他人の番を欲しがるな

Q矢(Q.➽)

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3 新居は静かな場所が良い

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土曜日。

朝ホテルをチェックアウトして、高畑に紹介された不動産屋に向かった。
会社からは1駅だったが、宿泊していたホテルからは2駅だ。

結局会社近辺になってしまうかもなぁ…。ま、仕方ないか。

不動産屋は大手の支店などではなく、地域に根ざした小さな街の不動産屋、という感じの店だったが、外観も内装も小綺麗で洒落ていた。
社長が未だ40代のようで、社員はそれより若い数人。
それだけにアフターフォローもしっかり頑張っているようで、ネットの口コミを見ても評判は良かった。
社員の1人、樋口という社員が高畑の同級生らしい。
これまた高畑の友人らしい雰囲気の穏やかな、ごく普通の青年だった。

あまりに多くても面倒だから、即入居可の物件を3件に候補を絞り込んで内見に回った。
駅前の景色の良い所、周辺環境が便利な所、閑静な住宅街。
結局、閑静な所に落ち着いてしまった。
数日前迄住んでいた元恋人のマンションが、結構賑やかな車道沿いにあったから、やっぱり今度は静かで緑のある場所にしようと思った。

だから、高台で、周辺を一軒家に囲まれたその三階建ての、少し古いけれど十分瀟洒なマンションは、丁度良く思えた。

部屋は2階。日当たりも良くて、窓からの眺望もなかなかのもの。室内は一昨年リノベーション済みで、水回りも未だ新しい。
一人暮らしだから1LDKで十分だ、と俺は3件目で決めた。
駅から10分圏内でこれならまあ、良い。   



即入居は良いが、考えてみれば寝具が無いなと、家具量販店へ行った。
ベッドも寝具もソファも在庫ありのものを選んだが、本日中の配送は出来ず、最短でも明日になると聞いて、悩む。
それでも繁忙期ではないから早いのだと言われてしまえば、妥協するしかない。
1式明日迄に、と頼んでから最小限の生活必需品を買いに回った。

家電量販店でも明日配送と言われ、まあそうだよな、とレンジと洗濯機、掃除機諸々を手配した。

考えてみれば、一人暮らしが久々で、自分だけの為にこれだけ買い揃えるのも大学進学時以来だ。
度々恋人の部屋に留められて半同棲状態になり、それでも学生の内は部屋は解約しなかった。
それは正解だったようで、大学生活の間、数回元恋人達との愁嘆場を演じる度に、帰る場所があって良かった、と思ったものだ。
社会に出てからもそこを2年は確保していたのに、ある恋人と結婚の話が出た時に、恋人に言われて解約してしまった。その時の恋人は、とても執着心の強い人だったから、俺も今度は大丈夫かな、と油断して部屋を引き払い、彼の家に移り住んでしまったのだ。
今思えば、彼は俺の退路を断つ事で、俺を独占したつもりでいたんだろうと思う。
独占して、満足して、そして俺の友人と…。
退路を断てば、俺が浮気も許すと思ったんだろうか。

濡れ場を見て、俺が荷物を詰めて黙って部屋を出た後、2人が半狂乱で俺を探し回っていると他の友人伝てに聞かされて、何とも言えない気分になった。
挙句、会社帰りを待ち伏せされて、まあそうだよな、と近くのカフェで話をする羽目になった。

2人とは縁を断ちたい、と告げると、大体は拒否される。
泣かれるし、怒鳴られる事もあるし、最後は泣き落としで縋られる。
けれど、俺の意思が変わる事は、今迄一度も無かった。

何故、恋人も友人達も、いざバレるとそんなにも取り乱すのだろうか。

俺は薄情な人間かもしれないが、平気で愛や友情を踏み躙れる連中だってだいぶイカれてると思う。
何故せめて先に別れてからにしてくれない、と毎回思う。
そんなに俺は傷つけて楽しい人間なんだろうか。

『浮気をされたと知った瞬間から、お前らは俺の過去だよ。戻る可能性は1%も期待しないでくれ。』

俺も大概面倒なので、埒があかないと思ったら、毎回そう言って席を立つ。

そうすると、彼らは観念するのか、立ち去る俺を無言で見送ってくれる。

少なくとも恋人達の方は、諦める。
問題は友人達の方で、何故だかその後も接触して来ようとする人間もいる。
中には俺が油断した隙に、エレベーターに乗り込まれ2人きりになってしまった事もある。
中で壁に押し付けられて、キスされた時には とうとう気でも狂ったのかと思った。

お前が欲しかっただけなんだと言われても、友人達は大概αかβだし、何をとち狂っているんだろうと困惑するばかりだった。
君には恋人だった人がいるだろう、と言うと、違う違うと抱き締められて、本当に気持ちが悪かった。


『穢い手で俺に触らないでくれないか。』


少し困った微笑みを見せると、一瞬で体を強張らせ、離れてくれる。

今更、裏切った友人からの拒否に傷つくくらいなら、最初からやらなければ良いのに、彼らは何時も本当に不可解だ。


そんな黒歴史を回想しながら、俺は新居に帰ってきて荷物を置いた。

一応、除菌シートであちこちを拭いてから、買ってきた食器類を洗った。
ハウスクリーニングが済んでいても、細かい埃なんかは結構あるから床もワイパーで拭いておく。
窓を開け放って、一通り清掃を済ませたら、もう夕陽が射していた。

一応整えはしたが、家具も家電も明日にしか搬入されない。

「…これじゃ、寝られないしなあ。」

もう1日ホテルを、と思ったが、土曜だよなと思い留まる。探せばあるかもしれないが、割高になるし、大きな出費をしたからそれには戸惑いがある。

近くに泊めてくれそうな友人がいたかな、と頭の中に思い浮かべた数人の中に、腐れ縁の悪友がいたのでスマホを繰る。


「佐田、今夜だけ宿貸してくれ。」

電話の向こうで、一瞬にも満たない躊躇。


『またか。まあ良いよ。』


久しぶりに聞いた悪友の声は、相変わらずぶっきらぼうだが俺を突き放さない優しい声色だった。







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