烏の王と宵の花嫁

水川サキ

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五章

一度きりの反抗

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 その日、月夜は白の洋服ワンピースを着ていた。
 縁樹はきちんと髪を切り揃えて、以前と同じ紺の和服に橙黄色の羽織姿だった。

 ふたりは広い畳部屋で両親と向かい合い、今後のことを話した。
 すると両親はみるみるうちに顔色を変えたのだった。


「祝言をしないとはどういうことだ?」

 父が怪訝な表情で月夜を問いつめた。
 ご機嫌だった母も急に顔色を変えて眉をひそめた。

「これは決まりごとなのよ。嫁に出る娘はきちんと花嫁の衣装を身につけて皆さまに披露するのです。祝言をおこなわなければおかしな家だと思われてしまうでしょう?」

 月夜は少し緊張したが、縁樹がとなりにいるので背筋を伸ばしてしっかり両親の目を見ることができた。


「お姉さまがこんなことになってしまって、お祝いができる状況ではありませんから」
「そんなことは気にしなくていいわ」
「そんなこと……」

 母の言葉に月夜はうつむき、ぼそりと言った。
 しかし母はかまうことなく自身の主張を続ける。

「大事なのは今後の媛地家のことでしょう。あなたが烏波巳さまに嫁いで、光汰がうちを継げばこの家は社交界で確固たる地位を築くことになるの。そうすればこの家の将来は安泰よ」


 縁樹は真顔で黙ったまま微動だにしない。
 月夜は両手で自分のスカートをぎゅっと握りしめてわずかに震えた。

「披露宴はおこなうべきだ。月夜が上級華族に嫁入りしたことを皆に知らしめる絶好の機会なのだからな」

 父は険しい顔で、強く主張した。


 月夜はふたりを前にして失望感でいっぱいだった。どうせ期待はしていなかったが、やはりこうも自分たちの体裁しか考えていないとは。

 実の娘が意識のない状態で二度と目覚めないかもしれないのにだ。
 両親は暁未のことより家に都合がよい月夜のことで頭がいっぱいなのである。

 月夜は顔を上げると、ふたりを見据えて静かに告げた。


「この家と縁を切ります」

 その瞬間、両親の顔が歪んだ。
 父は眉を吊り上げ、母は口をへの字にしている。ふたりは月夜の言葉がにわかには信じられなかったのだろう。しばし瞠目したまま固まっていた。

 やがて父が眉を吊り上げ、感情的に声を張り上げた。


「月夜、ふざけたことを言うんじゃないぞ」

 父の怒声に月夜は少し怯えたが、震えながらどうにか声を発する。

「わ、私は本気です。もう、この家とのつながりを絶ちたいと思っています」

 勇気を出して本心を告げると、やはり父が激高した。

「冗談じゃないぞ。異質なお前をここまで育ててやったんだ。恩を忘れたのか?」
「そうよ。本来あなたは生まれたときに淘汰されるべきだったのに、わたくしたちが生かしてあげたのよ。感謝すべきなのに縁を切るなんてあなたはなんて恩知らずなの?」


 母の言葉が月夜の胸に針のように突き刺さる。

 今まで存在を否定されるたびに死にたくなるほどつらかった。父も母もそんな月夜の心に寄り添うことなく、ただ一族の掟のために生かしただけ。
 そして今はちょうどいいから利用しているだけだ。

 そうやって暁未も利用するために育てたのに、思いどおりにならなかったので簡単に捨てた。
 月夜は拳をぎゅっと握りしめ、両親を睨むように見据えた。

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