他人の番を欲しがるな

Q矢(Q.➽)

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4 付かず離れずの友人

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若いのに少し世捨て人っぽい風体。まるで修行僧かキリストのような静謐な瞳。


佐田慶一は俺の大学2年の頃からの友人の一人だった。

出会いは当時の彼女との待ち合わせ迄の時間潰しに入ったカフェ。
佐田はそこでバイト中の店員で、レジでの支払いが終わって席についた時に声を掛けられた。
絵のモデルを探しているが、イメージに合う人がいなかったのだと、連絡先を渡された。俺の骨格が理想なのでつい声をかけたのだと言われた。
俺を綺麗だと言う佐田だって、それなりに精悍な男っぽい顔立ちをしていたから、鏡を見ながら自分をモデルにしたら良いのに、と俺は思った。
必死な眼をしている癖に、連絡先を教えてくれ、ではなく連絡をくれ、と言われたのが何となく気に入った。
相手に選択肢を与えるなんて、随分押しの弱いスカウトだ、と俺は笑った。

その時の佐田の風体と言えば、少し伸びた癖毛を後ろで纏めていて、普通ならとてもカフェ店員には向かないように思ったが、佐田にはそんな風にしていても何処か清潔感が漂っていた。
ぶっきらぼうな話し方もカフェ店員には向かないと思うのに、何故だか品の良さも感じる、そんな不思議な雰囲気の男だった。
もっと怪しんでもおかしくなかったのに、俺はそんな佐田を面白い奴だと思ってしまった。
それからその場で佐田のスマホを鳴らして、そこからの友人付き合いだ。
佐田は何時も、高い背を少し猫背気味にして俺の顔を覗き込むように話した。

『美人は3日で飽きるって聞いてたのに、お前の顔は全然、飽きない。』

口癖のようにそう言って、じっと俺の表情や体のあちこちをつぶさに観察しているようだった。



佐田は一浪して美大に入った美大生だった。






「佐田~、来た~。」


佐田のアパートは新居から4駅。近いと言えば近い。

俺は途中で寄って買ってきたビールと焼き鳥を覗き窓から見えるように持ち上げた。

程無くドアが開いて、佐田が顔を出した。


「どうせ開いてんだから何時もみたいに勝手に入れば。」

「出来るならそうしてるわ。両手塞がってんの。」

「…だからチャイムじゃなかったのかよ。」

佐田は俺の両手にある袋を見て、ビールの入った袋を受け取り、中を見て俺の頭を軽く小突いた。

「2人しかいねーのに買い過ぎ。」

と、呆れたように言う。

500mlを8缶、焼き鳥3箱。

まあ、そうだな。
でも割高ホテルに泊まる事を考えたら、こんなもの。

「どうせ飲むだろ。」

「飲む方はな。問題はその鳥。2人ぽっちでどんだけ食うん。」

佐田に促されて玄関を入る。
靴を脱ぎ框を上がると、奥の部屋から、佐田の部屋の匂いがした。以前からずっと変わらない、佐田だけの匂いと、未だ僅かに残る油絵具の匂い。
大学卒業と同時に佐田は絵を辞めて、広告デザイン会社に入社した。
元々、美大へ進むのは反対されていて、絵も学生の間だけと決めていたらしかった。

それにしたって、あれだけ散らかっていた画材達が、卒業を境に全て捨てられて 残ったのは数枚の絵だけという事に、当時の俺はかなり驚いたものだった。

『一番描きたいものの美しさが、俺の腕じゃどうしても無理みたいだから、もう良いんだ。』

と答えられて、なんじゃそらと思ったけれど、佐田の中で決めた事なら俺が何を言っても仕方無いんだろう。


佐田はβで、付かず離れず色恋抜きで付き合える、俺の周辺では珍しいタイプの友人だった。
近づき過ぎると、佐田は意図して距離を取っているように感じたし、それは俺も同じだったかもしれない。

一緒に居て気負わなくても良いラクな相手。

たまに会って、飲みながら近況報告をし合って、取り留めない話をして、下らない映画でも見て笑って、そうしたら辛かった事もリセット出来て、また何時もの生活に戻って行ける。

佐田は俺にとって、精神安定剤みたいなものだ。

だから、失くす訳にはいかない。
だから、近づき過ぎてはいけない。

俺を見つめる瞳の優しさも、時折何かの拍子に触れる肩も、意識してはいけない。


俺達は当たり障りのない友人のままがいい。


俺はαで、佐田はβ。



どう転んだって、番にはなれない。




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