異世界カボ屋の覚え書き

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魔酔いの森

第六十一話

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 ケラニの火矢で大爆発したって事は、崖下の窪地に溜まってたのは硫化水素で間違い無かった。
 アイギスさんが爆発の様子を「鳥の群ぞ忙しなく飛び立つ様に似て、羽毛の舞い散るが如し」と表現した。

「あっぱれとは正にこのこと! ことごとく消え失す見事なる策よ!」
「す、凄い! ぜ、全部……、き、消えた……!」

 全員ケガの有無を確認して、聴覚が戻るまで休憩する事になった。
 窪地のあった場所を改めて見ると、地形が変わる程の規模だった事が分かる……。

「木まで倒れるとは思わなかった……」
「え!? 何? よく聞こえなかったわ!」

 それぞれの会話には、アイギスさんが間に入って伝えてくれる事になった。
 ケラニが黙ったままだけど大丈夫かな? 具合悪くなったとか……?

「そうじゃなくて……、アイディス様が、自分に、『死の女神』の神格を譲りたいそうです……」
「良かったじゃない! キイツさんも喜ぶわよ!」

 何故ここでキイツさんの名前が出てきて、死の女神を継承することが喜ばしいのか。
 実は、ケラニが長女特権を行使したときに聞かせて貰っていた。

 ケラニが、キイツさんと同じ「量産型魔神器ハルパー」を使ってたのは、師弟関係だから。
 その元勇者から教わった戦い方の使い道には、「刑部ぎょうぶ兼執行役」つまり、処刑も含まれていた。

 主に、死刑相当の事件を起こした捕虜や、オーグの村に接近したアルトスの犯罪者を斬首する役割だ。
 ケラニは、これを気に病んでいた。

 罪悪感や嫌悪感による後悔じゃなくて、女神アイディスの使徒キイツさんの役割をケラニが代行して許されるのかについてだ。

 たぶん、ケラニが「死の女神」を継承するという事は、これまでの懸念が解消されて、これからは最大の権限が与えられるんだろう。

「嬉しいです……。『そなたの冥導めいどうに齟齬なし』とお言葉を頂いたです……」
「お、おめでとう、ラ、ラニ!」

 女神候補の二人が抱き合うレアな光景だ。
 「あれ? 姉妹で女神って……」と思ってアイギスさんに目を向けたら、チャーミングなウィンクを返してくれた。

「レンはどうするの?」
「私? 私は冥女王を目指すわ! 自力でね」

 冥女王とは、「亡者の女王」とも呼ばれ、冥女の最高位に当たるそうだ。
 因みに、魔女王は、「存者ぞんしゃの女王」で、「地界に存する魔に属する者の女王」なのだとか。

 この二つの女王を持つ者が、「冥と地クトニウスの女神」となるらしい。
 魔に属する地を統べる女神との事だけど、僕には理解が追いつかなかった。

「みんな凄いね! 僕には、言葉や概念が分からないから、遠い存在に見えてしまうよ」
「「「「えっ!?」」」」

 目を丸くした四人によれば、彼女たちの中心にいるのは僕だという。
 え! それはないと思うけど……。

「でも、第三方面隊が全員女神なら、オーグの村にも歓迎されるね!」
「「「「あっ!」」」」

 目を丸くしたまま向き合う四人には盲点だったようだ。
 ケレンの仇討ちも、冥界の探索も、帰還の目処が立ったことも、偉業として讃えられると良いな。

「そろそろ音が聞こえる様になったかしら? 雲行きが怪しくなる前に出発しましょ」
「近きに敵ぞなし! とどろきに怯え、遁れ散りぬと見ゆ」

 北上を再開するに当たって、ケラニが試したい事があると言って先行した。
 木の陰を音もなく走って行く様は、見たことないけど、どう見ても忍者だ。

「我が子らの成長の早きことよ……」
「僕は未だに護身すら覚束ないから、尚の事そう思いますね」
「それなら、次の休憩からは、私が魔女術の基礎を教えるわ。ラニは体捌きを教えられるし、ウナも胸を貸すでしょ?」
「う、うむ!」

 それは嬉しいな!
 体を鍛えられれば山歩きに有益だし、魔女術は仕事に応用できるかも知れない。

「それにしても変よね。火矢を作っただけでレベルが上がるなんて……」
「わ、わたしも! ひ、火を、つ、付けただけだ」

 「ノル効果だろう」というのが二人の一致点らしい。
 僕がアナさんの事を話すべきか迷ってたら、アイギスさんに目で制された。

「朝日を浴びたアイギスの瞳は、サファイアよりも美しい青紫を帯びて、ブルーダイヤよりも深い輝きを放つ、ベニトアイトの様ですね!」
「ほう……! 聞き知らぬ宝玉の名にて私を讃ふとは……! そのこと、くわしく……!」

 ベニトアイトは、コレクター垂涎のレアストーンだ。
 僕の世界でも、宝石品質の原石は、アメリカのサン・ベニト郡でしか採れないため、その名を冠する。

「鉱物としては、海王石や蛇紋石と一緒に、陸の西側で産出することが多いので、ひょっとしたら、アイギスの故郷で採れるかも知れませんよ」
「海王、蛇紋……。フォラート川の上辺かみへに見ゆる青き粒のことにやあらむ……?」

 ゴルゴン家に仕える学者は、硬度の低さから、ガラスと結論付けたそうだ。
 間違いない! ベニトアイトだ! ゴルゴン家の領地で採れるなら、「ゴルゴアイト」と呼ぶべきかな?

「アイギス! 一緒に里帰りしましょう!」
「おお! ノボルよ! 遂に覚悟ぞ定めたりや!?」
「ちょっと待って! どうしてノルがアイギス様を口説いて、一緒に里帰りする流れになってるのよっ!」
「う……、うむ……!」

 このベニトアイトへの愛は、どう言えば伝わるかな……?
 六方晶系の中でも非常に珍しい三方両錐の結晶形の美しさ?
 硬度が六程度の硬さなのに、へき開が存在しない特異性?
 それなのに、コランダム並に屈折率が高いのは、どうしてだろう……?
 そんな希少石をファセットカットじゃなくて、カボションカットにするなんて罪深い事をしたら、どうなってしまうんだろう……!?

「ノボルはな……、私ならず、宝玉とちぎる男子ぞ……」
「あああ……。そこがノルの残念な所よね……」

 ええ……? 何か酷いことを言われてる……?
 でもめげない! 鉱物マニアが変人扱いされるのは、今に始まったことじゃ……。

「この先に、猛獣狼の群れを見つけたです!」
「開けた場所で迎撃するわ! ラニと私で適地を探し、見つけ次第通知する! ウナはノルを守って!」
「うむ!」

 瞬時に頭を切り替えて作戦を立て、テキパキと指示を出して、颯爽と駆けて行くケレンは、やはり相当な才女なんだろう。
 走る速さも、魔女術の「活性化」か、それ以外の何かだろうから、ケラニとケウナは、ケレンの様には成れないと思ってるはず。
 何れにせよ、凡庸な僕が比肩できる姉妹じゃないので、僕に出来るのは、何時になく頼もしいケウナの背中に隠れながら、おっかなびっくり付いて行くだけだ。
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