推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?~前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します~

いつく しいま

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第一章 推し様たちとの出会い

2. 最終弁論は笑って言うのが正義でしょ?

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 前世を思い出したから、兵士として期待してくれてる家族には悪いけど転職しようか。弁護士、にね。

 頼んだことが叶い、僕は裁判にて最終弁論を自分自身で行う許可をもらえた。
 あの看守はなんとしっかり僕の願いを聞いて、上層部に駆け寄ってくれた。超意外。うれし。

 あれから三日後、昼の十二時。
 高い石柱の間をくぐって入廷した瞬間、声が吸われるように静かになった。格式高い王立刑事裁判所にて、傍聴席には人がどんっと集まっていた。

 席から見上げる法廷は、天井が思ったより高い。

 あぁ~! どぎまぎするよこの感じ!

 長いヒゲを生やした裁判長がハンマーみたいな見た目をしたお馴染みのガベルをカンカンと鳴らした。
 この音懐かしい。被告人席から聞いたのは初めてだけどね。

「それでは、被告人レオン・カーティスに対する英雄族殺人事件の審理を始めます。ゴホン、ルーカス検事、起訴状を読んでください」

 厳かに始まったぜ。
 〝起訴状〟……確か検察官が「この人を裁いてっ!」とか言って裁判所に提出する書類のことだったか。
 下卑た笑いをした三十代くらいのいかつい検察官が、起訴状と見られる書物をばっ……と広げて読み上げた。

「被告人、レオン・カーティス。英雄族であり王都駐屯兵・下級兵士。
 被告人は、自分自身の下級兵としての日頃の鬱憤から犯行を行った。
 居住区の裏路地で、被告人は市民アルマン・ローデンを短剣で刺殺し、即死させた疑いがある。
 現場付近にて被告人は血まみれの状態で逮捕された。凶器からは指紋、現場からは目撃証言。
 以上の証拠から、当検察局は被告人を『通り魔殺人』の罪に問う!」

 おー、でっち上げが上手いことで。
 裁判長は頷くと、僕の方を見た。

「それでは被告人、この起訴状の内容は、間違いありませんか?」

「いいえ! 僕は潔白です!」

 ぶんぶん首を振り僕は言った。
 笑い声や蔑むようなヒソヒソ声が傍聴席から聞こえる。僕のことを信じる気も無いらしい。薄情だなぁ。
 裁判長は横にある当事者席にするりと目配せをした。

「それでは、ハルド・モートンさんに証人として話を聞きます」

 ルーカス検事は席に座る証人に笑顔で聞く。

「事件が起こった時直後、被告人を目撃したのは貴方ですね?」

「はい」

 ハルドはゆっくりと証言台の前に立った。
 うわ、僕の上司じゃん。しかもドヤ顔。

「見ましたよ。血まみれで短剣を持つレオンを、路地の奥からこの目で!」

 堂々と証言台に立つハルド。うん完全に裏切り者の顔だ。

「さらに、凶器の指紋と血痕をご覧ください」

 ルーカスが証拠魔法を展開した。空中に短剣と、僕の指紋がはっきりドンと映る。

「決定的ですね」

 傍聴席がざわつき、裁判長まで「これは」って顔してる。

 はぁ。もう、前世の日本では考えられないよ。
 こんな詰めの甘い証拠ででっち上げて、ただで済むと思ってるの?
 僕は呆れた顔で被告人席から検察官を見上げる。

 しかし、僕の考えていることとは裏腹に、近くの傍聴席にいた看守の間で「終わったな…」と声が漏れた。

「法は冷徹である。以上、王国検察局はこの求刑をもって、被告人に対し断罪を求める!!」


 僕は一瞬だけ目を伏せ、しかしすぐに顔を上げた。


「……まだだ」

 僕の呟くような声にしん、と法廷が静かになった。

「被告人、なんでしょう」

 裁判長が怪訝そうに聞いた。

「〝証拠〟なら、僕にもあるよ」

 僕は笑って言った。

 その場にいる法廷の人々全員が疑心に満ちた様子で僕に視線をよこすのが分かった。数秒後ざわざわと大きなどよめきが広がる。
 カンカンと音が聞こえた。

「皆様、静粛に。では、被告人の弁論…最終意見陳述を行います――」

 僕はハルドの方を見た。

「この凶器。検察の提示した画像によると、指紋が鮮明すぎるんですよ」

 まるでカタログ写真についた指紋みたいだ。

「普通はもっと、こう……血でベタベタになってるはずなんです」

「べ、ベタベタ?」

「はい、犯罪現場のリアリズムってやつです」

 僕はうむうむと頷く。
 これも恐らく、犯人が僕の指紋を事前に採取して、はっきり分かるように短剣に付着させたものだと思うよ。

「もし通り魔が使ったなら、返り血で汚れ、指紋は一部欠けるはず。それが完璧に血痕の上から残っている。ねぇ、ハルドさん、犯人がわざわざ指紋を拭いて凶器を握り直したとでも?」

「そ、それは……」

 ハルド上司、声が上ずってるよ。

「さらに、目撃位置の問題があります。あの路地からでは――」

 その瞬間、ルーカスが割り込んだ。

「よろしい。では被告人、お聞きしましょうか」

 笑みを消したルーカスが、分厚い書類の綴りを開く。

「当日、訓練場から裏路地まで、あなたはひとりでしたね?」

 ……っ。
 喉が一瞬、固まった。
 そうだ。アリバイがない単独行動だった。
 三秒、黙った。

「……ひとりでした」

 傍聴席から嘲笑が漏れ、ルーカスが勝ち誇った顔になる。
 だけど。

「最後に聞かせてください、ハルドさん」

 僕は静かに、ハルドへ向き直った。

「もし僕が単独で犯行を行ったなら、血痕は中央に飛散するはずです。でも見てください。この飛び散り方は横向きです。まるで、見た目をしていますね?」

 証拠魔法の映像を指差す。

「そして最後。あなたの目撃位置――路地の奥ですよね。あそこ、完全に死角です。裏路地なんて見えません」

 ざわっ、と法廷が揺れる。

 ルーカスが慌てて口を開いた。

「ば、馬鹿げてる! そんなのハッタリ――」

 僕はにっこり笑って首をくいっと傾げた。

「馬鹿げてる? じゃあ反論してみてくださいよ。血痕でも、指紋でも、死角でも、どれでもいいよっ!」

 手を広げて歓迎するように言ってみせる。ハルドは汗をだらだら流し、口をパクパクさせた。僕は仕上げに、ガベルを持った主に声をかけた。

「裁判長。魔力波動の検査をお願いします。嘘なら、魔力が乱れることでしょうから」

 ハルドの顔がどんどん青ざめる。
 そもそも噓を証言すること自体、前世の日本なら偽証罪だからな。そんなことをするためだけにわざわざ法廷に上がるなんて、怪しすぎる。もう可能性は一つしか考えられないよ。

「……許可しよう」

 裁判長はやむをえずといった顔で魔法陣を展開させ、ハルドの周りを光が包む。
 ハルドの周囲に展開した魔法陣が、不穏な赤色に染まった。まるで嘘が可視化されるみたいに、波形が乱れ、鋭い警告音が法廷に響いた。

「や、やめろ……違う……俺は……!」

 傍聴席が今までになく騒がしい。僕は笑みを浮かべて立ち上がった。

「ねぇ、ハルド上司。あなたが――犯人ですもんね?」

 ごめんね。おあいにく様、前世は一流だったもんで。
 ここが異世界だとしても、今は関係ない。法廷は僕のホームだ。

「……レオン・カーティス。被告人は、無罪である!」

 勢いよくガベルが叩かれる。
 ルーカス検察官は顔を真っ赤にした。ハルドは声が震え膝から崩れ落ち、やがて自分の罪を自白したのだった。

 その後、僕のガッツポーズが王都新聞に載ったのは、また別の話だ。



 ◆◇◆



 判決が出た時、傍聴席の一番奥の列で、フードをかぶった二人連れが立ち上がったのを――僕は知らなかった。

「ははっ! あいつ、ただの兵士と全然違いますね」

 勝気に手を叩いた男が、隣に立つ男に声をひそめた。

「どう思います?」

「……面白い子だねぇ」

 フードの奥で、紫の瞳が細くなった。

「この子こそ、ボスが探してた人材かもしれない。ひとまず、声をかけてみよっか」

 なんか知らぬ間にとんでもないフラグが立ったような気がしたが、まぁいいか。
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