イケメン騎士の貞操を奪ったのは誰だ!ーイケメン嫌いな私と彼の密かな追いかけっこの行方

黎明まりあ

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第4章 迫り来る包囲網

52、護るためのお目通り<後1>

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 部屋の中が静か過ぎるせいか、その疑念の声はことほか、大きく響く。
 どうやら王太子殿下にも届いたようで、秀麗しゅうれいな右の眉だけが、クイッとほんの少し上がったように、マーガレットには見えた。

 なんて器用なの!

 日常生活では経験したこともない、目がつぶれそうなイケメン軍団に囲まれ、マーガレットは大変居心地が悪かった。
 その気持ち悪さから逃れるためにマーガレットは、ついついどうでもイイ事に着目し、なんとか平常心を保とうとする。
 しかしそんなマーガレットの努力を、王太子殿下は柔和にゅうわな笑みを浮かべながら、踏みにじった。

「どうやらスタンの意見だけでは、納得がいかない者がいるようだ。
 では、他の者の意見も聞くか……そうだな……エドワードの理由は?」
「はい、私には彼女の外面はもちろんうるわしく思えますが、彼女の内面も美しく……従って彼女の全てが輝いて見えます」

 エッ、エドワード様がいるの!?

 マーガレットは驚きのあまり、いつものくせで、ちょうど心臓の真上に右手をあてる。
 王太子殿下はまっすぐマーガレットを見つめたままだったので、エドワード様がどこにいるのか、マーガレットはすぐに見つけることができなかったが、他の騎士たちがいっせいに殿下の左後方に目を向けたので、マーガレットも皆にならい、その方向に目を向けた。

 いっ……いたわ!
 確かに殿下の左後方にいるじゃないの……しかもエドワード様の左隣はケネスだわ!

 身内のケネスの姿を見つけて、マーガレットが少しだけホッとしたものの、またしても脳内に自称高貴なマリコ様が降臨こうりんする。

『おっ、殿下の真後ろに立っているってことは、アヤツら側近中の側近ってコトじゃない?
 なかなかヤルなぁ~!』

 あっ……そういうモノなのぉ?

 マリコさんの解説に改めてマーガレットはマジマジと2人を見つめたところ……ケネスはマーガレットを見てフワッと笑ってくれたが、エドワード様は熱心にマーガレットだけを見つめてきて……そのあまりの視線の鋭さに、マーガレットは自分の顔に穴が開くような幻覚を覚え、知らず知らずのうちに上半身を後ろに引いていた。

 ううっ、エドワード様の視線が強すぎて、なんだか顔が痛くなる!

『アヤツの視線はまるでレーザーだな』

 マーガレットの感想に珍しくマリコさんが同意の言葉らしきものを言ってくれたが、残念ながらマーガレットにはいつも通りそのたとえが分からない。

 もう少し、私が分かる例えを言ってよぉ~、マリコさぁん

 そんな苦情をマーガレットがマリコさんに向かって内心でつぶやいていると、またしてもマーガレットの後方から、今度は皆に聞こえるようにか、それなりの大きさで話す声が聞こえた。

「それは……エドワードが好きな女だから、そう見えるだけだろう?」

 その言葉を聞いた瞬間、マーガレットの肩はビクリと揺れる。

 えっ、エェッ、ウソぉ?
 もしかして、エドワード様のあの相手が私ってコト、ここにいる騎士様たちは知っているのぉ~!!

 なんで、バレるの?
 どこから……どうやって?

 マーガレットの顔面は血の気が引き、真っ青になった。
 マーガレットの後方に控える大勢の騎士たちからも、そうだ!そうだ!と同意の声が口々に上がり……それを聞いたマーガレットの上半身は、今度は自動的に前に移動し、首は項垂うなだれ、視線は完全に下がった。

「静かに!
 女は顔を上げよ!」

 王太子殿下の一喝いっかつに、すぐさま騒いでいる声はピタリと止み、マーガレットも指示通り、顔を上げる。
 皆の注目を一身に浴びた王太子殿下は、右手を小さく挙げ、ハッキリと宣言した。

「私もアリだ!」
「「「おぉおおおおぉ~っ」」」

 マーガレットの後方にいる騎士たちに、どよめきが走る。

 うっ……そぉ……!

 思わぬ殿下の言葉に、マーガレットの身体からだは凍りついたように、ピッキーンと固まった。

「失礼ですが、殿下、なぜです?」
「教えをいただきたく!殿下!!」
「殿下、何か目に違和感など、ありませんか?」
「体調は良好でしょうか?」
薄目うすめで見たら、そう見えるのでしょうか?」

 納得がいかないのか、マーガレットの後方にいる騎士たちから殿下へ、次々に問いかけの声が上がる。
 王太子殿下はその質問らに直接答えず、目線を少し下げ、自身の左前方に向けた。
 王太子殿下の視線の先にいた人物は、すぐさまその場でひざまずき、謝罪の言葉を口にする。

「教育が行き届かず、誠に申し訳ございません、殿下」

 謝罪を耳にした王太子殿下は、深いため息をついた。

「我が近衛が……しかもこの人数……あまりにも多すぎて情けない。
 我が国は、密偵みっていや暗殺者にとって天国だろうな」

 殿下のなげきに、その騎士はさらに深く頭を下げる。

「重ね重ね申し訳ありません。
 すぐ再教育いたします」

 王太子殿下にもう一度謝罪を重ねたその騎士はすぐに立ち上がり、今度はマーガレットの方角に身体からだを向けると、怒気どきを含ませた声で命令を下した。

「女の後ろに控えている者たち、立て!
 まずは王城周り20周、全速力で走ってこい!」

 王城周り20周だなんて、ちょっとした旅に出るような距離よ

 その過酷な命令内容に、マーガレットは耳を疑った。

「待ってください、隊長!
 答えを聞いておりません」

 言い渡された騎士たちは、その厳しすぎる内容に戸惑ったのかしばらく騒然となり、そのうちの1人が代表して、隊長に意見を申し立てた。
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