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15 (葉月 橙)
しおりを挟む三歳上の従兄である高城青秋に、婚約者候補が二人来たらしい。
橙がそれを知ったのは、留学先のホテルの部屋で、母との通話中だった。
何故、留学生の身分でホテルなのかと言えば、遊びたかった橙が駄々を捏ねたからだ。ホームステイもルームシェアも、ましてやサブレットなんて冗談じゃない、女の子を連れ込めないじゃないか…。
そう考えて、何故か突然留学を進めてきた高城の親戚達に『ホテルが良い!』と主張したのだ。
母方である高城の本家は日本有数の名家で、資産家だ。
父方の葉月だってそれなりのα家系だけれど、高城と較べる事は出来ない。
高城の親戚連中は、駄々を捏ねる橙に、かなりの金銭援助をくれた。希望したホテルも、フルサービスホテルのスーペリアルームを向こう半年借り上げてくれて、料金を一括で支払ってくれた。
急に何故、高城のαでもない自分にこんな高待遇?と不思議に思った橙だったが、日本で遊ぶのも飽きていたので旅行気分で留学に行くのも良いなとノリノリで日本を発った。けれど、3ヶ月も過ごせば、幾ら完全に観光気分の楽しい語学留学生活にも飽きが来る。
綺麗な金髪の美女や、スタイルの良いブルネットの美女を連れ回し、部屋に連れ込んで享楽に耽るのは楽しかったが、ふと気がつくと橙は異国に一人だった。
恋人なんて重いつき合いをする気がはなから無かったのだから当然と言えば当然なのだが、橙は身勝手にも寂しく思った。
最初の内は心配して連絡をくれていた青秋からも、最近はLIMEすら来ない。
自分を実の弟のように可愛がってくれて、鬱陶しい程に心配性の青秋。
橙も、青秋の事は大好きだ。αの中でも純血の高位αでカッコ良いし、とにかく顔が尋常じゃないくらい整っている。
しかも日本有数の金持ち。
頭も良くてスタイルも完璧、オーラが強くて、それなのに柔和な面もあり和服が良く似合う長身の青秋は、橙にとって自慢の従兄だった。憧れだ。そして、そんな青秋に溺愛されている自分の事も、特別な人間だと思っていた。
なのに、そんな青秋から少し離れたと思ったら、高城の本家に青秋の婚約者候補のΩが二人入ったとの話。
しかも二人は男性Ωの双子だという。
それを聞いた時、正直橙は、なんだそりゃ、と思った。
そりゃΩなら男女の別無く子供は産める。でも、何故わざわざ男のΩなんだ、と。
橙だってゆくゆくはβよりはΩの番が欲しいとは思っている。今時Ωの伴侶を得られるのは、富裕層の中ですらごく一部だという事も知ってはいるが、願望を持つのは自由だ。けれど、そんなチャンスに恵まれたとしても、橙は女性Ωの方が良い。
自分と同じ物をぶら下げた男なんて抱きたくない。
そこそこのランクでしかない葉月家の自分とは違い、青秋ならばΩとの縁を持てるチャンスもそれなりにあるだろうに、何故わざわざ男を選ぼうとするのだろうか。
しかも双子。男の双子だなんて。
橙が知らないだけで、青秋にはそういう特殊な趣味でもあったのだろうか、と訝しんだ。
『双子と言っても二卵生でね。お兄ちゃんの方はびっくりするくらい綺麗だわ。私でも、もう少し若い頃に出会ってたらって思ったくらい。』
「…え、そんなに?子供産ませたくなるくらい?」
『そうね。Ωってあまり見た事無かったけど、男性でもあんなに綺麗な子がいるのねえ…。』
「…へえ。そんなに…。」
橙は何故だか少しモヤッとした。
『まあでも、高城の家ですら長子でなきゃΩとのお見合いは出来ないものね。私にはどだい回っちゃこなかったけど。』
スマホの向こうで、母はそう言って溜息を吐いていた。
「ふーん…。」
『弟君の方は…まあ、普通ね。背が高くて、…そうねえ、あんたとそう変わらないかしら?
あんまり体つきが良いから、最初はβと間違えてるのかと思ったわ。』
「え、そんな奴がΩなのかよ。」
橙は驚いた。それ程に母の口から語られる婚約者候補の兄弟の様子は、橙の中に植え付けられているΩに対するイメージを覆してきたのだ。
『ちゃんと検査済みだもの。
でも、かなり頭の出来は良いって話よ。』
「…へー、そうなんだ…。」
それぞれに違う特徴を持つ兄弟らしい。
だから青秋は決められなかったという事だろうか?だから兄弟一緒に?
しかし綺麗な方ならともかく、自分とそう体格の変わらない男迄も候補にしたという青秋に、橙はモヤモヤが止まらなくなった。
しかも、橙が留学に出ている間にそんな事になっているなんてどういう事だと面白くない。
母との通話を切って、直ぐにLIMEをチェックしたが、やはり青秋のページは一週間前と変わらず、橙が送ったスタンプを最後に止まっている。
青秋からは何も来ていない。
学業そっちのけで遊びにかまけて青秋を忘れていた自分が言えた事でもないけれど、青秋も随分薄情じゃないのか。
自分の番になるかもしれない相手達のご機嫌取りで忙しいのだろうか。
αはΩに選んでもらわなければ番が結べない。その為にせいぜい心象を良くしなければならないと聞いた。
でも、青秋程のαでも、そうなのだろうか…?
自分を可愛がり、構い倒してくれていた青秋が、他の誰かの機嫌を伺う。
これからはずっとそうなるのかもしれない。番になったら、それこそ他の人間なんか目に入らないくらいになるらしいと聞くじゃないか…。
(…俺の事も?)
あの青秋が、番を持ち、子供を持ち、家庭を持ったら、本当の弟でもない、高城家の人間でもない、只の従弟の自分なんか、今迄のようには…。
(帰ろう、日本に。)
何だか凄く、モヤモヤする。
せめて大好きな従兄の兄を奪っていくかもしれない相手の顔くらい、拝んでやらなきゃ気が済まない。
橙は不機嫌な顔でスマホを操作して航空チケットの空きを確認した。自分で手配したのは、ホテルのコンシェルジュに頼みに行くのが躊躇われたのは、何故か橙の行動が、母に筒抜けだったからだ。
そうして翌朝、橙は日本に帰国する為に朝早くホテルを出て、空港行きのタクシーに乗り込んだ。
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