2 / 201
1
しおりを挟む
久々に寮に帰った俺は、掲示板の張り紙を見て絶句した。
「部屋割りの変更?」
ぺらっと薄い一枚の紙に書かれていた内容といえば、絶望なんだか希望なんだかわからない内容。日付を見れば貼られたのはだいぶ前で、確認してなかった俺の落ち度なんだけど!
え、誰かに聞きたいな……と周囲を見渡すも、寮母さん──とはいうが男だ──と目が合った瞬間心が折れた。
我ながら気持ち悪いくらい繊細なんだけど、なんか見られてる時に行動するのが無理み。誰も俺を気にしないで欲しい。
顔を逸らして部屋に一旦足を向ける。とりあえず荷物は撤収した方がいいだろう、あとは自分で見て判断
「田中くん、張り紙ちゃんと見た?」
アァッ話しかけられた!
「……見たよ~! え、ビックリしたんだけど? 言ってくれたらよかったじゃ~ん!」
「事前告知したよ、田中くんが全然帰ってこないだけで」
めっちゃ正論言われた!
「いやぁ~はは……委員会の仕事が楽しすぎて?」
「ふーん? まぁいいけど……変更とはいえ大々的じゃなくてね、二年生に今度転校生が来るんだ」
「こんな時期に~? 普通に入学式から来たら良くね?」
「それがなんか、理事長の意向らしくて」
ふーん、と相槌を打ちながら、ほんのり転校生という存在に胸をそわつかせる。まるで物語の主人公みたいじゃん? わくわくするね。
まぁ俺は後輩の顔を全然覚えてない──話したことない人しか居ないので──ので関係ない話なんだが。誰が転校生かもわかんないよ。
「だから田中くんと他数人の部屋を変えたんだけど」
「ワッッッ、じゃあなおさら直接言って」
唐突に関係ある話になってきちゃった。えっ、三年になって新たに人間関係作るの無理すぎるんだけど。もう三年相手に使うCP(コミュニケーションポイント)が残ってないよ。
「でも田中くん、全然私物なかったから……親御さんに協力してもらって家具とか移動しておいたよ、これ次の部屋の鍵ね」
「そこまでするなら声かけて~?? なんで直俺じゃなくて母さんなの?」
文句を言いながら鍵を受け取ってしまう。弱い人間……。
ここ最近母さんから私物要るのかLINEが多かったの、そういうことなんだ。シンプルにやめて欲しい。
とはいえ部屋に見られると恥ずかしいものを隠しているわけでもなく、何なら見られたくないものとかもないので言うほど困っているわけではない。
寮母さんと別れエレベーターに乗り、部屋番号を確認する。
「へぇ~最上階。眺め良さそ」
我が寮は高校だけでなく、初等部から付属大学までの人間を押し込められる二十階建てのマンションであることが特徴だ。
基本的に学年が上がるごとに階層も上がって行き、使える広さも上がる。
初等部の子らなんかは好奇心で身を乗り出したりするので高いところに住めないのだ。寮母さんが駆け付けやすい、目の届くところという意味もある。
「上の階ってことは大学生とか? 歳上かぁ~……」
音の出ないエレベーターの中、ため息を吐く。もう全方位人見知りである。今から相手水瀬とかになんないかな。あいつ実家通いだけど。
エレベーターが止まり、チン、と軽い音が鳴る。
憂鬱な気持ちで外に出て。
「えっ」
困惑する。
高級感のある内装、シャンデリアのような形をした照明に美しく曲線を描く柱。まさに城みたいなそこには行き止まりにはめ殺しの洒落た窓が取り付けられており、眺めも光の入り方も満点だ。
が。
「……部屋数少なくない?」
部屋数が少なすぎる。
困惑して調べれば、二十階には三部屋しかないらしい。三部屋! だだっ広い最上階で三部屋である。
気が狂ったか? ちなみに俺が元いた十三階は七部屋あった。
「ええと、2001……馬鹿みたいな数字だな、2001ってどこ」
ルームキーを握りしめた手が汗ばんでいる。こんな部屋で普通に暮らしてる金持ち、気が合わないどころの話ではない。金銭感覚が合わない相手とは仲良くなれないんだぞ! 俺は誰とも仲良くなれないけど。
コツコツと地面を踏み鳴らし、扉を探す。扉が少ないのですぐに見つかった。
「ええと、同居人は」
息を呑む。
儀礼として確認した表札には、俺の名前ともう一つ、とんでもない名前が刻まれていた。
「……武藤、瑛一……」
どうやら俺は、今世紀最大の幸運にして試練を掴んでしまったらしい。ヒャッホウ神様ありがとう! 嘘です死にまーーす。情緒ガッタガタである。
「部屋割りの変更?」
ぺらっと薄い一枚の紙に書かれていた内容といえば、絶望なんだか希望なんだかわからない内容。日付を見れば貼られたのはだいぶ前で、確認してなかった俺の落ち度なんだけど!
え、誰かに聞きたいな……と周囲を見渡すも、寮母さん──とはいうが男だ──と目が合った瞬間心が折れた。
我ながら気持ち悪いくらい繊細なんだけど、なんか見られてる時に行動するのが無理み。誰も俺を気にしないで欲しい。
顔を逸らして部屋に一旦足を向ける。とりあえず荷物は撤収した方がいいだろう、あとは自分で見て判断
「田中くん、張り紙ちゃんと見た?」
アァッ話しかけられた!
「……見たよ~! え、ビックリしたんだけど? 言ってくれたらよかったじゃ~ん!」
「事前告知したよ、田中くんが全然帰ってこないだけで」
めっちゃ正論言われた!
「いやぁ~はは……委員会の仕事が楽しすぎて?」
「ふーん? まぁいいけど……変更とはいえ大々的じゃなくてね、二年生に今度転校生が来るんだ」
「こんな時期に~? 普通に入学式から来たら良くね?」
「それがなんか、理事長の意向らしくて」
ふーん、と相槌を打ちながら、ほんのり転校生という存在に胸をそわつかせる。まるで物語の主人公みたいじゃん? わくわくするね。
まぁ俺は後輩の顔を全然覚えてない──話したことない人しか居ないので──ので関係ない話なんだが。誰が転校生かもわかんないよ。
「だから田中くんと他数人の部屋を変えたんだけど」
「ワッッッ、じゃあなおさら直接言って」
唐突に関係ある話になってきちゃった。えっ、三年になって新たに人間関係作るの無理すぎるんだけど。もう三年相手に使うCP(コミュニケーションポイント)が残ってないよ。
「でも田中くん、全然私物なかったから……親御さんに協力してもらって家具とか移動しておいたよ、これ次の部屋の鍵ね」
「そこまでするなら声かけて~?? なんで直俺じゃなくて母さんなの?」
文句を言いながら鍵を受け取ってしまう。弱い人間……。
ここ最近母さんから私物要るのかLINEが多かったの、そういうことなんだ。シンプルにやめて欲しい。
とはいえ部屋に見られると恥ずかしいものを隠しているわけでもなく、何なら見られたくないものとかもないので言うほど困っているわけではない。
寮母さんと別れエレベーターに乗り、部屋番号を確認する。
「へぇ~最上階。眺め良さそ」
我が寮は高校だけでなく、初等部から付属大学までの人間を押し込められる二十階建てのマンションであることが特徴だ。
基本的に学年が上がるごとに階層も上がって行き、使える広さも上がる。
初等部の子らなんかは好奇心で身を乗り出したりするので高いところに住めないのだ。寮母さんが駆け付けやすい、目の届くところという意味もある。
「上の階ってことは大学生とか? 歳上かぁ~……」
音の出ないエレベーターの中、ため息を吐く。もう全方位人見知りである。今から相手水瀬とかになんないかな。あいつ実家通いだけど。
エレベーターが止まり、チン、と軽い音が鳴る。
憂鬱な気持ちで外に出て。
「えっ」
困惑する。
高級感のある内装、シャンデリアのような形をした照明に美しく曲線を描く柱。まさに城みたいなそこには行き止まりにはめ殺しの洒落た窓が取り付けられており、眺めも光の入り方も満点だ。
が。
「……部屋数少なくない?」
部屋数が少なすぎる。
困惑して調べれば、二十階には三部屋しかないらしい。三部屋! だだっ広い最上階で三部屋である。
気が狂ったか? ちなみに俺が元いた十三階は七部屋あった。
「ええと、2001……馬鹿みたいな数字だな、2001ってどこ」
ルームキーを握りしめた手が汗ばんでいる。こんな部屋で普通に暮らしてる金持ち、気が合わないどころの話ではない。金銭感覚が合わない相手とは仲良くなれないんだぞ! 俺は誰とも仲良くなれないけど。
コツコツと地面を踏み鳴らし、扉を探す。扉が少ないのですぐに見つかった。
「ええと、同居人は」
息を呑む。
儀礼として確認した表札には、俺の名前ともう一つ、とんでもない名前が刻まれていた。
「……武藤、瑛一……」
どうやら俺は、今世紀最大の幸運にして試練を掴んでしまったらしい。ヒャッホウ神様ありがとう! 嘘です死にまーーす。情緒ガッタガタである。
210
あなたにおすすめの小説
ひみつのモデルくん
おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。
高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎
主人公総受け、総愛され予定です。
思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。
後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。
ビッチです!誤解しないでください!
モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃
「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」
「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」
「大丈夫か?あんな噂気にするな」
「晃ほど清純な男はいないというのに」
「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」
噂じゃなくて事実ですけど!!!??
俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生……
魔性の男で申し訳ない笑
めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
30歳まで独身だったので男と結婚することになった
あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。
キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる