推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?~前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します~

いつく しいま

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第一章 推し様たちとの出会い

3. あふれる鼻血

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 その後、僕は自由の身になった。
 なんか、ハルド上司がその後どうなったか気になるけど……まぁそれより。
 王立刑事裁判所出口にて身体を伸ばす。スキップしようと身を乗り出して、一度だけ空を見上げた。
 夕日が石畳を染めている。それだけで少し気分が良かった。

「はぁ! 牢獄はもうこりごり! きもちー」

 爽快感マックスだ。スキップしようと軽やかに身を乗り出す。

「おい」

 低い声で後ろからいきなり声をかけられる。はえ?

 振り返ると、フードを深く被った男二人が立っていた。紫の瞳をしたほうの男が僕に声を掛けようと近づいてくる。

「ちょっと。きみに話があるんだ」

 このイケボ聞いたことある……まさか――

 二人はフードを外して正体を晒した。

 一瞬だけ、時間が薄くなった気がした。

 前世で何度か感じた感覚だった。証拠が全部揃った瞬間とか、無罪判決の直前とか。頭が処理を追いつかせるために、周囲の時間を勝手に遅くする、あの感じ。

 今は、多分、別の理由で。

「どわぁぁぁぁぁぁ!?」

 気づいたら叫んでいた。
 すってんころりん。後ろに倒れ、尻で石畳を打った。
 視界が反転して、夕空が映った。

「……だ、大丈夫かよ!?」

 僕は盛大に後ろに倒れ、尻餅をついていた。

 緋色の短髪で深緑の瞳をしたもう一人が、僕のほうを覗き込む。
 二人共、耳が尖ったヴィランだった。そして、前世の僕の推し。いいか、もっかい言うよ。推しだ。
 紫の瞳で片目が黒髪で隠れたほうのヴィランは、大転倒した僕に心配そうに手を差し伸べる。

 全身の血が、一瞬で顔に集まる。
 つー。
 顎を触ると、血がついていた。
 やべっ。鼻血出た。僕に手を差し出したヴィランはそのまま硬直。ドン引き顔だ。

「ん゙っ」

 こらえて咳をすると、僕を立たせてくれた。
 立て直すように笑顔を取り戻すと、自己紹介を始めた。

「……俺はライラ。こっちはアヅミ。ヴィランだけどよろしく。きみは名前、なんていうの?」

「僕うゃレオンれしゅ」
 言えてない。

 ――目の前にいるのは『蒼き誓約と王子の夜明け』の攻略対象たちだ。
 ふたりとも人気キャラ……制作陣、オタクが好むキャラ属性をわかっていらっしゃると飛び跳ねたものだ。
 とうとう降臨しやがった。最高。
 僕が昇天しそうになっていると、ライラさんは本題に入った。

「単刀直入に言うけど、きみにちょっと頼みたいことがあるんだ」

 頼み? イケメンが僕に何の用だ!


 ◆◇◆


 そろそろ暗くなってきている。
 王立刑事裁判所の近くにある老舗の喫茶店は、英雄族やヴィラン関係なくほどほどに客が来ていた。喫茶店内のテーブル席で僕は居住まいを正して座る。やばい、向かいにいる二人を直視できない。
 僕はクリームソーダをすすり、ライラさんの前には柘榴の色をしたカクテル、アヅミの前にはパッと見ジンジャーエールの炭酸水が置かれている。

「そっそれで、頼みたいことって……」

 僕は二人をしげしげと見つめて話を促した。

「ヴィラン族のボスの息子――今捕らえられているカイという者を、助けてくれないか」

 僕は目が点になった。
 〝カイ〟って…またヴィラン攻略対象じゃん。僕は鼻血を押さえた。デジャヴッ。
 とりあえず、確認をしておこう。

「えっと、カイさんはなんで捕らえられて……」

「殺人事件の犯人だから。でも」

 ライラさんは飲んでいたカクテルをことり、と置いた。

「その罪は冤罪なんだ」

 淋しげに僕を見て告げた。するとアヅミはテーブルに置いた拳を震わせた。

「……カイ様はな。二ヶ月前に、英雄族の晩餐会にヴィラン代表で招待されたんだ。
 その夜の最中に、毒殺事件が起こった。
 それが余すことなく全部カイ様のせいにされたんだっ……不自然なくらいのでっち上げだ。
 カイ様は英雄族を前にしておれたちの時と同じくすごく親切にするような人なのに、貴族はカイ様の言い分なんて一ミリも聞かないんだ。ホンット、馬鹿じゃねーの……」

 どこにもやり場のないような声をアヅミは絞り出した。

「事件が起きた時真っ先にカイ様が救助に駆けつけたんだぞ。それなのに――ヴィランだからって理由だけで、証拠もろくに調べられず捕まった。貴族連中は決めつけ過ぎなんだよ。………マジで腐ってるっ……」

 ライラさんはかぶりを振って困ったように笑った。

「……だから元々期待なんてあまりしてない。でも、きみみたいな子がいるなら…少しくらいは信じてみてもいいのかなと思ってさ」

 ライラさんは、答える前に一度だけ窓の外を見た。
 それから僕に向き直った時、口の端だけが少し動いた。
 その笑みは、どこか切なくてやさしすぎた。

「それでね――」

 ライラさんは指先でカクテルのグラスを一周なぞった。

「英雄族であるきみが弁護人なら、ひとつだけ有利なことがある」

「有利……?」

「裁判所の中で、被告人がヴィランなのに、弁護人もヴィランだったら? 書類を出す前に追い出される。でも英雄族なら、少なくとも入廷はできる」

 ライラさんは笑わなかった。

「ルールを使えるのは、ルールの内側にいる者だけだから」

 その言葉が、すとんと腹に落ちた。
 なるほど。英雄族の法廷というのはそういう構造になってるのか。

「でも、英雄族であるレオン君は、大変気後れすると思うから…」

 アヅミはライラさんの言葉に頷いてから、半ば諦めたように俯く。

「そうだ……無理にとは言わな――」

 どんっ。

「っやるに決まってる!!!!!」

 僕は立ち上がり、テーブルを叩いた。周りの客たちの視線が集まる。口を開き、キョトンとした目で僕を見上げる二人。

「僕にできることなら、何でもしますよっ」

 ライラさんは不思議そうに眉を寄せた。

「……きみ、ちょっと変だよ。ほんとに英雄族らしくない。なんで、見ず知らずの俺達の願いをそんなに聞いてくれようとするの?」

「大切な推しだから」

 僕は即答する。
 あれ、今僕告白しちゃった?

「あ……? オシ?」

 アヅミはテーブルに手をついて首を傾げた。こいつ何いってんの…? とでも言いたげだ。
 うわまずった。

「あーごめんなさい、わかりやすく言うとですね。貴方がたのファンなんですっ、僕。だから放ってはおけないんです……」

 ぷしゅー……と力が抜ける。恥ずかしい。
 ライラさんとアヅミは目を少し見開いてから、お互い顔を見合わせた。

「くっ」
「ぷ……ふふっ。レオン君きみ、本当に変わった子だね」

 今、笑った……!? やっぱ美形すぎだろ。

「それは良かった。ふう、ふう……」

 アヅミは若干笑いが引かないままため息を吐く。

「息切らしてんじゃねーか……落ち着け」
「はいぃっ」

「!? また鼻血出してんのかよ!? 出すなよ!!」

 アヅミは立ち上がってとんとん、と僕の肩を叩いた。

「……ファン、か。そんな風に言われたの、初めてだ……」

 小さく繰り返してから、ライラさんは目を細めて、カクテルを片手で飲み干す。

「きみ、この後大丈夫かい」

 にこにこして僕に聞いた。

「? はい」

「じゃ、今から行こうか」
「……? どこへ……」

「俺達の拠点――俗に言うアジトだね。きみには、ボスに会ってもらうよ」

 今から、行く? 推したちの元……に?
 僕の心臓が、どくんっと跳ねた。
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