αの共喰いを高みの見物してきた男子校の姫だった俺(α)がイケメン番(Ω)を得るまで。

Q矢(Q.➽)

文字の大きさ
15 / 22

香原 襲来 (弓月)

しおりを挟む



近所のスーパーで白菜と豆腐と、入れたい具材やゆずポン酢、缶チューハイを数本買った。
普通の買い物だけでこんなに楽しいなんて、恋ってすごい。

忠相さんは本当は蟹より海老の方が好きらしい。
だから今日は海老も入れちゃうらしい。はい可愛い。

あと、酒は実はそんなに強くなくて、缶チューハイなら一本で酔ってしまうと聞いたので楽しみだ。

「だから普段はあんまり飲まないよ。人前で酔うと恥ずかしいからさ。
今夜は特別。」

それってつまり、俺の前では酔っても良いって思ってくれてるんだよな。嬉しい。気を許してくれてるのか。

「酔っちゃっても良いですよ。俺がちゃんと介抱しますんで。」

「あはは、じゃあ2階の部屋に寝かすとこ迄頼むね。」

「任せてください。」

そんな事を話しながら歩いて、もう忠相さんの店のある路地の手前迄来た時だった。


「斗和。」


後ろから俺の名を呼ぶ、低く響く甘い声。
とても耳馴染みのある…。

 
振り向くと同時に抱きしめられた。
良く知る匂いに全身が包まれる。


「央…?」

「会いたかった…斗和。」


それは学園で、ほんの一時期を除いた3年間、俺の親友だった香原 央だった。

勿論、α。

俺が知る同年代の中ではおそらく最高のαだ。
だから俺も一時期此奴と付き合ってて、まぁ…好きだったと言えば、好きだった。
傲慢に見えて優しいし、財閥の御曹司の割りには気遣い屋だし。それに、何たって顔と体がピカイチだった。
入学して直ぐ仲良くなって、その内付き合い出して、順調にいってたのに急に別れを切り出された。
理由は深く追求しなかったけど、…ま、立場上、色々あるやつが多いからな、αは。

実を言うと、少しホッとしたというのもある。
あの頃は、マジな恋愛より遊びたかったってのもあって、逆に良かったな、なんて思ったり。

それに、央は 別れたからと言って冷たくなったりはせず、相変わらず頼れる親友ポジだったし、俺達の関係が悪化する事は無かった。
俺は在学中随分助けられたし、今でも時々連絡は来ていたのだが、お互い多忙にかまけて わざわざ会おうと迄は思わなかった。

それが、何故、何の前触れも無く此処に?

きつく抱き締められて苦しい。


「央、痛い。」

そう言うと央は、ハッとした

「すまない、つい。」

「ん、良いから離して。」

央は申し訳なさそうに体を離して、少し頭を下げた。

忠相さんの前で、お前~。

横を見ると、忠相さんは少し困惑したように俺達を見ている。
いかん。あらぬ誤解を与えてしまう。
俺は慌てて央を指して言った。

「忠相さん、此奴、高校の頃の友達。」

紹介された央は忠相さんを見て、一瞬目を見開いた。それから礼儀正しく、

「香原 央です。よろしくお願いします。」

と挨拶した。

「笠井 忠相です。よろしくお願いします。」

忠相さんがエコバッグを左に持ち直して右手を央に差し出すと、央はその手を握った。

一瞬2人が視線を交わし、チリッと何かが弾けたような。

しまった。
央の匂いは他αより強い。忠相さんはαである俺達より強く感知するんだった。

当てられたかもしれない。

忠相さんが少しよろけたのを、俺がすかさず支える。


「大丈夫ですか?」

「うん、平気…ありがとう。」

忠相さんの息が少し上がっている。
不味いかもしれない。
先に家に入ってもらう方が良いだろうか。

そう思ってたら、背後から央の声が飛んできた。


「…本当にΩなんだな。」

先刻迄とは違う、ヒヤリとするような冷たい声。

本当に、って 何だ?


忠相さんの事を、俺は未だ、知人友人の誰一人にも話してはいない。

ましてや、デリケートなバース性の事なんて。

それに、何故 この場所を知ってる?

俺は忠相さんを背に庇って央を見据えた。

「央。お前、何しに来た?
何でこの人の事を知ってる?」

央はじっと俺と忠相さんを見比べながら言った。

「本当に付き合ってるのか。」

「見てわからないか?」

「未だ噛んでないんだろう。」

「大切だからだ。」

「大切、ね。…確かにお前が好きそうな顔と体だな。Ωらしくはないが。」

「下衆な言い方やめろよ。忠相さんにそんな言い方すんな。」


出会ってからこっち、央がこんな下卑た物言いをするのを見た事は無い。

どうしたって言うんだ、此奴は。



「斗和。

俺はお前に復縁を申し込みに来た。

もう一度、俺と付きあえ。」


うん、先刻のはともかく、この傲慢な上からの物言いには既視感があるな。
だが、

「断る。」


何の連絡も無く来て、何を言い出すかと思えば…。


「ソイツはお前を満足させてくれるのか?」

「…下品な言い方はよせ。
お前らしくない、央。」

「だって、お前はαが大好きじゃないか。」

「……いい加減、黙れ香原。」


俺が名字を呼んだ瞬間、央の表情が強張った。
俺を怒らせたのがわかったんだろう。


忠相さんが往来で不味いと思ったのか、袖を引っ張ってコソッと耳打ちしてくる。

「此処ではなんだからウチの店にでも入ってもらう?」


見れば、チラチラと此方を見ている通行人。
忠相さんは此処に住んでるんだし、あまり大事にしたら周辺に変な噂が立っても困る。

俺は舌打ちしたい気分で央に向き直った。

央は。


央は、傷ついたような顔で、唇を噛み締めていた。

何でお前がそんな顔をしてるんだよ。




「……帰る。」


央はそう言って、踵を返し歩き出し 少し先に待たせていたらしい車の後部座席に乗り込んだ。

けれど、ドアが閉まる直前迄見えていた横顔は、もう何時もの央に戻っていた。


何だったんだ…。


俺と忠相さんは去って行く車を見送り、顔を見合わせた。

忠相さんに嫌な思いをさせてしまった。

不味い事も、聞かれてしまった。

少し、俺がしてきた事を話さなきゃならないだろうか。
幻滅されるかな。


忠相さんに肩を貸して支えながら歩く俺は、どんな顔をしていたんだろう。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

事故つがいΩとうなじを噛み続けるαの話。

叶崎みお
BL
噛んでも意味がないのに──。 雪弥はΩだが、ヒート事故によってフェロモンが上手く機能しておらず、発情期もなければ大好きな恋人のαとつがいにもなれない。欠陥品の自分では恋人にふさわしくないのでは、と思い悩むが恋人と別れることもできなくて── Ωを長年一途に想い続けている年下α × ヒート事故によりフェロモンが上手く機能していないΩの話です。 受けにはヒート事故で一度だけ攻め以外と関係を持った過去があります。(その時の記憶は曖昧で、詳しい描写はありませんが念のため) じれじれのち、いつもの通りハピエンです。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。よろしくお願いします。 こちらの作品は他サイト様にも投稿しております。

断られるのが確定してるのに、ずっと好きだった相手と見合いすることになったΩの話。

叶崎みお
BL
ΩらしくないΩは、Ωが苦手なハイスペックαに恋をした。初めて恋をした相手と見合いをすることになり浮かれるΩだったが、αは見合いを断りたい様子で──。 オメガバース設定の話ですが、作中ではヒートしてません。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

平穏なβ人生の終わりの始まりについて(完結)

ビスケット
BL
アルファ、ベータ、オメガの三つの性が存在するこの世界では、αこそがヒエラルキーの頂点に立つ。オメガは生まれついて庇護欲を誘う儚げな美しさの容姿と、αと番うという性質を持つ特権的な存在であった。そんな世界で、その他大勢といった雑なくくりの存在、ベータ。 希少な彼らと違って、取り立ててドラマチックなことも起きず、普通に出会い恋をして平々凡々な人生を送る。希少な者と、そうでない者、彼らの間には目に見えない壁が存在し、交わらないまま世界は回っていく。 そんな世界に生を受け、平凡上等を胸に普通に生きてきたβの男、山岸守28歳。淡々と努力を重ね、それなりに高スペックになりながらも、地味に埋もれるのはβの宿命と割り切っている。 しかしそんな男の日常が脆くも崩れようとしていた・・・

変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加
BL
 変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。  男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。  もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。  奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。  だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。  ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。  それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。    当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。  抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?                

胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。 ◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。 ◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

処理中です...