53 / 55
第4章 迫り来る包囲網
52、護るためのお目通り<後1>
しおりを挟む
部屋の中が静か過ぎるせいか、その疑念の声は殊の外、大きく響く。
どうやら王太子殿下にも届いたようで、秀麗な右の眉だけが、クイッとほんの少し上がったように、マーガレットには見えた。
なんて器用なの!
日常生活では経験したこともない、目が潰れそうなイケメン軍団に囲まれ、マーガレットは大変居心地が悪かった。
その気持ち悪さから逃れるためにマーガレットは、ついついどうでもイイ事に着目し、なんとか平常心を保とうとする。
しかしそんなマーガレットの努力を、王太子殿下は柔和な笑みを浮かべながら、踏みにじった。
「どうやらスタンの意見だけでは、納得がいかない者がいるようだ。
では、他の者の意見も聞くか……そうだな……エドワードの理由は?」
「はい、私には彼女の外面はもちろん麗しく思えますが、彼女の内面も美しく……従って彼女の全てが輝いて見えます」
エッ、エドワード様がいるの!?
マーガレットは驚きのあまり、いつもの癖で、ちょうど心臓の真上に右手をあてる。
王太子殿下はまっすぐマーガレットを見つめたままだったので、エドワード様がどこにいるのか、マーガレットはすぐに見つけることができなかったが、他の騎士たちがいっせいに殿下の左後方に目を向けたので、マーガレットも皆にならい、その方向に目を向けた。
いっ……いたわ!
確かに殿下の左後方にいるじゃないの……しかもエドワード様の左隣はケネスだわ!
身内のケネスの姿を見つけて、マーガレットが少しだけホッとしたものの、またしても脳内に自称高貴なマリコ様が降臨する。
『おっ、殿下の真後ろに立っているってことは、アヤツら側近中の側近ってコトじゃない?
なかなかヤルなぁ~!』
あっ……そういうモノなのぉ?
マリコさんの解説に改めてマーガレットはマジマジと2人を見つめたところ……ケネスはマーガレットを見てフワッと笑ってくれたが、エドワード様は熱心にマーガレットだけを見つめてきて……そのあまりの視線の鋭さに、マーガレットは自分の顔に穴が開くような幻覚を覚え、知らず知らずのうちに上半身を後ろに引いていた。
ううっ、エドワード様の視線が強すぎて、なんだか顔が痛くなる!
『アヤツの視線はまるでレーザーだな』
マーガレットの感想に珍しくマリコさんが同意の言葉らしきものを言ってくれたが、残念ながらマーガレットにはいつも通りその例えが分からない。
もう少し、私が分かる例えを言ってよぉ~、マリコさぁん
そんな苦情をマーガレットがマリコさんに向かって内心で呟いていると、またしてもマーガレットの後方から、今度は皆に聞こえるようにか、それなりの大きさで話す声が聞こえた。
「それは……エドワードが好きな女だから、そう見えるだけだろう?」
その言葉を聞いた瞬間、マーガレットの肩はビクリと揺れる。
えっ、エェッ、ウソぉ?
もしかして、エドワード様のあの相手が私ってコト、ここにいる騎士様たちは知っているのぉ~!!
なんで、バレるの?
どこから……どうやって?
マーガレットの顔面は血の気が引き、真っ青になった。
マーガレットの後方に控える大勢の騎士たちからも、そうだ!そうだ!と同意の声が口々に上がり……それを聞いたマーガレットの上半身は、今度は自動的に前に移動し、首は項垂れ、視線は完全に下がった。
「静かに!
女は顔を上げよ!」
王太子殿下の一喝に、すぐさま騒いでいる声はピタリと止み、マーガレットも指示通り、顔を上げる。
皆の注目を一身に浴びた王太子殿下は、右手を小さく挙げ、ハッキリと宣言した。
「私もアリだ!」
「「「おぉおおおおぉ~っ」」」
マーガレットの後方にいる騎士たちに、どよめきが走る。
うっ……そぉ……!
思わぬ殿下の言葉に、マーガレットの身体は凍りついたように、ピッキーンと固まった。
「失礼ですが、殿下、なぜです?」
「教えをいただきたく!殿下!!」
「殿下、何か目に違和感など、ありませんか?」
「体調は良好でしょうか?」
「薄目で見たら、そう見えるのでしょうか?」
納得がいかないのか、マーガレットの後方にいる騎士たちから殿下へ、次々に問いかけの声が上がる。
王太子殿下はその質問らに直接答えず、目線を少し下げ、自身の左前方に向けた。
王太子殿下の視線の先にいた人物は、すぐさまその場で跪き、謝罪の言葉を口にする。
「教育が行き届かず、誠に申し訳ございません、殿下」
謝罪を耳にした王太子殿下は、深いため息をついた。
「我が近衛が……しかもこの人数……あまりにも多すぎて情けない。
我が国は、密偵や暗殺者にとって天国だろうな」
殿下の嘆きに、その騎士はさらに深く頭を下げる。
「重ね重ね申し訳ありません。
すぐ再教育いたします」
王太子殿下にもう一度謝罪を重ねたその騎士はすぐに立ち上がり、今度はマーガレットの方角に身体を向けると、怒気を含ませた声で命令を下した。
「女の後ろに控えている者たち、立て!
まずは王城周り20周、全速力で走ってこい!」
王城周り20周だなんて、ちょっとした旅に出るような距離よ
その過酷な命令内容に、マーガレットは耳を疑った。
「待ってください、隊長!
答えを聞いておりません」
言い渡された騎士たちは、その厳しすぎる内容に戸惑ったのかしばらく騒然となり、そのうちの1人が代表して、隊長に意見を申し立てた。
どうやら王太子殿下にも届いたようで、秀麗な右の眉だけが、クイッとほんの少し上がったように、マーガレットには見えた。
なんて器用なの!
日常生活では経験したこともない、目が潰れそうなイケメン軍団に囲まれ、マーガレットは大変居心地が悪かった。
その気持ち悪さから逃れるためにマーガレットは、ついついどうでもイイ事に着目し、なんとか平常心を保とうとする。
しかしそんなマーガレットの努力を、王太子殿下は柔和な笑みを浮かべながら、踏みにじった。
「どうやらスタンの意見だけでは、納得がいかない者がいるようだ。
では、他の者の意見も聞くか……そうだな……エドワードの理由は?」
「はい、私には彼女の外面はもちろん麗しく思えますが、彼女の内面も美しく……従って彼女の全てが輝いて見えます」
エッ、エドワード様がいるの!?
マーガレットは驚きのあまり、いつもの癖で、ちょうど心臓の真上に右手をあてる。
王太子殿下はまっすぐマーガレットを見つめたままだったので、エドワード様がどこにいるのか、マーガレットはすぐに見つけることができなかったが、他の騎士たちがいっせいに殿下の左後方に目を向けたので、マーガレットも皆にならい、その方向に目を向けた。
いっ……いたわ!
確かに殿下の左後方にいるじゃないの……しかもエドワード様の左隣はケネスだわ!
身内のケネスの姿を見つけて、マーガレットが少しだけホッとしたものの、またしても脳内に自称高貴なマリコ様が降臨する。
『おっ、殿下の真後ろに立っているってことは、アヤツら側近中の側近ってコトじゃない?
なかなかヤルなぁ~!』
あっ……そういうモノなのぉ?
マリコさんの解説に改めてマーガレットはマジマジと2人を見つめたところ……ケネスはマーガレットを見てフワッと笑ってくれたが、エドワード様は熱心にマーガレットだけを見つめてきて……そのあまりの視線の鋭さに、マーガレットは自分の顔に穴が開くような幻覚を覚え、知らず知らずのうちに上半身を後ろに引いていた。
ううっ、エドワード様の視線が強すぎて、なんだか顔が痛くなる!
『アヤツの視線はまるでレーザーだな』
マーガレットの感想に珍しくマリコさんが同意の言葉らしきものを言ってくれたが、残念ながらマーガレットにはいつも通りその例えが分からない。
もう少し、私が分かる例えを言ってよぉ~、マリコさぁん
そんな苦情をマーガレットがマリコさんに向かって内心で呟いていると、またしてもマーガレットの後方から、今度は皆に聞こえるようにか、それなりの大きさで話す声が聞こえた。
「それは……エドワードが好きな女だから、そう見えるだけだろう?」
その言葉を聞いた瞬間、マーガレットの肩はビクリと揺れる。
えっ、エェッ、ウソぉ?
もしかして、エドワード様のあの相手が私ってコト、ここにいる騎士様たちは知っているのぉ~!!
なんで、バレるの?
どこから……どうやって?
マーガレットの顔面は血の気が引き、真っ青になった。
マーガレットの後方に控える大勢の騎士たちからも、そうだ!そうだ!と同意の声が口々に上がり……それを聞いたマーガレットの上半身は、今度は自動的に前に移動し、首は項垂れ、視線は完全に下がった。
「静かに!
女は顔を上げよ!」
王太子殿下の一喝に、すぐさま騒いでいる声はピタリと止み、マーガレットも指示通り、顔を上げる。
皆の注目を一身に浴びた王太子殿下は、右手を小さく挙げ、ハッキリと宣言した。
「私もアリだ!」
「「「おぉおおおおぉ~っ」」」
マーガレットの後方にいる騎士たちに、どよめきが走る。
うっ……そぉ……!
思わぬ殿下の言葉に、マーガレットの身体は凍りついたように、ピッキーンと固まった。
「失礼ですが、殿下、なぜです?」
「教えをいただきたく!殿下!!」
「殿下、何か目に違和感など、ありませんか?」
「体調は良好でしょうか?」
「薄目で見たら、そう見えるのでしょうか?」
納得がいかないのか、マーガレットの後方にいる騎士たちから殿下へ、次々に問いかけの声が上がる。
王太子殿下はその質問らに直接答えず、目線を少し下げ、自身の左前方に向けた。
王太子殿下の視線の先にいた人物は、すぐさまその場で跪き、謝罪の言葉を口にする。
「教育が行き届かず、誠に申し訳ございません、殿下」
謝罪を耳にした王太子殿下は、深いため息をついた。
「我が近衛が……しかもこの人数……あまりにも多すぎて情けない。
我が国は、密偵や暗殺者にとって天国だろうな」
殿下の嘆きに、その騎士はさらに深く頭を下げる。
「重ね重ね申し訳ありません。
すぐ再教育いたします」
王太子殿下にもう一度謝罪を重ねたその騎士はすぐに立ち上がり、今度はマーガレットの方角に身体を向けると、怒気を含ませた声で命令を下した。
「女の後ろに控えている者たち、立て!
まずは王城周り20周、全速力で走ってこい!」
王城周り20周だなんて、ちょっとした旅に出るような距離よ
その過酷な命令内容に、マーガレットは耳を疑った。
「待ってください、隊長!
答えを聞いておりません」
言い渡された騎士たちは、その厳しすぎる内容に戸惑ったのかしばらく騒然となり、そのうちの1人が代表して、隊長に意見を申し立てた。
36
あなたにおすすめの小説
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる