烏の王と宵の花嫁

水川サキ

文字の大きさ
30 / 69
三章

未来をみるひと

しおりを挟む
 縁樹は時折、未来をることがある。本人の意思とは無関係に予知夢は突拍子もなく現れ、目が覚めると消える。
 残るのは曖昧な記憶だけである。
 それは未来のいつどこで起こることなのか定かではなく、遠い未来であればあるほど不明瞭だった。


 縁樹がたびたび視るのは多くの人が死んでいく未来だ。
 それがいくさによるものなのか、天災によるものなのか、目覚めるとはっきりしない。
 よって、どれほどの不運を夢に見ようがどうにもできないのである。

 彼はこの能力に苦しめられながら百年以上生きた。
 古い時代では刀を握り、戦に身を投じた。人が多く死ぬ夢を幼い頃から見てきたから、人を救うべく行動したが、結局多くの人が死んだ。


 新しい時代になり、あやかしの中でも最高位の者しか与えられない高級官僚の職が舞い込んだが、彼はそれを断って山奥の誰も近づけない場所へ結界を張りひきこもった。

 およそ三十年経ったある日、ひとりの女が縁樹のもとを訪れた。
 それが香月だった。


 久しぶりに見た彼女はずいぶん年老いていた。
 香月は少しずつ縁樹を外の世界へ連れだした。

 町はすっかり変化しており、時代の流れについていけなかった縁樹は香月からさまざまなことを教わった。
 縁樹は香月と再会してからほとんど予知夢を見ない日が続いた。

 香月と一緒にいる時間が長くなればなるほど、縁樹の妖力が制御され、遠い未来を視ることも少なくなっていた。
 どうやら香月の陰の妖力が縁樹の強すぎる陽の妖力を削いで中和しているのだという。

 その証明に、縁樹はしばらく香月と会わない日が続くとまた強い妖力のせいで予知夢に苛まれた。
 その一つに香月が死ぬ夢があった。あまりにも近い未来なのでそれははっきりとしていた。縁樹は香月にそのことを話せず、久しぶりに訪れた彼女に健康に気をつけるよう言った。


 香月は自分の寿命がわかっていた。だから縁樹を外の世界へ連れだし、以前のような人間らしい暮らしを取り戻させたのだった。

 香月がいなくなれば縁樹はまた妖力が抑えられず頻繁に予知夢に苦しめられる。香月は縁樹が再び結界を張ってひきこもることを憂い、彼に提案をしたのだった。


「どうだろう? うちの孫と一緒に暮らすというのは」

 以前から、香月は孫娘の月夜のことを縁樹に話していたが、彼はまったく興味を示さなかった。

「月夜は強い妖力を持っているゆえ家族から蛇蝎のごとく忌み嫌われている。しかし、あんたといれば月夜は妖力を制御できる。そして、それはあんたも同じだ」

 縁樹はこのとき、初めて香月の言葉に興味を持ち、月夜という娘に関心を抱いた。

 つまり、香月はこう言いたいのだ。
 縁樹がそばにいると月夜の妖力を吸収できるので、彼女は力の暴走を防ぐことができる。そして、縁樹は夜になると落ちてしまう妖力を月夜で補うことができる。

 縁樹にとってもっとも厄介だったのは、日が落ちると妖力を失い、物の怪の類に狙われやすいということだった。
 そのため、彼は人の寄りつかない山奥の先祖が眠る場所に、先祖の力で強固な結界を張り、自ら外との接触を絶った。

 しかし、今後は人の世界で生きることになる。夜になると狙われるだろう。


「月夜がそばにいれば、あんたも落ちつく」

 香月の提案は魅力的だったが、縁樹はあまり気乗りしなかった。
 百年以上ひとりきりなのに、今さら誰かと暮らすなど考えられない。

 親がいた頃のことなどとうに記憶にない。物心ついたときにはひとりで刀を振るい、戦に身を投じて生きていたのだから。


「俺の力が彼女を殺すことになっても?」

 縁樹は香月に問うた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼様に生贄として捧げられたはずが、なぜか溺愛花嫁生活を送っています!?

小達出みかん
キャラ文芸
両親を亡くし、叔父一家に冷遇されていた澪子は、ある日鬼に生贄として差し出される。 だが鬼は、澪子に手を出さないばかりか、壊れ物を扱うように大事に接する。美味しいごはんに贅沢な衣装、そして蕩けるような閨事…。真意の分からぬ彼からの溺愛に澪子は困惑するが、それもそのはず、鬼は澪子の命を助けるために、何度もこの時空を繰り返していた――。 『あなたに生きていてほしい、私の愛しい妻よ』 繰り返される『やりなおし』の中で、鬼は澪子を救えるのか? ◇程度にかかわらず、濡れ場と判断したシーンはサブタイトルに※がついています ◇後半からヒーロー視点に切り替わって溺愛のネタバレがはじまります

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

後宮祓いの巫女は、鬼将軍に嫁ぐことになりました

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を祓う下級巫女・紗月は、ある日突然、「鬼」と噂される将軍・玄耀の妻になれと命じられる。 それは愛のない政略結婚―― 人ならざる力を持つ将軍を、巫女の力で制御するための契約だった。 後宮の思惑に翻弄されながらも、二人は「契約」ではなく「選んだ縁」として、共に生きる道を選ぶ――。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

雪嶺後宮と、狼王の花嫁

由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。 巫女として献上された少女セツナは、 封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。 人と妖、政と信仰の狭間で、 彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。 雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。

耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。 そこに迷い猫のように住み着いた女の子。 名前はミネ。 どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい ゆるりと始まった二人暮らし。 クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。 そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。 ***** ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※他サイト掲載

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

処理中です...