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夏の北海道 二日目
しおりを挟む「今日はカレーからスタートで。」
「ちょっと待ってよ。カレー!?朝だよ!? それ、もうツッコミ待ちだよね?」
後部座席から身を乗り出した友希は運転席の和也くんを覗き込む。
「え、本気ですけど。」
急に彼女の顔が近づいたせいか、慌てたように上半身を引いた彼の苦笑いする顔が背もたれの隙間から見えた。
あ…、和也君の目が泳いでる。
昨日初めて会ってからたまに見せる、どことなく他人と一線引いているような仕草や態度。
話しかけるのに名前を呼んで腕を掴むと、一瞬ビクッとした後で節目がちに身を引いたり、味の違うソフトクリームを食べ合うのだって一口分乗ったスプーンを差し出すと〝いや、自分のスプーンあるんで〟と断られた。
途中までは初対面でやけに嫌われてるなと思っていたけど、〝俺たち、男子校出身なんだ〟って言う大島君の話を聞いて和也君の態度にちょっと納得。
女性慣れしてないだけ…、なのかな?
だからと言って私が嫌われてない確証にはならないけど。
私は昔から馴れ馴れしいとよく言われる。
〝初対面でも昔から知ってるみたいに接してくるね〟
この言葉は今まで大抵の人に言われてきた。
中には良い意味で言ってくれた人もいただろうけど、そうじゃない表情や声のトーンの人もそれなりに多かったように思う。
どうしてそうなったのか、いつからそうなのかは自分にも分からない。
気づけばこんな風だったし、もしかすると人との〝距離の縮め方〟みたいなものがよく分からないから、初対面の人にも全力で自分を出してしまう…のかも。
ただ、それが良いのか悪いのか、浅い仲良しにありがちなお世辞やフォローが苦手で、思っている事の70パーセントを口に出して言ってしまうから〝合わない〟と思われて離れていかれるのも早い。
でも、私はそれを特にどうと思わない。
離れていく人をわざわざ引き止めて仲良くしようなんて思った事ないし、そうまでして離れたくない人がいた事もない。
本当に自分は人に対して無関心なんだなと改めて思う。
これって、私が人を好きになった事がないのと関係してるのかな…。
「和也君、顔が本気だぁ…。私の北海道牛乳……。ウキウキの朝が…。亜弥ちゃぁん…、和也君を止めて…。」
昨日の夜から〝明日の朝は美味しい牛乳で始めたい!〟と、ガッツポーズで目を輝かせていた友希は、今世紀最大の悲しい表情で私の方を振り返る。
「和也君、ちょっと何言ってるか分かんない。」
「それ、俺のセリフなんで取らないでもらえます? そっちこそ、ちょっと何言ってんだか…。」
昨日から何度も聞いたそのセリフ。彼の口癖らしい。
半笑いで言われると〝ノリ〟なんだなって分かるけど、真顔でも平然と口にするから彼をよく知らない人はびっくりするんだって大島君が謝ってた。
そんな事、私は全然気にならなかった。むしろ和也君の無表情で繰り出される暴言にも似たツッコミ(?)を面白いとさえ感じる。
なんでだろう…。いつもみたいに他人に興味がないのか、それとも和也君だから許せた…と言うか理解できたのか。
でも、彼の少し冷たい話し方もよそよそしい仕草も、暴言じみたツッコミも、その全部が優しくて相手の事を考えながらしているような気がして。
「和也、カレーはさすがに無いだろ。そりゃ嫌がらせだよ。笑 お前が食いたいだけじゃん。」
「いやいや、北海道来てあそこのカレー食べないとか意味分からんし。俺の一押し舐めんな。」
「お前の一押しかどうかは知らねーし、なめてもねーよ!」
自分と和也君のやりとりに転げ回る勢いで笑う大島君はバカに見えたけど可愛くも見えた。
あぁやっぱり…、美味しいから食べて欲しかったんだ。
ほら、北海道に来た私たちを彼なりにもてなして(?)くれてるつもりなんだ。
優しい人…、なんだろうな。それと同時にちょっと…と言うか、面倒くさいくらい分かりにくい人なんだろうけど。
「じゃあ最終日にしない? どうせこっちの空港戻ってくるんだし。和也君のお勧めのカレーで旅をしめるってのはどう?」
「いーねー!そうしよ♫ 阿寒湖行って網走まで遠いから。あ、でも途中で牛乳美味しいとこ寄って! 絶対だからねっ!」
「そんなもん寄りませんよ。今日中に網走ですよ? 誰が網走なんて言い出したのか本当に…。2人とも、北海道の移動距離舐めてますね。」
「はい、和也君。黙る~。笑」
私の提案に間髪入れず友希がのる。ナビを操作しながら呆れたように言う和也君の声は、どことなく笑っているように聞こえた。
走り出した車内で友希は助手席の背もたれを掴んで離さなかった。
そこに座る大島君と会話を弾ませ、何ヶ月か前に来た北海道の思い出話に花を咲かせる。その二人の会話に巻き込まれる運転中の和也君。
そんな三人をぼうっと眺めているのは楽しかった。
「それがめちゃくちゃおもしろかったんだって! なぁ和也、聞いてる?」
「うるさいな。運転中だよ。」
お腹を抱えて笑う大島君に肩を叩かれて面倒くさそうにする彼。
私から見て全然タイプの違う二人。
滝本君も二人とは少し違って見えたし、言うなら両極端に大島君と和也君がいて、その間に滝本君がいるって感じ。
たぶんそれって、知らない人が見るとアンバランスと言うか、合わなく見えるんだと思う。
〝お前ら本当に仲良いの?〟
彼らも何度となく言われてきただろう半分馬鹿にした様な口調で放たれるその言葉には馴染みがあった。
友希と私、それにゆっこ。私たち三人もそんな事を何度も言われてきた。誰も気にはしていないけど。
彼らと私たちの似過ぎているその関係性が面白く思えたし、たぶん和也君と同じ立ち位置のゆっこが近くにいるから私は和也君の事が分かるのかも知れない。
ふと窓の外を流れる景色に目をやった。風が吹くたび同じ向きに首を傾けて揺れるとうもろこし畑。
昔、日本が〝黄金の島ジパング〟と呼ばれたのは稲じゃなくてとうもろこしだったのかも…。
そんな事を考えていたら一人でニヤニヤしてしまった。そのニヤけた口元を右手で隠してなに食わぬ顔で窓の外を見続ける。
とうもろこし畑の終わりに、牛乳瓶の形をした大きな看板が見えて声を出しかけた瞬間…、
「友希さん、着きますよ。牛乳。」
「ホント!? やったぁ~♫」
友希は本当に嬉しそうに体を揺らした。
ふと思い出した和也君のセリフ。
〝そんなもん寄りませんよ。〟
一瞬…、本当に一瞬だけど言葉にならない不思議な気持ちになった。
なんか…、首の辺りがムズムズするような感じ。
背中が暖かくなるような感じ…。
この感覚…、この気持ちってなんだっけ…?
低血圧でまだ起ききれてない頭をフル回転させようとして途中で諦めた。
だって本当は〝それ〟が何か知っている気がしたから。
でも、知らないフリをしたかったのかも知れない…。
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