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『君と待つ光』
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久々にゆっくり眠って起床。鳥が鳴き、朝日がサッと部屋に入ってくる。もうすっかり慣れきったエアベッドも気持ちが良く、うーん、いい朝!
「鍛錬にでも行くかな」
「ヘェ……よかったですね…………」
隣でヴィンセントが二割減くらいしていた。減るもんじゃなしって減るんだな、勉強になるぜ。
「ヴィンセント、そろそろ出るぞ。というかなんでそんな萎れてるんだ? その媚薬、最大でも効果時間四時間なのに」
「は?? 全然知らない」
「言ってなかったか」
言ってなかったわそういえば。眠くて。
媚薬はとっくに抜けたというのに、おおむねプラシーボ効果でずっと興奮したままだったのだろう。可哀想な奴め。ぐったりとしているヴィンセントを放置してベッドから降りる。乱していた服をサッと整え、ボサボサになった髪を漉く。これくらいは紳士のエチケットとも言えよう。
「マジでそういう大事なことって初手で言ってほしい、本当に。ママに習わなかっ──」
「ママ、服毒自殺して俺の記憶ないからな」
「そういうこと自傷でも言わなくていいから……ちゃんと怒れ」
失敬な、お前以外に言われたら怒ってるよ。ヴィンセントだから許すんだ。俺の傑作、ついでに友人で、安寧の象徴。
ぐったりしてるくせに俺の言葉が許せないのか睨みつけるヴィンセントがおかしかった。金色の瞳を見つめ返し、ふっと笑いが漏れる。
「お前は、いつも俺の中のお前を過小評価してるな。許してやってるだけなのに」
誰にも抉られたくない傷はあるが、触れる程度は許してやらんでもない。ヴィンセントは彼の思っているより大多数の一人ではないし、俺は結構お前のこと好きだよ。
「は? ちょっそれどういう意味」
「自分で考えろ、また昼に!」
バタンと扉を閉めて開かないよう軽く細工をしてしまう。昼まで寝てろお前は!
ポチには俺がいなくなっても探さないよう言ってあるので、今日も今日とて朝起きて元気にランニングなんかしてるだろう。追いかけて合流してもいいな、ポチと遊ぶだけでもいい鍛錬だ。
そんなことを思いながら足取り軽く、ついでに物理的に体も軽くるんるんと廊下を歩いていれば、ふと声が聞こえてきた。六年寮近くにある噴水広場からだ。ヴィンセントの部屋からは廊下に出てすぐ外だから、俺にも聞こえてくるのだろう。
「……っで、あなたの事、好きで──」
おお。告白現場。
入学式以降はなぜか告白ラッシュが続く。概ね歓迎会が近いからだろう。一年生に好きな相手を取られまいと唾をつけておいたり自分のものにしたがったり、逆にペアになりたい相手に成功率を上げるため擦り寄っておいたり。
「今回はどんな感じかな、外で告白するやつ、たまに凶行に及ぶんだよ」
寮から出て、そっと建物の影に隠れながら噴水広場を覗く。
公衆の面前でよく告白できるものだ。朝早いからか人通りは少ないが、それでも何か仕入れだかのために通りがかった人々がギョッとしているのが見えた。
俺も通行人のふりをしようかとも思ったが、知り合いだったら気まずいし。
どれどれ、とこっそり野次馬して、激しく後悔をした。
「……で? 言いたいことはそれだけなの。ぼく、忙しいんだけど」
知り合いも知り合い、なんなら血縁の弟だったからである。まぁ種しか同じじゃないんだが。
セリオン、お前、兄にあんなことした翌日によくもまぁ告白受けれるな。いや関係ないけど!
「それだけって……だから、その、付き合ってほしくて! 俺の恋人に」
「ならない。理由もない。ぼくはあんたのこと知らないし、語られた内容もあんたといた覚えはない。帰っていい?」
「そんな……」
セリオンお前流石にその態度はどうかと思うぞ。口を出したいが、セリオンの恋愛だ。兄が口出しは流石に余計だろう。石畳で音を鳴らさないよう、噴水広場からそっと離れ
「そんな、そんな言い方……! 俺たちは運命なのに! ああやっぱり偽物になっちゃったんだセリオンくん、俺が救い出してあげるから!」
「は?」
たまにいる凶行に及ぶ方!!!!!!!!!
狂気じみた絶叫と共に対峙した男が何かを取り出す。見た目ばかりは美しくセリオンと並んだらお似合いだというのに。そういえば一緒にダンスを踊ったあの子、元気にしてるかな。
一瞬セリオンに対処を任せるかと視線をやったが無理そうだ、驚いたようにその姿を見て固まっている。そうだった、セリオンってキモい信奉者を俺が裏で片付けてたからあんまり慣れてないんだよな。
「一緒に死にましょう、セリオン様──」
「セリオン!」
男の言葉に反応して青ざめたセリオンに上着を投げつけて視界を奪う。
包丁を振るった男の前に飛び出し、そのまま包丁を叩き落とした。
ろくに訓練もせず握っていたのだろう、軽い衝撃だけで取り落とした武器を地面に落ちる前に回収し勢いを殺さぬまま回し蹴り。
無茶苦茶な動きだが命中したから結果オーライである。
ゴッ、と鈍い音。
倒れる体を放置して、固まっているセリオンから上着を剥ぎ取った。この間十秒程度である。ほぼセリオンから上着を受け取るのに使った。
「セリオン、お前、だから一回呼び出された時は教えろって言っただろ。俺だって意地悪で言ってるんじゃないんだぞ」
「……兄さん」
呆けた顔は昔の可愛い綿毛にそっくりだ。
全く、いくら欲求不満とはいえわかりきった告白に付き合うとは。本校舎からも寮からも遠い場所なのだし、自分の意思で来なかったら来ない場所だ。ここには六年寮があるくらいで他にほとんど何もないんだから。
「鍛錬にでも行くかな」
「ヘェ……よかったですね…………」
隣でヴィンセントが二割減くらいしていた。減るもんじゃなしって減るんだな、勉強になるぜ。
「ヴィンセント、そろそろ出るぞ。というかなんでそんな萎れてるんだ? その媚薬、最大でも効果時間四時間なのに」
「は?? 全然知らない」
「言ってなかったか」
言ってなかったわそういえば。眠くて。
媚薬はとっくに抜けたというのに、おおむねプラシーボ効果でずっと興奮したままだったのだろう。可哀想な奴め。ぐったりとしているヴィンセントを放置してベッドから降りる。乱していた服をサッと整え、ボサボサになった髪を漉く。これくらいは紳士のエチケットとも言えよう。
「マジでそういう大事なことって初手で言ってほしい、本当に。ママに習わなかっ──」
「ママ、服毒自殺して俺の記憶ないからな」
「そういうこと自傷でも言わなくていいから……ちゃんと怒れ」
失敬な、お前以外に言われたら怒ってるよ。ヴィンセントだから許すんだ。俺の傑作、ついでに友人で、安寧の象徴。
ぐったりしてるくせに俺の言葉が許せないのか睨みつけるヴィンセントがおかしかった。金色の瞳を見つめ返し、ふっと笑いが漏れる。
「お前は、いつも俺の中のお前を過小評価してるな。許してやってるだけなのに」
誰にも抉られたくない傷はあるが、触れる程度は許してやらんでもない。ヴィンセントは彼の思っているより大多数の一人ではないし、俺は結構お前のこと好きだよ。
「は? ちょっそれどういう意味」
「自分で考えろ、また昼に!」
バタンと扉を閉めて開かないよう軽く細工をしてしまう。昼まで寝てろお前は!
ポチには俺がいなくなっても探さないよう言ってあるので、今日も今日とて朝起きて元気にランニングなんかしてるだろう。追いかけて合流してもいいな、ポチと遊ぶだけでもいい鍛錬だ。
そんなことを思いながら足取り軽く、ついでに物理的に体も軽くるんるんと廊下を歩いていれば、ふと声が聞こえてきた。六年寮近くにある噴水広場からだ。ヴィンセントの部屋からは廊下に出てすぐ外だから、俺にも聞こえてくるのだろう。
「……っで、あなたの事、好きで──」
おお。告白現場。
入学式以降はなぜか告白ラッシュが続く。概ね歓迎会が近いからだろう。一年生に好きな相手を取られまいと唾をつけておいたり自分のものにしたがったり、逆にペアになりたい相手に成功率を上げるため擦り寄っておいたり。
「今回はどんな感じかな、外で告白するやつ、たまに凶行に及ぶんだよ」
寮から出て、そっと建物の影に隠れながら噴水広場を覗く。
公衆の面前でよく告白できるものだ。朝早いからか人通りは少ないが、それでも何か仕入れだかのために通りがかった人々がギョッとしているのが見えた。
俺も通行人のふりをしようかとも思ったが、知り合いだったら気まずいし。
どれどれ、とこっそり野次馬して、激しく後悔をした。
「……で? 言いたいことはそれだけなの。ぼく、忙しいんだけど」
知り合いも知り合い、なんなら血縁の弟だったからである。まぁ種しか同じじゃないんだが。
セリオン、お前、兄にあんなことした翌日によくもまぁ告白受けれるな。いや関係ないけど!
「それだけって……だから、その、付き合ってほしくて! 俺の恋人に」
「ならない。理由もない。ぼくはあんたのこと知らないし、語られた内容もあんたといた覚えはない。帰っていい?」
「そんな……」
セリオンお前流石にその態度はどうかと思うぞ。口を出したいが、セリオンの恋愛だ。兄が口出しは流石に余計だろう。石畳で音を鳴らさないよう、噴水広場からそっと離れ
「そんな、そんな言い方……! 俺たちは運命なのに! ああやっぱり偽物になっちゃったんだセリオンくん、俺が救い出してあげるから!」
「は?」
たまにいる凶行に及ぶ方!!!!!!!!!
狂気じみた絶叫と共に対峙した男が何かを取り出す。見た目ばかりは美しくセリオンと並んだらお似合いだというのに。そういえば一緒にダンスを踊ったあの子、元気にしてるかな。
一瞬セリオンに対処を任せるかと視線をやったが無理そうだ、驚いたようにその姿を見て固まっている。そうだった、セリオンってキモい信奉者を俺が裏で片付けてたからあんまり慣れてないんだよな。
「一緒に死にましょう、セリオン様──」
「セリオン!」
男の言葉に反応して青ざめたセリオンに上着を投げつけて視界を奪う。
包丁を振るった男の前に飛び出し、そのまま包丁を叩き落とした。
ろくに訓練もせず握っていたのだろう、軽い衝撃だけで取り落とした武器を地面に落ちる前に回収し勢いを殺さぬまま回し蹴り。
無茶苦茶な動きだが命中したから結果オーライである。
ゴッ、と鈍い音。
倒れる体を放置して、固まっているセリオンから上着を剥ぎ取った。この間十秒程度である。ほぼセリオンから上着を受け取るのに使った。
「セリオン、お前、だから一回呼び出された時は教えろって言っただろ。俺だって意地悪で言ってるんじゃないんだぞ」
「……兄さん」
呆けた顔は昔の可愛い綿毛にそっくりだ。
全く、いくら欲求不満とはいえわかりきった告白に付き合うとは。本校舎からも寮からも遠い場所なのだし、自分の意思で来なかったら来ない場所だ。ここには六年寮があるくらいで他にほとんど何もないんだから。
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