異世界冒険録~七柱の神と十の種族~

大地の神 カウイル

バラジット

　ドワーフの集落を離れたコナー一行は、エルフの大森林へ向かう途中、道に倒れていた一人の少年を拾い馬車で寝かせていた。
「っは！」

「ようやく目が覚めたんだね。あんな場所で倒れているなんて何かあったのかい？」

「お兄さん！お姉さん！お願いします！村の人たちを助けてください！」

　少年に話を聞くと、少年を除いた村民全員が極度の腹痛に襲われているのだという。コナーたちは必死な少年の頼みを断ることができず村へと向かうことになったり

「母ちゃんただいま。助けを呼んできたから、もう安心してね！」

　村の外に人はおらず、複数の家の中から呻き声だけが村に響いていた。少年は小さな家へと足を踏み入れた。後を追い家へ入ると、お腹の膨らんだ、少年の母親と思われる女性が布団の中で苦しんでいた。
「……あんた、こんな時間までどこに……!!」

「母ちゃん！お願い、早く母ちゃんを……」

「お体失礼します。」

　ジル王子は少年の母親の横に座り、母親が抑えているお腹にそっと手を置いた。
「これは……。失礼ですが妊娠はされていますか？」

「いえ、夫は早くに亡くなったので……」

「……申し訳ありません、あなたとお子さんのお名前を伺ってもよろしいですか。」

「私の名前はマノン……息子はピエロです。……私は……もう長くないのですね……」

　名前を名乗った女性はジル王子の表情で自身に残された時間を察した。
「……残念ながら私たちにできることは何も……」

「嘘だろ……。なんでそんな事言うんだよ！助けてくれるために村に来てくれたんじゃないのかよ！」

「……マノンさんの体に起きていることについて説明するから、二人とも落ち着いて聞いてください。マノンさん、あなたのお腹の中には一匹の虫が住み着いています。」

　マノンさんとピエロくんの顔が青ざめた。
「虫の名前はパラジット。こいつらは山に住み、山の食べ物に片っ端から卵を植え付ける生き物です。そして植え付けられた食べ物は様々なな生き物のお腹の中に運ばれます。」

「胃の中へと運ばれた卵はお腹の中で羽化し、生き物に寄生します。パラジットは外へと出るため、お腹の中身を食べ成長し、人間の頭と同じくらいのサイズになると、お腹を突き破り外へと出てきます。」

「ピエロ……こっちにおいで。」

　マノンさんは涙を流すピエロくんを抱きしめた。
「三人は外でこの民家を守ってくれ。彼女の状態を見るに他の村人も手遅れだ。気をつけてね。」

　ジル王子はマノンさん、ピエロくんと民家に残り、コナーたちは外でいつ戦闘になってもいいよう武器を構えた。
「来るぞ！」

　外へ出てから数分が経ち、村の中から聞こえてきていた呻き声がピタリと止まった。
　ﾌﾞﾌﾞﾌﾞﾌﾞﾌﾞﾌﾞﾌﾞ。

　その瞬間村全体からおぞましい羽音が聞こえ、家の中から人間の頭程の大きさのハエのような生き物が飛び出した。

　一匹、二匹と次々と飛び出してきたパラジットのほとんどは山の方角へと飛んで行ったが、そのうちの数十匹がコナーたちを襲った。パラジットは素早く不規則な動きでコナーたちの攻撃を躱し続けた。
「コナーくん！ヤンくん！二人を抱えて村の外へと走るんだ！」

　民家から出てきたジル王子はピエロくんを抱き抱えたままコナーたちに指示を出した。コナーたちは武器を鞘に納め、二人をお姫様抱っこして村の外へと物凄い速度で走った。
「クロエくんは炎、シルヴィさんは風の魔法を最大火力で村に叩き込むんだ！」

　コナーたちが村の外へと出ると、クロエ、シルヴィの魔法により、後を追いかけてきていたパラジット諸共村が大爆発した。
「ジル王子、その子どうするんですか？」

　村を離れ、馬車に戻ったコナーたちは再びエルフの大森林を目指し馬車を走らせていた。
「ピエロくんは次の村で下ろす予定だ。」

　ピエロくんは母親と共に村の住民を失い暗い顔をしていた。コナーたちはピエロくんにかける言葉が見つからず、しばらく静寂の旅が続いた。