8 / 22
つきあうって事は、つまり恋人って事で…(弓月)
しおりを挟む夢のようだ。
つい先刻迄、忠相さんと一緒にいた。
思ってもみなかった話の流れに、この機を逃すまじと勢いで告白した。
そして、つき合う事になった。
電話番号もLIMEも交換した。
『何時でも…連絡して。』
別れ際、目元が微笑んでいた。
シュッとした少し鋭くも見える目が柔らかく細まって、普段は冷たそうな表情が途端に優しくなる。
本質は優しくて温かい人なんだろうな。そういうギャップも好きだ。
俺は終始夢見心地で心がポーッとホワホワしちゃって、幸せってすごい…って今に至る迄語彙力マイナスのままだ。
そして、頬を紅潮させていたからか忠相さんからは
とっても良い匂いがした。
これは危ないかなあ、と遠慮する忠相さんを家の近く迄送ってきた。
忠相さんの家はあの喫茶店の二階だった。三階は賃貸で貸してて、一階奥はお祖父さん…あのカウンターの中に何時もいるマスターが住んでるらしい。
なるほど、雇われというより家業…。
「古い店だから、じいちゃん引退したら続けるかはわかんないですけど…。
出来れば、やりたいんですけどね。愛着あるし。」
「良いお店ですしね。静かで、少しレトロで。」
そうなんだ。
古い古いといってるけど、クラシカルで雰囲気は良い店なんだ。
置いてある調度品だって飾ってあるものだって、綺麗に磨かれている。
黒い台座部分にだって何時見ても埃ひとつ無い。
これって相当時間毎に点検してなきゃなかなか難しい事なんじゃないかと思う。
将来的に忠相さんが継いでマスターになったら、キッチンとカウンターや外観に少し手を入れてみても良いかも…。
番になって結婚しても、忠相さんがこのまま此処に住みたいなら、一度建物全体も補修して…
そこ迄考えて、手で口を押さえる。
お、俺…早くも番になった前提で、そんな事迄考えて…。
未だやっと始まったばかりだってのに。
でもでも、もう俺達…
付き合ってるんだ。
忠相さんは俺の、恋人、なんだ…。
歩道の真ん中で一人赤面する。
のぼせ上がった俺の頭を冷やすように 夜半近い暗い空からは白い雪が舞い散り出した。
俺はスマホの画面に表示された忠相さんのLIMEの画面を眺め、先刻握った両手の体温とほんのりと鼻をくすぐっていた匂いを思い出し、今夜は眠れそうにないなと思った。
忠相さんちの喫茶店から、俺の住むマンション迄は実は徒歩20分程度。
チャリならもっと早い。
大学進学と同時に、大学から3駅のマンションに引越してから、時折周辺情報を頭に入れる為に散策していた成果が 忠相さんちの喫茶店なのだ。
建物とビルの間の路地を入った場所にあるから、ゆっくり歩かないと気がつかないような小さな古い喫茶店。
でも俺はその店の雰囲気がとても好きだ。
忠相さんを送った後、その20分の道程を 浮かれながら部屋に帰りついて間もなくLIMEの着信音が鳴った。
送ってくれてありがとう、というものと、これからよろしく、という簡潔な文。
その後に、
ーー嬉しかった。俺も斗和くんの事、気になってましたーー
という、まさかのデレが入ってて、俺は悶えた。
そして案の定、それをオカズに3回抜いた。
翌日、俺の どういたしましてという返信に対して来ていた忠相さんの返信が、
ーー朝起きたら雪積もってた(^_^)ーー
という文と、店の外に積もった雪で作った小さい兎と雪だるまと一緒に自撮りした写真が添付されていたので、それで更に2回抜いた。
日頃自慰なんか殆どしない俺をこんなにしちゃう忠相さんは罪な人だ。
今日は土曜。
何時も土曜日は一日中 部屋で過ごす日って決めてるけど、とりま今日は忠相さんの店に出かけよう。
それで、ツーショットも撮らせてもらうんだ。
俺はそう決めて、取り敢えず溜めていた3日分の洗濯物をドラム洗濯機に放り込み、掃除機をかけた。
寮でもこなしてた事だから、何時結婚しても家事分担は任せて欲しい。
そして、午後になってから軽くシャワーをして、忠相さんに会う為に部屋を出た。
大っぴらに会いに行けるって、幸せ。
恋人最高。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
646
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる