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しおりを挟む「単刀直入に申し上げます。
僕と奏君の婚約を白紙に戻していただきたい。」
梁瀬はしっかりとした口調で総に告げた。
「白紙?
どういう事ですか。
既に決まった事を今更白紙に、とは。」
「総さん。
勝手に決めたのは父です。
僕は一度たりとも了承していませんし、奏君と結婚させられたとしても肉体関係も結ばないし番にもなりません。
番の契約は強制出来ない。
おわかりですよね?」
「…。」
そうだ。どれだけ周りがお膳立てしても、結局そこで抵抗されては、全てが無駄になる。
それでも奏のΩのヒート臭で籠絡してしまえば、と思っていたが、此処に奏が居るという事は、奏にもその気が無いという事か。
何時の間にこんな事になっていたんだ。
同級生で数回同じクラスになった程度の顔馴染みではあるが、そんなに親しい訳では無いと報告されていたのに。
「奏、お前もそれを望んでいるのか?」
総は横の奏に強い口調で訊ねる。
日頃は我儘な態度でも、父や総が少し語気を強めれば途端に萎縮して下を向き大人しくなっていた奏が、どうした事か今日は真っ直ぐに総を見ている。
その瞳の強さは総が押され、居心地が悪くなる程だ。
「俺も結婚なんかしたくない。
番にもならない。」
ハッキリ否定の言葉を口にする奏に、少し驚く。
「本気なのか。
父さんが何て言うか……」
「父さんやおお兄の為に俺を利用しないでよ。」
いきなり核心を突かれギクリとする。
確かにこの婚姻により享受するメリットは、奏本人より父や総の為のものだと言える。
財閥の流れを汲む梁瀬の潤沢な資金は、父の後を継いだ総の地位を最速で押し上げるだろうと想定された。
だが本人からそれを突きつけられると、弟達に罪悪感を持っているだけに、きつい。
「……気持ちはわかった。
だが俺の一存では…。」
「ですが、現在諸々全てを差配しているのは総さん、貴方じゃないですか。
この姻戚関係で最もメリットを受ける筈の貴方が否と言えば、不可能ではないのでは?」
梁瀬が感情のこもらない平坦な声で滔々と語る。
感情がこもらないというより、押し殺しているのだろうか。
全身にビリビリ来るプレッシャーに、強くそれを感じる。
綺麗なだけの若造かと思っていたが、αとしての伸び代はまだまだありそうだ。
(惜しいな…。)
正直、奏を犠牲にする事になっても繋がっておきたい相手だった。
だがどうやら、それはもう無理そうだ。
「利一さんはお元気でしたか?」
「……え、」
梁瀬の言葉に目を見開く。
何故そんな事迄…。
限られた身内しか知らない事実を突然突きつけられて、惑う。
駄目だ、ゆくゆくは一国のトップの椅子に座る事を目標としている人間が、十も歳下のαにこんなに簡単に表情を崩されるようでは。
腹芸くらい出来るようになれと、父に常々言われていたのに。
(駄目だ……。利一と奏の事迄、握られている。)
自分ともあろう者が、意表を突かれ過ぎて ろくに何の反撃材料も見つけられないままだなんて。
「……その方の所為ですか?」
鈴木に視線を向けて、何とか活路を見い出せるかと思ったが。
「確かにそれもありますが、彼の所為、では無い。
それ以前の問題です。
おわかりに、なりませんか?」
梁瀬の笑みが深くなり、これ以上 鈴木の事に触れれば危険だと判断せざるを得なかった。
致命傷となる情報を握られているのは、どう見ても此方側だ。
そもそも奏の遍歴を考えれば、鈴木の存在に突っ込める立場ではない。
奏と同級生だった梁瀬は、暗にその事も示唆したのだろう。
全てを知っていると。
「現段階で婚約さえ解消していただければ良いんです。
別に揉めたい訳では無いので。」
「しかし、其方もお父上が納得しないのでは……。」
「父が納得しないのであれば、僕が後継を降りて家から出るしかなくなります。」
「そこ迄……。」
そんなにも覚悟を決めているという事か。
梁瀬の本家は確か、この陽一郎が一人息子だった筈。
分家に歳の近い者数人はいても、突出して優れた陽一郎を廃嫡して迄それらを据えるとは思えない。
陽一郎が本気で抗えば、事は荒立つ事にはなるが、最終的には陽一郎の意思が通る事になるだろう。
だが、そうして揉めての解消になった後は、おそらく陽一郎の代になれば梁瀬との縁は完全に切れる。
それは総に取っても木本の家に取っても、望ましい事では無い。
陽一郎に取ってはそれでも構わない様子なのを見れば、こうして話し合いで解決を申し出てくれたのは、寧ろ陽一郎からの温情と言える。
今此処で白紙に戻すのならば、繋がり迄は絶たないと、そう言っているのだ、彼は。
はあーーー……っ
と、総は長い溜息を吐いた。
…ここまでだろう。
「……わかりました。
其方様の良きように事態を回収致します。」
「ご尽力、感謝します。
よろしくお願いいたします。」
こうして、半年以上に渡り陽一郎を苦しめた、奏との婚約は解消される事になった。
鈴木の存在が無ければ、確かにこうして動く事も無く、結婚してしまっていただろうなと、梁瀬は思った。
「おお兄、ありがとう。」
奏が総に言うと、
「…お前にも 済まなかったな、奏。」
そう、謝罪の言葉が出た。
…と。
それ迄ずっと事の成り行きを見守っていた鈴木が、口を開いた。
「で、これからの事なんですが。」
これから?とは……?
総は怪訝な顔をする。
要望は通った筈なのに、未だ何かあるのだろうか、と。
「同じくらい大事な事、残ってるじゃないですか。
利一さんと奏くんを会わせてくれませんか。」
総の表情が固まった。
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