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第2章 朝チュンの混乱
20、マーガレットの激白(げきはく)<後>
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「随分、辛い思いをしたわね」
ダリアは、頬に流れる涙を拭ってくれた後、マーガレットの頭を優しく撫でてくれた。
その仕草に、マーガレットは、幼い頃の母の温もりを重ねながら、告白を続ける。
「継母に、メイクをして欲しいという私の願いを叶えたのだから、むしろ感謝するべきだ!と言われると、私が頼んだのは確かに事実だから、それ以上何も言えなくて……。
あの時、継母にお願いなんかしなければ良かったと、ずっと……ずーっと、自分を責め続けているの。
そして同時に、継母が私の弱味を、義妹のデビュタントに利用したと分かった時の悔しさを、自分の胸の奥へ無理矢理しまうことで、何とかやってきたわ」
ダリアは、痛ましげな表情を浮かべて、マーガレットを見つめて言った。
「そうだったの……それは、なおさら辛かったわね」
まだ瞳に涙の膜を残しながらも、深い感情の揺れのせいで、ブルブルと震える唇を、マーガレットは、なおも懸命に開く。
「事実、継母の美貌を受け継いでいる義妹は、私の代理で王様に挨拶したことで注目を集め、当時、まだデビュタントに達していない年齢だったにも関わらず、縁談が殺到したの。
だけど話が進むにつれて、縁談を申し込んだ相手方から我が家について確認の調査が入ったわ。
その結果、義妹が実は継母の連れ子で、父とは血も繋がらず、ほぼ平民に近いという真実が明らかになった途端、一斉に全ての縁談が、相手側から、なかったことにしてほしいと言われたの」
マーガレットの説明に、ダリアも大きく頷く。
「貴族は血筋が大事という価値観の人が多いから……ある意味、当然の結果よね?」
ダリアから同意を求められたマーガレットも、同じように頷き返しながら、ため息も交えて返事をした。
「貴族という立場からみたら、当然の対応なんだけど、継母は、その所謂血統主義よりも、義妹自身を気に入ってくれた人が、少なくとも何人かはいると信じていたみたい。
だから、全ての縁談がなくなった事実に、ひどく傷ついたようだったわ。
だけど、縁談を申し込んだ、自分たちより上の立場の人たちに直接文句を言う訳にはいかず、代わりに、やり場のない怒りの矛先を私に向けることで、継母は気持ちを落ち着かせていたの」
「酷すぎる……マーガレットは関係ないじゃない!」
唇を噛み締めながら、一貫して継母を非難し、マーガレットを擁護するダリアの態度に、マーガレットは自分が持っていた、複雑で黒い感情が、段々と薄れていくような気がした。
だからこそマーガレットの涙は、ごく自然に止まり、ダリアに対する感謝の言葉が溢れ落ちる。
「ありがとう、ダリア」
ダリアはぶんぶんと、頭を横に振った。
「そんなお礼なんて必要ないわよ。
どう考えてもマーガレットの継母の方が最低だもの!
ねぇ、マーガレット、悪いけど、これで最後にするから、もう1つだけ聞いていい?」
「もちろんよ」
マーガレットはダリアの問いかけに、快く頷いた。
「マーガレットの家族関係と態度は理解できたけど、仕事場ではそのメイクに関して、誰も、何も言わなかったの?
さすがにそんなメイク、王城だと逆に目立つし、許されないんじゃない?」
「確かに初めてこのメイクを見た人は、驚くし、笑ったりするわ」
ここで言葉を切ったマーガレットは、王城ならではの事情を説明するために、一度大きく息を吐いた。
「だけどね、ダリア、誰もメイクをやめろとは言わないし、罰されたこともないわ。
このメイクをする理由を、表向きは、顔の傷を隠すためと、説明するからかもしれないけどね。
特に同期の女性は、誰1人やめろとは言わないし、むしろ似合ってるって言うのよ」
マーガレットは、クスクス笑って続きを言う。
「今は勤めている年数が長いから、宿舎では個室を貰えているけど、新人の頃は同じ新人同士、多くの人と同室で、集団生活だったわ。
仕事も覚えなきゃいけないし、とにかく毎日が必死で、忙しい日には、メイクをすることも忘れるほどなの。
でもね、そんな時、必ず誰かが教えてくれるの……マーガレット、大切なメイクを忘れているけど大丈夫?って。
同じ生活をする仲間だし、私としては教えてもらえて助かるから、ずっと親切だなぁと思い、深く感謝していたの。
だけど、ある時、気がついたの」
ダリアは、頬に流れる涙を拭ってくれた後、マーガレットの頭を優しく撫でてくれた。
その仕草に、マーガレットは、幼い頃の母の温もりを重ねながら、告白を続ける。
「継母に、メイクをして欲しいという私の願いを叶えたのだから、むしろ感謝するべきだ!と言われると、私が頼んだのは確かに事実だから、それ以上何も言えなくて……。
あの時、継母にお願いなんかしなければ良かったと、ずっと……ずーっと、自分を責め続けているの。
そして同時に、継母が私の弱味を、義妹のデビュタントに利用したと分かった時の悔しさを、自分の胸の奥へ無理矢理しまうことで、何とかやってきたわ」
ダリアは、痛ましげな表情を浮かべて、マーガレットを見つめて言った。
「そうだったの……それは、なおさら辛かったわね」
まだ瞳に涙の膜を残しながらも、深い感情の揺れのせいで、ブルブルと震える唇を、マーガレットは、なおも懸命に開く。
「事実、継母の美貌を受け継いでいる義妹は、私の代理で王様に挨拶したことで注目を集め、当時、まだデビュタントに達していない年齢だったにも関わらず、縁談が殺到したの。
だけど話が進むにつれて、縁談を申し込んだ相手方から我が家について確認の調査が入ったわ。
その結果、義妹が実は継母の連れ子で、父とは血も繋がらず、ほぼ平民に近いという真実が明らかになった途端、一斉に全ての縁談が、相手側から、なかったことにしてほしいと言われたの」
マーガレットの説明に、ダリアも大きく頷く。
「貴族は血筋が大事という価値観の人が多いから……ある意味、当然の結果よね?」
ダリアから同意を求められたマーガレットも、同じように頷き返しながら、ため息も交えて返事をした。
「貴族という立場からみたら、当然の対応なんだけど、継母は、その所謂血統主義よりも、義妹自身を気に入ってくれた人が、少なくとも何人かはいると信じていたみたい。
だから、全ての縁談がなくなった事実に、ひどく傷ついたようだったわ。
だけど、縁談を申し込んだ、自分たちより上の立場の人たちに直接文句を言う訳にはいかず、代わりに、やり場のない怒りの矛先を私に向けることで、継母は気持ちを落ち着かせていたの」
「酷すぎる……マーガレットは関係ないじゃない!」
唇を噛み締めながら、一貫して継母を非難し、マーガレットを擁護するダリアの態度に、マーガレットは自分が持っていた、複雑で黒い感情が、段々と薄れていくような気がした。
だからこそマーガレットの涙は、ごく自然に止まり、ダリアに対する感謝の言葉が溢れ落ちる。
「ありがとう、ダリア」
ダリアはぶんぶんと、頭を横に振った。
「そんなお礼なんて必要ないわよ。
どう考えてもマーガレットの継母の方が最低だもの!
ねぇ、マーガレット、悪いけど、これで最後にするから、もう1つだけ聞いていい?」
「もちろんよ」
マーガレットはダリアの問いかけに、快く頷いた。
「マーガレットの家族関係と態度は理解できたけど、仕事場ではそのメイクに関して、誰も、何も言わなかったの?
さすがにそんなメイク、王城だと逆に目立つし、許されないんじゃない?」
「確かに初めてこのメイクを見た人は、驚くし、笑ったりするわ」
ここで言葉を切ったマーガレットは、王城ならではの事情を説明するために、一度大きく息を吐いた。
「だけどね、ダリア、誰もメイクをやめろとは言わないし、罰されたこともないわ。
このメイクをする理由を、表向きは、顔の傷を隠すためと、説明するからかもしれないけどね。
特に同期の女性は、誰1人やめろとは言わないし、むしろ似合ってるって言うのよ」
マーガレットは、クスクス笑って続きを言う。
「今は勤めている年数が長いから、宿舎では個室を貰えているけど、新人の頃は同じ新人同士、多くの人と同室で、集団生活だったわ。
仕事も覚えなきゃいけないし、とにかく毎日が必死で、忙しい日には、メイクをすることも忘れるほどなの。
でもね、そんな時、必ず誰かが教えてくれるの……マーガレット、大切なメイクを忘れているけど大丈夫?って。
同じ生活をする仲間だし、私としては教えてもらえて助かるから、ずっと親切だなぁと思い、深く感謝していたの。
だけど、ある時、気がついたの」
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