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57、陛下は新しい妃をお迎えになるのかしら?
「こう毎日来られると、重いわ……」
イレーナがぼそりと呟くと、リアは満面の笑みで返した。
「それほど陛下はイレーナさまのことを思っていらっしゃるのですよ」
イレーナは困惑の表情でため息をつく。
(きっと責任を感じていらっしゃるのだわ。ご自分を責めていらしたしね)
リアはうっとりと宙を見つめてひとり明るい声を上げる。
「ああ、私もこんなふうに(深い愛に)包まれてみたいです」
イレーナはぼんやり窓の外へ目を向ける。
(この城に妃は私ひとり。陛下は新しい妃をお迎えになるのかしら)
ヴァルクは何も言わないが、イレーナは新しい側妃が迎えられるだろうことを覚悟していた。
(だって、この国の皇族は一夫多妻制だもの)
わかっていても、胸の奥がもやもやした。
それからひと月後、イレーナの傷は治癒師も驚くほど綺麗に治っていた。
イレーナはカザル公国の深い森にわずかに生えている薬草を母に送ってもらった。それはどんな酷い傷も綺麗に回復させてくれるもので、治癒師はその薬草に大変興味を示した。
イレーナは貴重な薬草を与える代わりに治癒師の能力でカザル公国周辺の民の病や怪我を治してほしいと頼み込んだ。
さっそく皇帝の命により、治癒師はカザル公国へ出向き、人々の役に立った。
さらにはカザル公国にて、新しい治癒師の育成もおこなうことになったのである。
「どんなときも商売心を忘れないのだな」
「変な言い方をしないでください。win-win(持ちつ持たれつ)ですわ」
イレーナはすっかり元気になり、ようやく日常を取り戻した。
乱雑に切られた髪は整えられ、肌つやもよくなり、帝国議会の集まりにも顔を出すようになった。
周囲はイレーナに複雑な心境を抱いていた。
ほとんどが同情、そしてイレーナに好意を持つ者が増えた。
しかし、アンジェ側だった人間はやはりイレーナが次の正妃になることを反対し、別の貴族の家門から妃を娶ることを皇帝に提案していた。
ヴァルクは皆の前で声高に決定を下した。
「次の正妃はイレーナである。異論は認めない」
ドレグラン帝国は連日お祭り騒ぎだった。
新しい正妃が民にお披露目されると、歓声が上がった。
その中で、ひと際目立つ者たちがいた。
教会の孤児院の子どもたちである。
「すごいや! お姫さまだったなんて!」
「正妃さま、万歳!!」
だが、教会の司祭は複雑な表情でそっぽを向いていた。
「あいつら、騙したな! 何が皇族関係者と言えない身分の貴族だ。皇帝と妃ではないか!」
ぶつぶつ文句を言う司祭に対し、子どもたちがなだめた。
「でも先生、私たちご飯がいっぱい食べられるよ」
「もうすぐ学校にも行けるし」
「楽しみだねえ」
司祭は遠目で皇帝と妃を見つめてぼそりと言った。
「悔しいが、口先だけの奴らではなかったな」
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「現皇帝が内政を重視しているのは正妃さまのお力であると耳にした」
「ほう、よそから嫁いだ方なのにめずらしいなあ」
「よほどこの国をお好きになられたのね」
イレーナの噂はじわじわと民に浸透していった。
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