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服部は息を飲んだ。あの頑健で、執念深くて、何があっても死ななそうな深谷の祖父が、まさか……と。
言葉に詰まった服部に母が語ったのは、思いもよらない話だった。
――深谷の他の分家に、SSランク以上のαが出た――
しかも聞けば、それはその分家の次男で、まだ中学生。年齢からして、服部が深谷一族から籍を抜かれた後に生まれた子どものようだ。よって服部とは面識も無い。
通常バース性が確定するのは、成長ホルモンが安定してくる十八歳だと言われている。だからこそ最終判定検査は高校卒業前に設定されており、多くの人々はその時期に自らの第二性を知る事になる。
だが時に、それ以前の段階で覚醒する者が居る。そしてそんな者達は、総じてSSクラス以上の能力を持つ逸材だとは、誰もが知る暗黙の了解だった。
そんなαが、突如として一族内に現れたのだ。しかも、全くノーマークだったところから……。
直ちに一族が招集され、親族会議が行われた。その結果、ほぼ満場一致でその次男が後継者に決まり、本家に養子に入る事になったという。親族の大多数を相手に異を唱える事も出来ず、服部を使って本家乗っ取りを目論んでいた深谷の祖父の野望は潰えたかに思われた。
しかし、深谷の祖父はまだ諦めがつかなかったようだ。
中学生が後継者の地位に付いた事で、野望が再燃したのだろうか。またしても母に接触して、いい加減に隠している服部を連れて来いと、暫く止んでいた催促が再び始まった。SSクラス以上と言えど、まだ中学生。年齢では服部に分があるかもとでも考えたのだろう。
しかしその数日後、若い愛人宅で癇癪を起こした際に、持病の発作を起こし病院に救急搬送され、意識の戻らないまま亡くなったそうだ。
そんな母の話を、服部は呆然としながら聞いた。
服部と母を貶め、苦しめ、追い詰めてきた、傲慢な深谷の祖父。服部の父は優しい人だった。そんな父と親子だなんてとても信じられないような、悪辣な祖父だった。そんな人間の去り際にしては、あまりにもあっさりとしていて……服部は複雑な気分になった。一応は血の繋がった祖父の死だというのに、少しも悲しい気持ちが湧いてこない。けれど、生まれてこのかた深谷の祖父母から受けてきた仕打ちを思えば、悲しめない自分を冷たい人間だとは思えなかった。
これで、我欲のために服部の未来を搾取しようとする者は消えた。それが服部の、正直な気持ちだった。
自由になった服部は、すぐに親友・静也に連絡を取りたいと考えた。だが服部のスマホは、日本の服部の祖父の元にある。手元にあると自制心が負けるのではと案じた服部の祖父に、電源を切った後に預かられてしまったからだった。
服部は深谷の祖父に連絡をして、スマホの起動を試みてもらう事にした。暫く充電器に挿した後に電源を入れてもらうと、幸い正常に起動してくれたらしい。契約はとうに切ったと母に聞いていたが、壊れずにいてくれたのはラッキーだと思った。
祖父に指示をして、電話帳から静也の名前と電話番号を探してもらい、書き留めた。メッセージのやり取りや通話はアプリを使っていて、番号を気にしたことがなかったのが悔やまれる。せめて写真クラウドの共有が出来ればと思ったが、服部の祖父の家にはWiFiが無い。
仕方なく服部は、またスマホの電源を落としての保管を祖父に頼んだ。次に帰国する時までにまだ本体が無事であるようにと願って。
とりあえず番号さえわかれば……運が良ければ、静也が使っているSNSやメッセージアプリなんかがヒットするかもしれない――
服部は心臓を高鳴らせながら、国際電話のルールに則って静也の番号をスマホに打ち込んだ。突然の別れから、もう四年以上が経つ。久しぶりに親友の声が聴けると思うと、期待に胸が躍った。
しかし流れてきたのは、静也の声ではなく、番号が使われていない事を知らせる無機質なメッセージ。何度も掛け直してみたが、それは変わらなかった。
もしや、何も言わずに連絡を断った事で、腹を立ててブロックされたのだろうか。それとも、詐欺などの迷惑電話を警戒して、知らない番号はブロックを?
そんな事を思い巡らせていた服部は、ふとある可能性に気付く。
(まさか静也も、解約……)
そこに思い至った服部の全身から、血の気が引いた。
言葉に詰まった服部に母が語ったのは、思いもよらない話だった。
――深谷の他の分家に、SSランク以上のαが出た――
しかも聞けば、それはその分家の次男で、まだ中学生。年齢からして、服部が深谷一族から籍を抜かれた後に生まれた子どものようだ。よって服部とは面識も無い。
通常バース性が確定するのは、成長ホルモンが安定してくる十八歳だと言われている。だからこそ最終判定検査は高校卒業前に設定されており、多くの人々はその時期に自らの第二性を知る事になる。
だが時に、それ以前の段階で覚醒する者が居る。そしてそんな者達は、総じてSSクラス以上の能力を持つ逸材だとは、誰もが知る暗黙の了解だった。
そんなαが、突如として一族内に現れたのだ。しかも、全くノーマークだったところから……。
直ちに一族が招集され、親族会議が行われた。その結果、ほぼ満場一致でその次男が後継者に決まり、本家に養子に入る事になったという。親族の大多数を相手に異を唱える事も出来ず、服部を使って本家乗っ取りを目論んでいた深谷の祖父の野望は潰えたかに思われた。
しかし、深谷の祖父はまだ諦めがつかなかったようだ。
中学生が後継者の地位に付いた事で、野望が再燃したのだろうか。またしても母に接触して、いい加減に隠している服部を連れて来いと、暫く止んでいた催促が再び始まった。SSクラス以上と言えど、まだ中学生。年齢では服部に分があるかもとでも考えたのだろう。
しかしその数日後、若い愛人宅で癇癪を起こした際に、持病の発作を起こし病院に救急搬送され、意識の戻らないまま亡くなったそうだ。
そんな母の話を、服部は呆然としながら聞いた。
服部と母を貶め、苦しめ、追い詰めてきた、傲慢な深谷の祖父。服部の父は優しい人だった。そんな父と親子だなんてとても信じられないような、悪辣な祖父だった。そんな人間の去り際にしては、あまりにもあっさりとしていて……服部は複雑な気分になった。一応は血の繋がった祖父の死だというのに、少しも悲しい気持ちが湧いてこない。けれど、生まれてこのかた深谷の祖父母から受けてきた仕打ちを思えば、悲しめない自分を冷たい人間だとは思えなかった。
これで、我欲のために服部の未来を搾取しようとする者は消えた。それが服部の、正直な気持ちだった。
自由になった服部は、すぐに親友・静也に連絡を取りたいと考えた。だが服部のスマホは、日本の服部の祖父の元にある。手元にあると自制心が負けるのではと案じた服部の祖父に、電源を切った後に預かられてしまったからだった。
服部は深谷の祖父に連絡をして、スマホの起動を試みてもらう事にした。暫く充電器に挿した後に電源を入れてもらうと、幸い正常に起動してくれたらしい。契約はとうに切ったと母に聞いていたが、壊れずにいてくれたのはラッキーだと思った。
祖父に指示をして、電話帳から静也の名前と電話番号を探してもらい、書き留めた。メッセージのやり取りや通話はアプリを使っていて、番号を気にしたことがなかったのが悔やまれる。せめて写真クラウドの共有が出来ればと思ったが、服部の祖父の家にはWiFiが無い。
仕方なく服部は、またスマホの電源を落としての保管を祖父に頼んだ。次に帰国する時までにまだ本体が無事であるようにと願って。
とりあえず番号さえわかれば……運が良ければ、静也が使っているSNSやメッセージアプリなんかがヒットするかもしれない――
服部は心臓を高鳴らせながら、国際電話のルールに則って静也の番号をスマホに打ち込んだ。突然の別れから、もう四年以上が経つ。久しぶりに親友の声が聴けると思うと、期待に胸が躍った。
しかし流れてきたのは、静也の声ではなく、番号が使われていない事を知らせる無機質なメッセージ。何度も掛け直してみたが、それは変わらなかった。
もしや、何も言わずに連絡を断った事で、腹を立ててブロックされたのだろうか。それとも、詐欺などの迷惑電話を警戒して、知らない番号はブロックを?
そんな事を思い巡らせていた服部は、ふとある可能性に気付く。
(まさか静也も、解約……)
そこに思い至った服部の全身から、血の気が引いた。
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