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魔酔いの森
第六十話
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血の池に流れ込む沢を遡って、小さな段瀑に辿り着く前に、緩やかな丘を斜めに進んで本流を目指した。
距離的には、オーグの村と首都アルトスの中間でも、方角としては、第一方面に当たり、調査が進んでないそうだ。
「なので、ここからは危険地帯になるです」
「私が先立ちせむ」
アイギスさんが複数のヘビを走らせた。
ケラニの負担が軽くなったのは良かった。
「アイギスの負担にならないと良いんですが……」
「労く術は心得たるな……?」
アイギスさんの労り方……? 何だろう? 称える? マッサージ……?
僕が迷ってたら、上目遣いのアイギスさんが、「口付けを……」とか細い声で要求した。
また一つ、アイギスさんの新しい表情が見られたのも嬉しいし、それで労れるなら喜んで!
頬に触れると、恥じらうように伏し目がちになって、長いまつ毛がより美しく見えた。
唇が軽く触れた所でアイギスさんが、「ま、待て……! クラウドぞ!」と小さく声を上げた。
偵察ヘビが、谷の下に小鬼の群れを見つけたそうだ。
「こ、小鬼……?」
「忌々しい奴らよ! バールの学者は、私達オーグの亜系統に分類してるの!」
唾棄する口調のケレンは、その学説を受け入れ難いらしい。
体の色は似てなくもないけど、骨格が異なるし、知性を感じられないから別物だというのがケレンの主張のようだ。
「話が通じる……?」
「訳ないでしょ! 野蛮で攻撃的だから、近付けば、アホ面で牙を剥いて襲ってくるわ……! きっと、そいつらが姉弟子の仇……!」
霊長類に例えるなら、ヒトとサルの関係かな……?
猿が猛獣化したって考えれば、それは確かに危険だと思う。
「ノボルよ……。少しは、風情といふものの……」
「安全な場所に着いたら労いますね」
軽い口付けにアイギスさんは不満の様子だけど、出発を急がないとケレンが単騎駆けしてしまいそうだ。
次の休憩の時には、アイギスさんの盾部分を磨いて労おう。
「裸にて!」
「え!? うーん……、分かりました」
偵察の必要がなくなったので、先頭がケウナ、真ん中に僕とケレン、後ろがケラニの編成に変えるようだ。
本流に沿って折れ、渡れそうな場所を探して北上を続けた。
「この辺りの小石も興味深い色をしてる……」
「これまでは、ただの石ころって思ってたのに、ノルから勾玉を貰ったら考えが変わったわ。この辺が安全になったら、一緒に来ましょ?」
それは良いな……。
休日が楽しみになりそう。
「こ、ここ、渡れる!」
「誰かが石灰岩の飛び石を置いたんだね」
石灰岩の採れそうなのは、北西に見えるあの山かな?
聖女アイリスやセントールの方解石は、あの辺で採れたか、川に流れ込んだ岩石から採取したのかも。
「今度は、あの山に行きたいの? ノルに付き合うのは大変そうね……。師匠から移動術を教わろうかしら」
「移動しやすくなる術?」
ではなく、距離を短縮するもののようだけど、ケレンにも原理が分からないらしい。
ケレンの師匠という人は、その術を使って常に移動してるそうだ。
「神出鬼没なんだね」
「そのうち遭遇するわ。さっき師匠の罠を暴いてやったから、向こうも私を探してるはずよ」
そのケレンが暴いたという罠とは、猛獣を捕食する竹のことだった。
植物にその性質があるんじゃなくて、そう制御されてたのだとか。
「地面に幾重にも細工されてたわ。弟子が忌避するようなものまで組み込むなんて、自信なかったのかしらね?」
「それにはコメントしようがないな……」
罠を設置できるなら、ケレンの師匠も冥女なのかな?
でも、ケレンの罠とはアプローチが違うから、どうなんだろう……?
「た、谷が見えて来た! し、姿勢低く!」
「結構高いのね……。ここからだと、私に出来ることは無いわ……」
「自分の弓矢も届かないです」
谷というより崖で、高さ十メートルはありそう。
その下の窪地に、手足は細くてずんぐり体型の緑色の小人が五十人くらい見えた。
「体の色が違うから小鬼じゃない……?」
「歩みし半ば、見ゆれども、かの色にあらず!」
すると、別のグループだったのかな……。
「ノ、ノル! ま、また合流する!」
「あのグループは、体が濃い紫色だね」
次々と窪地に入って行くようだ。
窪地に入って何をするでも無く勃っている……。
いや、文字通り、恍惚とした表情で、体を緑色に変色させながら……!
緑色に変色……!? ひょっとして……!
「これは、もう大群よね……」
「窪地に入り切らなくなりそうです……。下りられる場所を探してる間に、大移動になってしまうです……!」
ケラニとケレンは、大移動が発生する前に、何処にどの様に情報を伝えるか議論してる。
ケウナはアイギスさんと足止めする覚悟を決めたらしい。
「ちょっと良いかな? この中で、レベルを上げる必要があって、火矢を扱えるのは?」
「自分です。でも、何で火矢です……?」
猟師さんから聞いた話だ。
登山者が、高濃度の硫化水素が溜まった窪地に入ると、即死して体が緑色に変色すると。
「あの窪地に溜まってるのは、高濃度の硫化水素だと思う。着火すると爆発するって聞いたから、多少は被害が出て、足止め出来るかも知れない」
「ば、爆発するです……!? ノルを信じてやってみるです……!」
どのくらいの爆発になるか分からないから、念の為、全員で耳栓をして、地面に伏せることを示し合わせた。
ケレンが蜜蝋と炭と油を練って矢先に塗り、ケウナが「癒やしの石」で着火し、ケラニが受け取った矢を引き絞って放った。
<量産型魔神器アクハト>
僕の鏡が、ケラニの弓に反応し続けてるけど、今はそれどころじゃない。
臥せったケラニに覆い被さると、一瞬体が浮き上がった。
直後に、崖の方に引っ張られ、その後は押し返される様に、突風が吹き抜けた。
耳栓越しにも届いた「ドゴン!」という轟音で、鼓膜が押し込まれる感じが続いた。
「ラニ、大丈夫!?」
「ノル! 大丈夫です!?」
自分の声すら、くぐもって聞こえづらいのは、全員一緒のようだ。
ただ、全てを見ていたアイギスさんだけが、声を伴わせずに爆笑していた。
距離的には、オーグの村と首都アルトスの中間でも、方角としては、第一方面に当たり、調査が進んでないそうだ。
「なので、ここからは危険地帯になるです」
「私が先立ちせむ」
アイギスさんが複数のヘビを走らせた。
ケラニの負担が軽くなったのは良かった。
「アイギスの負担にならないと良いんですが……」
「労く術は心得たるな……?」
アイギスさんの労り方……? 何だろう? 称える? マッサージ……?
僕が迷ってたら、上目遣いのアイギスさんが、「口付けを……」とか細い声で要求した。
また一つ、アイギスさんの新しい表情が見られたのも嬉しいし、それで労れるなら喜んで!
頬に触れると、恥じらうように伏し目がちになって、長いまつ毛がより美しく見えた。
唇が軽く触れた所でアイギスさんが、「ま、待て……! クラウドぞ!」と小さく声を上げた。
偵察ヘビが、谷の下に小鬼の群れを見つけたそうだ。
「こ、小鬼……?」
「忌々しい奴らよ! バールの学者は、私達オーグの亜系統に分類してるの!」
唾棄する口調のケレンは、その学説を受け入れ難いらしい。
体の色は似てなくもないけど、骨格が異なるし、知性を感じられないから別物だというのがケレンの主張のようだ。
「話が通じる……?」
「訳ないでしょ! 野蛮で攻撃的だから、近付けば、アホ面で牙を剥いて襲ってくるわ……! きっと、そいつらが姉弟子の仇……!」
霊長類に例えるなら、ヒトとサルの関係かな……?
猿が猛獣化したって考えれば、それは確かに危険だと思う。
「ノボルよ……。少しは、風情といふものの……」
「安全な場所に着いたら労いますね」
軽い口付けにアイギスさんは不満の様子だけど、出発を急がないとケレンが単騎駆けしてしまいそうだ。
次の休憩の時には、アイギスさんの盾部分を磨いて労おう。
「裸にて!」
「え!? うーん……、分かりました」
偵察の必要がなくなったので、先頭がケウナ、真ん中に僕とケレン、後ろがケラニの編成に変えるようだ。
本流に沿って折れ、渡れそうな場所を探して北上を続けた。
「この辺りの小石も興味深い色をしてる……」
「これまでは、ただの石ころって思ってたのに、ノルから勾玉を貰ったら考えが変わったわ。この辺が安全になったら、一緒に来ましょ?」
それは良いな……。
休日が楽しみになりそう。
「こ、ここ、渡れる!」
「誰かが石灰岩の飛び石を置いたんだね」
石灰岩の採れそうなのは、北西に見えるあの山かな?
聖女アイリスやセントールの方解石は、あの辺で採れたか、川に流れ込んだ岩石から採取したのかも。
「今度は、あの山に行きたいの? ノルに付き合うのは大変そうね……。師匠から移動術を教わろうかしら」
「移動しやすくなる術?」
ではなく、距離を短縮するもののようだけど、ケレンにも原理が分からないらしい。
ケレンの師匠という人は、その術を使って常に移動してるそうだ。
「神出鬼没なんだね」
「そのうち遭遇するわ。さっき師匠の罠を暴いてやったから、向こうも私を探してるはずよ」
そのケレンが暴いたという罠とは、猛獣を捕食する竹のことだった。
植物にその性質があるんじゃなくて、そう制御されてたのだとか。
「地面に幾重にも細工されてたわ。弟子が忌避するようなものまで組み込むなんて、自信なかったのかしらね?」
「それにはコメントしようがないな……」
罠を設置できるなら、ケレンの師匠も冥女なのかな?
でも、ケレンの罠とはアプローチが違うから、どうなんだろう……?
「た、谷が見えて来た! し、姿勢低く!」
「結構高いのね……。ここからだと、私に出来ることは無いわ……」
「自分の弓矢も届かないです」
谷というより崖で、高さ十メートルはありそう。
その下の窪地に、手足は細くてずんぐり体型の緑色の小人が五十人くらい見えた。
「体の色が違うから小鬼じゃない……?」
「歩みし半ば、見ゆれども、かの色にあらず!」
すると、別のグループだったのかな……。
「ノ、ノル! ま、また合流する!」
「あのグループは、体が濃い紫色だね」
次々と窪地に入って行くようだ。
窪地に入って何をするでも無く勃っている……。
いや、文字通り、恍惚とした表情で、体を緑色に変色させながら……!
緑色に変色……!? ひょっとして……!
「これは、もう大群よね……」
「窪地に入り切らなくなりそうです……。下りられる場所を探してる間に、大移動になってしまうです……!」
ケラニとケレンは、大移動が発生する前に、何処にどの様に情報を伝えるか議論してる。
ケウナはアイギスさんと足止めする覚悟を決めたらしい。
「ちょっと良いかな? この中で、レベルを上げる必要があって、火矢を扱えるのは?」
「自分です。でも、何で火矢です……?」
猟師さんから聞いた話だ。
登山者が、高濃度の硫化水素が溜まった窪地に入ると、即死して体が緑色に変色すると。
「あの窪地に溜まってるのは、高濃度の硫化水素だと思う。着火すると爆発するって聞いたから、多少は被害が出て、足止め出来るかも知れない」
「ば、爆発するです……!? ノルを信じてやってみるです……!」
どのくらいの爆発になるか分からないから、念の為、全員で耳栓をして、地面に伏せることを示し合わせた。
ケレンが蜜蝋と炭と油を練って矢先に塗り、ケウナが「癒やしの石」で着火し、ケラニが受け取った矢を引き絞って放った。
<量産型魔神器アクハト>
僕の鏡が、ケラニの弓に反応し続けてるけど、今はそれどころじゃない。
臥せったケラニに覆い被さると、一瞬体が浮き上がった。
直後に、崖の方に引っ張られ、その後は押し返される様に、突風が吹き抜けた。
耳栓越しにも届いた「ドゴン!」という轟音で、鼓膜が押し込まれる感じが続いた。
「ラニ、大丈夫!?」
「ノル! 大丈夫です!?」
自分の声すら、くぐもって聞こえづらいのは、全員一緒のようだ。
ただ、全てを見ていたアイギスさんだけが、声を伴わせずに爆笑していた。
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