27 / 66
27、正体を隠すために変装しましょう
しおりを挟むある日、皇帝が町の視察へ行くことになった。
その同行者としてイレーナが選ばれたのである。
もちろん周囲からは賛否両論あった。
「側妃の分際で出しゃばりすぎだろう」
「アンジェさまを差し置いて」
「お忍びだからわざと貧相な側妃を選ばれたに違いない」
「たしかにアンジェさまは気品あふれるお方だからな」
イレーナは城内を歩くたびに周囲からひそひそ聞こえてくる声にうんざりしていた。
あの会議以来風当たりが強いので、おとなしくしておきたかったのに、なぜヴァルクはイレーナに目立つようなことをさせるのか。
(はぁ……めんどくさいわ)
鬱々とした気分のイレーナと違って、リアは大喜びだった。
「完成しました。これでイレーナさまはどこからどう見ても平民です」
メイクを終えたリアが額の汗を拭いながらふうっとため息をもらした。
(これは喜んでいいのか複雑だわ)
鏡の前には茶色のワンピース姿のイレーナが映っている。
化粧は薄く、髪型はうしろでひとつに三つ編みしており、どこから見ても下町の娘だ。
リアも使用人たちもにこにこしている。
(でも、みんな目的に合わせたコーディネートをしてくれたんだもの。むしろ、ありがたいと思うべきね)
しばらくするとヴァルクが侍従のテリーを連れて、イレーナの部屋を訪れた。
彼は部屋に入るなり、自信満々に言い放った。
「どうだ? 完璧な変装だろう」
イレーナは表情を引きつらせて固まった。
「えーっと、お忍びですよね?」
「だから質素に見えるようにしたのだ」
「質素……」
たしかに装飾品は身につけていないが、上質な生地で作られた衣装に整った髪型はどう見ても上級貴族である。
「目立ちすぎます」
「これでも控えめにしたほうだ。それより、お前はどうした? その格好は、まるで平民ではないか」
イレーナの格好は自分で町から取り寄せた安物の生地で簡単に縫ってもらった本当に平民が着る服そのものだった。
「平民です! 私たち正体がバレてはいけませんよね? 出来る限り平民と同じ格好でいなければなりません」
「これ以上どうすればよいのだ?」
ヴァルクはテリーに顔を向けるも、お互いに肩をすくめる。
イレーナがリアに顔を向けると、彼女はにっこり笑ってメイク道具を手に持って言った。
「私たちが完璧にして差し上げますね!」
こんなこともあろうかと、イレーナはリアに頼んでヴァルクの衣装も取り寄せてもらっていた。
ヴァルクは用意された衣装に着替え、くすんだ肌色にするためにリアにメイクを施してもらった。
侍従のテリーは困惑の表情でぼそりと言う。
「男に化粧とは……」
「陛下は肌の色が美しすぎるのです。これではすぐにバレてしまいます」
リアと使用人たちの努力の結果、ヴァルクは見事な平民へと変貌した。
がっちりした体格に薄いシャツとスラックス、ぼさぼさにした髪型は町のどこにでも歩いている民そのものである。
「まるで下町の大工のようなお姿だ」
テリーの意見にリアが答える。
「完璧ということですね!」
それでもイレーナの目には完璧には映らなかった。
やはりヴァルクの生まれ持った王族のオーラはどうやっても隠すことができないのである。
それとも、自分のヴァルクを見る目は他の者たちと少し違うのだろうか。
(最近、陛下がやけにキラキラして見えるのよね。私の視力が悪くなったのか頭がおかしくなったのか……)
見えるだけではなかった。
ヴァルクの視線と合うたびに、イレーナはいちいち胸がどきりとするのだ。
126
あなたにおすすめの小説
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる