異世界冒険録~七柱の神と十の種族~

ネコノトリ

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大地の神 カウイル

美食の街

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 コナーたちは、エルフの大森林に着く前に一度しっかり休むため、少し道を外れジル王子の知り合いが領主を務める街へと来ていた。
「ようこそいらっしゃいましたジル王子!すぐに食事を準備させますので、どうぞお部屋でおくつろぎください。」

 それぞれが別々の部屋へ案内され、一時間が過ぎた頃、使用人が部屋を訪れ食堂へと案内をしてくれた。
「驚いたな……どの料理も格別に美味しい。何か秘訣でもあるのですか、ルッジェロ卿?」

 テーブルの上には、コナーたちが食べた事のないような料理が、これでもかと並べられており。コナーたちは食事のマナーを知らないなりに気をつけて慎重に食べ進めていた。
「えぇ!畑の土に魔力を集めることで食材のレベルが格段に上がったのです!それを機に家畜の餌も変えたおかげで柔らかく脂の乗った肉へと変わりました。」

「なるほど……参考にしたいのだが、食事が終わり次第、家畜小屋と畑を見せてもらうことは可能だろうか?」

「えぇ!もちろんですとも!……そんなことよりもジル王子。そこに座っている少年は……」

「あぁ、彼の名前はピエロ少年だ。村が彼を残して滅んでしまってな、旅に連れいく訳にもいかないため、この街に降ろしていくつもりだ。」

「そんなことが……ジル王子、よろしかったら私の館でお預かりしますが、どうでしょう。」

「ルッジェロ卿はああ言っくれているが、ピエロ少年、この館に住むということでいいだろうか?」

 ピエロくんは軽く頷きジル王子に意志を示した。
「ここが私の自慢の畑です。」

 食事が終わり、コナーたちはピエロくんと食堂で別れ、ジル王子と共に畑の案内を受けていた。
「食事中に魔力を集めていると話していましたが、具体的にどのように?」

「初めは領民に魔力を与えさせ続けていたのですが、畑の規模が規模なので魔力がいきわたらかったのです。なので私は考えたのです、別の場所から持ってくればいいと!」

「別の場所からですか?」

「そうです!ご存知の通り魔力は森羅万象全ての物に宿っています。普通なら食材が実れば実るほど土から魔力は失われ、回復するのに時間がかかるところを、我々は領地の外に出向き、土から大量の魔力を吸い上げ、畑の土に流すことで、常に食材を育てることができているのです!」

「そんなことをしては近隣の村などに影響があるのでは?」

「まぁ……そうかもしれませんな。ですが、あの美味しい食事の為なら村の一つや二つ不作になろうと些細なことです。そんなことより畑はもう見た事ですし、次は家畜小屋をご案内します。」

 ルッジェロ卿はコナーたちを家畜小屋の前まで案内した。
「ここが私の所有する家畜小屋です。」

 ルッジェロ卿の家畜小屋は、平民の住まいよりも立派で綺麗な小屋だった。
「畑もそうですが、家畜小屋までも館の傍に建てるとは思いっきりましたね。」

「えぇ、両方とも管理が平民には難しいため、仕方なく私の使用人に面倒を見させているのです。初めは匂いでどうにかなりそうでしたが、飼育している家畜を綺麗にしてから少しは慣れてきました。」

 ルッジェロ卿の言う通り、館に着いてから畑の匂いは感じたものの、家畜小屋から漂うはずの強烈な糞尿の匂いは感じていなかった。
「実はですね、僭越ながら私めからジル王子にサプライズを用意しておりまして、準備が整っているか小屋の中の様子を確かめてくるため、少々ここでお待ちいただけないでしょうか。」

 ジル王子が申し出を了承するとルッジェロ卿は小屋の中へと入り、しばらくすると小屋の中からルッジェロ卿の悲鳴が聞こえた。悲鳴を聞き慌ててジル王子が家畜小屋の扉を開けると衝撃の光景を目の当たりにした。
「なんだ……これは……」

 小屋の中には老若男女、様々な人間が体を拘束されており、腹部が異様なまでに肥大化していた。

 ブブブブブブブ。家畜小屋の最奥から聞きたくもない羽音が聞こえ目を向けると、血溜まりの中倒れるルッジェロ卿とそれを見下ろすようにパラジットが浮遊していた。
「ルッジェロ卿!」

 ジル王子たちが近づくとパラジットは窓を突き破り外へと逃げていった。
「ジ、ジル王子!助けてください!」

 ルッジェロ卿の体は四肢がなくなっており、まるで餌を新鮮なまま保存するかのように切断面は粘着性の糸で止血されていた。
「お兄さん……お姉さん……ごめんなさい。本当は山の果実を一口だけ食べたんだ……だけど……お母さん……みたいに……殺されると思うと口に出せなくて……」

 ルッジェロ卿の近くに縛られていた少年の顔を見ると、その少年は先程まで一緒に居たピエロくんだった。ピエロくんの腹部はパラジットに食い破られており、内蔵は無事なようだが長くは持たないだろうことは誰の目にも明らかだった。
「まさか、こんなことになるなんて……ジル王子!なんて子供を連れてきたんですか!責任は取ってもらいますよ!」

「そうだな……ドラン王国の王子として責任は取らなくてはな……ただしルッジェロ卿、貴方にも責任はとってもらう!」

「何を言って!」

 ジル王子はそう言うとルッジェロ卿をピエロくんの傍に運んだ。
「今からピエロ少年の治療を行う。クロエくん、シルヴィさん手を貸してください。コナーくんとヤンくんは縛られている人の解放をお願いします。」

「ちょ、ちょっと待て!そんなガキよりも先に私を直せ!誰のせいでこんなことになったと思っている!」

「闇魔法 痛覚遮断 聴覚遮断」

 ジル王子はルッジェロ卿を無視しピエロくんの体に二つの魔法をかけた。
「ルッジェロ卿。今からあなたには、その命を持って罪を償っていただきます。」

「何を言っ……がぁぁぁぁぁぁ!!」

 ジル王子は懐から短刀を取り出し、ルッジェロ卿の腹部を引き裂いた。胃や大腸 小腸などのピエロくんの傷ついてしまっている内蔵と同じ部位を取り出し、ピエロくんの体へ光魔法を用い結合させ移植を完璧に終えた。
「これでピエロくんは大丈夫。コナーくん、街の住民が心配だ。外の様子を確かめてきてくれないか?」

 ジル王子の頼みを聞き入れ、コナーは外へと飛び出した。家畜小屋の外では館の敷地内の至る所から悲鳴が聞こえた。

 後日
 パラジットによる被害は、ルッジェロ卿の敷地内でしか出ておらず、ルッジェロ卿を含め家畜小屋に関わっている人間のみが襲われており、被害は十三名にとどまった。

 移植の終わったピエロくんは協会に預けられ、協会の医療施設を使い定期的に体の調子を見てもらうことになった。

 初日から事件に巻き込まれたコナーたちだったが、予定通り数日間この街に泊まり、エルフの大森林目指し、再び旅へと戻った。
 
 


 

 
 
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