こちらを見た。
「誤解するな。
今日から夫婦だが――」
一拍置いて、
静かに言った。
「お前が望まぬ限り、手は出さない」
私は息を呑んだ。
(……噂と違う)
アレクシスは続ける。
「王都の連中は好き勝手に噂を流すが、
私は女を無理やり抱く趣味はない」
その言葉は、
冷たくも、どこか優しかった。
「安心しろ。
お前が怯える必要はない」
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
(……この人は、本当に“冷徹残酷”なのだろうか)
アレクシスは背を向け、
扉へ向かった。
「私は向かいの部屋にいる。
何かあれば呼べ」
扉が閉まる。
静寂が落ちた。
暖炉の火を見つめながら、
私は静かに息を吐いた。
(……怖いはずなのに)
胸の奥には、
ほんの少しだけ“安心”があった。
噂とは違う。
冷徹でも残酷でもない。
むしろ――
誰よりも誠実で、
誰よりも距離を守ってくれる。
(……この人の妻として、生きられるだろうか)
初めて、
未来を考える余裕が生まれた。
その夜、
私は王都では一度も眠れなかった深い眠りに落ちた。
空気は王都よりもずっと冷たかった。
けれど――
胸の奥の緊張の方が、もっと冷たかった。
(……今日から、私はこの人の妻)
噂では“冷徹残酷”。
嫁いだ令嬢は三年持たない。
そんな相手と、
同じ屋根の下で暮らす。
足が震えた。
アレクシスは長い廊下を歩きながら、
一度も振り返らなかった。
ただ、低い声だけが響く。
「北方は厳しい土地だ。
だが、理不尽はない。
必要なのは力と覚悟だけだ」
(……王都とは違う)
王都は噂と偏見で人を殺す。
北方は実力だけを見る。
アレクシスは続ける。
「お前が王都でどう扱われていたかは知っている。
だがここでは関係ない。
“辺境伯夫人”として扱う」
その言葉は冷たいのに、
どこか誠実だった。
アレクシスが立ち止まった。
「ここがお前の部屋だ」
扉が開くと、
暖炉の火が静かに揺れていた。
王都の部屋よりも質素だが、
温かい。
(……噂の“冷徹残酷”とは違う?)
アレクシスは淡々と言った。
「必要なものがあれば言え。
衣服も、王都のものでは寒さに耐えられん」
私は思わず問い返した。
「……私のために、用意を?」
アレクシスは眉ひとつ動かさず答えた。
「当然だ。
妻を凍えさせる夫がどこにいる」
胸が少しだけ揺れた。
(……優しい?
いや、これは“義務”としての言葉)
そう思い込もうとした。
アレクシスは部屋の中央で立ち止まり、
こちらを見た。
「誤解するな。
今日から夫婦だが――」
一拍置いて、
静かに言った。
「お前が望まぬ限り、手は出さない」
私は息を呑んだ。
(……噂と違う)
アレクシスは続ける。
「王都の連中は好き勝手に噂を流すが、
私は女を無理やり抱く趣味はない」
その言葉は、
冷たくも、どこか優しかった。
「安心しろ。
お前が怯える必要はない」
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
(……この人は、本当に“冷徹残酷”なのだろうか)
アレクシスは背を向け、
扉へ向かった。
「私は向かいの部屋にいる。
何かあれば呼べ」
扉が閉まる。
静寂が落ちた。
暖炉の火を見つめながら、
私は静かに息を吐いた。
(……怖いはずなのに)
胸の奥には、
ほんの少しだけ“安心”があった。
噂とは違う。
冷徹でも残酷でもない。
むしろ――
誰よりも誠実で、
誰よりも距離を守ってくれる。
(……この人の妻として、生きられるだろうか)
初めて、
未来を考える余裕が生まれた。
その夜、
私は王都では一度も眠れなかった深い眠りに落ちた。
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