王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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激動! 体育祭!

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行きたいところがある、と連れてこられたのは、ショッピングモールを出て、神社を抜けた先の街並みに隠れたおしゃれなカフェだった。

看板は出ておらず、植物に隠れるようにしてコバルトブルーの扉が見えた。控えめに『Open』の文字が掛けられていて、両サイドにはアンティーク調の窓が光を入れている。はめ殺しの採光用だろう。

「喫茶……アネラ。ʻānela天使?」
「ああ」

アネラはハワイの言葉で天使、という意味を持つ。天使モチーフの喫茶店って、なんか珍しいな。どういうところなんだろう。

参加してくすんでいる扉のノブに手をかける。が、押しても引いても開かない。あ、あれ。なんか間違ってる?

「……」
「あ、ありがとう……」

犬神さまが無言に前に出て、ノブを押した。同時に親指の辺りでノブの上方を押しており、扉は容易く開く。あ、ああ、サムラッチ錠か……!

サムラッチ錠は装飾錠とも呼ばれ、玄関に使われることが多い。開け方としては簡単であり、開ける際に親指でラッチボトルと呼ばれている場所を押せば良いだけだ。

緊張してて気がついてなかった。知識の上ではあるのに。失態。
さらに落ち込む俺を放置し、カランコロンと涼やかなドアベルが鳴る。

「あらぁこーちゃん。また遊びに来てくれたの~? あらあらあらお友達も一緒?」
「ぇあ、は、はい」

カフェのカウンターには、女の人が立っていた。
ぱっちりとした栗色の目に、淡い茶色の髪。パステルブルーのワンピースに白いエプロン、ボリューミーなスカートがやけに似合っている。

可愛らしい外見とは相反して落ち着いた声音と『副店長』の名札から、成人しているのであろうことは読み取れた。

「うふふ。こーちゃんがお友達連れてくるなんていつぶりかしら~? ゆっくりしていってくださいね」
「こっち」
「え、あ、えっと」

うおおお~~~~こういう時全然言葉が選べないコミュ障~~~~!! カス~~~~!!!!
副店長さんは華やかに笑って、踊るように奥の方に引っ込んでいってしまった。
あれが本物の女の人……なんか良い匂いしたような気がするし……すごい……うちの暴君とは大違いだ……

俺が童貞丸出しの思考を巡らせていると、先行していた犬神さまがぴたりと止まり、ある一室の扉に手をかけた。

「……おわ……!」

開けた瞬間、五匹ほど猫ちゃんが寄ってきた。
え、なに? どうしたこれ? なに見てる? 幻覚とかある?

窓から見えていたのはこの場所だろう。陽の光が十分に入ってくる室内は電気がついておらず、それでも十分なくらい明るい。昼下がりより少し夕方に傾いた温度感がちょうど良く、美しかった。

フローリングの床、いくつかキャットタワーが置かれていて、そこで寝ている猫ちゃんもいる。猫用ベッドは二つ、本棚には本と古いボードゲームが並んでいて、背の低いソファが置いてある。

ペイズリー柄やアーガイルチェックのラグがどこそこに置いてあって、なんとなくエスニック的な雰囲気。

「ね、ねこだ……ねこがいっぱいいる……!?」

何匹いるかはよくわからない(見えないところにいる子もいるらしいので)けれど、ともかく観測できる範囲で十匹は猫がいた。ローソファに座ると、そのうちの一匹がどしんとソファに乗ってきて、片膝を踏む。

「え、えっと」
「撫でて」

手を差し出して匂いを嗅いでもらい、挨拶を──と思ったところで思い切り擦り寄られる。か、可愛い!
おぼつかない撫でにも全力で応えてくれて、尻尾がピンと立ったまま先端がぷりぷりと揺れている。
何故か片足を両前足で踏むだけだが、これはこれで……

「あら? 店長に気に入られたの? うふふ、いい子とお友達になれたのね~!」
「ひょえっ」
「……ひまりさん」
「おじゃまだったかしら? ごめんなさいね!」

ひょっこりと顔を出したさっきの女の人──ひまりさんというらしい──が、なにやらお盆を持って来た。ちなみに猫たちはワッッッ……と寄っていっていた。ものすごく好かれている。

「邪魔なんかじゃ……えっとこれ、はいったい?」
「うふふ。次に出すメニュー、ラテアートに挑戦してみようと思って! その試作品なのよ」
「ラテアート。めちゃくちゃ3Dですけど……!?」
「ちょっと前に流行ったらしいのよ~! 可愛いでしょう?」

白いマグカップから、マスコット調にデフォルメされた猫が顔を出している。なにがすごいってめちゃくちゃ立体だ。持ち上げるとプルプルする。その道を極めた人のラテアートなのでは?

「すごい! サンドイッチも美味しそうですね」
「こっちも試作品なの~! 良ければ食べていって? お金は取らないから!」
「え!?!? いやいや、お金払います。料金設定ないなら相場で」

ほわほわと笑うひまりさんに抵抗していれば、膝の上で猫があおん、と鳴いた。

「ほら、店長もそう言ってるのよ~! こうちゃんだっていーっつも食べるだけ食べて帰るんだから!」
「ひまりさん」
「ウフフ、嘘よ嘘よ。ごめんなさいね? わたしが食べてーって言ってるの」

なんだろうこの会話。何かこう、気の置けない仲って感じ……! おっとな~!

ちなみに犬神さまはめちゃくちゃ猫に集られてるし片手で三匹ほどじゃらし片手でサンドイッチを貪っている。すげぇ、どうなってるんだあの猫じゃらし。

「そ、そんなに言うなら……ありがたくいただきます」

せっかくなのでサンドイッチを口に含む。
最近は武藤さまご飯のおかげで舌がいい感じに肥えてきている。というか同じ味でもなにも感じないようマヒしてた舌が贅沢を覚え始めているので、ある程度は大人の味も楽しめ──

ん……?
えっ……?

これ大人の味っていうか、うん……?

「無味」
「あら~ッやっぱり?」

あ良かった無味だよな!? び、びっくりしたまじで。ビジュアル完全にサンドイッチだったから。口にした瞬間“食感”以外の全てが失われてた。なんだこれどういう状態異常だと思った。

「ごめんなさいね~、何故かわたしの作るご飯、全部無味になっちゃって……普段はお休みの日だけ、こうちゃんにお店に来てもらってお料理してもらってるのよ~」
「どういうメカニズムで無味に……!?」

サンドイッチってパンに具材挟んでるわけだから、少なくとも無味にはならないはずなのに。何かがあるってこと? 味を“マイナス”するやつが……怖……

「いらなかったら残しちゃっていいのよ? こうちゃんがお友達を連れてきたと思って張り切っちゃって……」
「ああいや大丈夫ですよ。俺ちょっと前まで芋と餃子しか口にしない生活だったんで」
「それは……大丈夫なのかしら」
「美味しいです。めっちゃ美味しいです」

悲しきかな童貞。美人の喜ぶ顔を見たいがために何もかもをかなぐり捨てられるのだ。
長毛種の子猫みたいなひまりさんは無邪気に微笑む。嬉しそうだ、うう、めちゃくちゃ可愛い。

「本当っ? 嬉しいわ! お邪魔しちゃってごめんなさい、ごゆっくり~」
「はーい」

ひまりさんが軽く猫に構ってぱたぱたと出ていく。その背中をしばらく猫が追っていたけれど、帰ってこないとわかればどしんと俺の足元に寝たり、猫じゃらしで遊んだり。かわいい。

ぅるる、と小さな鳴き声と共に猫がもう一匹ソファに飛び乗ってくる。店長は俺の片膝の上に前脚を組んで寝はじめてしまった。なに?

「またたび」
「またたび? あ、この子?」

薄茶色のハチワレみたいな猫がもそもそとやってきて膝の上に乗る。幸福の重さだった。

「またたび……懐きやすい」
「うん、可愛いねぇ」

お伺いを立てて顎の下を擦るとごろごろと喉が鳴る。ふあふあで、うさぎの毛みたいな感触。毛並みが良くて撫で心地がいい。
小さいから力を入れすぎないようにまたたびを撫でていると、足元にいる猫がぐんと伸びて俺の膝に前脚を乗せた。

「くろすけは……自己中……?」
「自己中!?」
「自分が一番」

なるほど、世界で一番お姫様系の猫ちゃんってことね。可愛すぎる。
くろすけの頭を撫でる。店長がぐっすり眠っているので起こさないようにしながら。

「太ってるから登れない」
「な、なるほど」

運動嫌いなのか。俺は嫌いじゃないけど苦手だよ。俺たち一緒だねくろすけ。
くろすけは大きめなのでしっかり目に撫でれば、気に入ったのかどしんと足元に乗り上げて寝転んでいた。少し屈んでぐしぐしと撫でる。
ダブルコートというのだろうか、またたびや店長とはまた違った、柴犬みたいなふかふか感。

「あ、行っちゃった」

ぴょ、とくろすけがどこかに行ってしまう。うーん、上手く撫でれなかったのかな。

「田中宗介」
「? っわ!」

くろすけを追っていた手を取られ、いつの間にか近くにいた犬神さまの頬に当てさせられる。

「くろすけは難しい。練習」
「へぁ!? へ、え、ええ」

猫を驚かせないように抑えた声で抵抗してみるも、じっと見られて動かない。
恐る恐る頭を撫でればもっと強く、と指示が入る。

「……よ、しよし……」
「……もう少し」
「う、うん……」

他意、ないんだよな? 俺友達ってほとんど水瀬で埋め尽くされてるから、パーソナルスペースよくわかんないんだけど。これ普通だよな? 水瀬も全然肩組んでくるし、男同士でも普通にするよな?
姉ちゃんだってまだ全然頭撫でてくるし(無理矢理だし痛いし高確率で技をかけられるけど)普通なんだよな?

「わ、くろすけ」
「嫉妬してる。今のでちょうどいい」
「ありがと……」

どしん!! と犬神さまと俺の間に勢いよく寝転んだくろすけを確認し、犬神さまは定位置に戻った。
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