5 / 15
5 接触してくる意図がわからない
しおりを挟む夜中迄飲んで、翌日は昼前には新居に戻った。
午後にはベッドや家電が搬入される予定だったからだ。
佐田も手伝いに着いてきてくれて、未だ何も無い新居の初めての客になった。
15時過ぎには全ての家電の設置が終わって、業者が帰ってからもう一度全部を除菌シートで拭き、2人で床を掃除し直してラグを敷いていたら今度はタイミング良くベッドとソファが来た。
夕方迄には片付いて、食料の買い出しに出て、ようやく今夜は人並みの部屋で寝られると思いながら、引越しそばと買って来た惣菜の天ぷらで簡単な食事にして2人で食べた。
食事が済むと明日は仕事だからと佐田は帰って行き、それを駅迄見送った後、帰宅してざっくり掃除したバスルームで初風呂に入った。
水周りはリフォームして2年足らずだと言うだけあって、風呂場も綺麗で広い。
温泉の素の錠剤を湯船に入れたので、湯は白濁している。
ゆっくり浸かっていると、ここ数日の疲れが湯に溶け流れ出して、ささくれだった心が癒されていくような気がした。
思い出したくもない光景は、何時もふとした瞬間に脳裏に浮かんで俺を苦しめる。
気持ちはどんどん固く冷たく、すり減って小さくなっていくのに、切り捨てる事だけは上手くなって。
特に今回と前回の元恋人達は、年齢的にもそろそろかな、と真剣に番を考えた相手だったし、これ迄の相手達とは少し違うと思っていたから、ダメージはことのほか大きかった。
数人の会社の同僚や後輩には会わせた事もあったし、本当に婚約というか、番秒読みかなと思っていた。
愛されていたと思うし、愛を返せていたとも思う。
可愛いと思っていた。
忙しくても、できる限り優先したし、大切にしていた筈だ。
それでも足りないなら、もう俺には手に負えない相手だったんだと思う。
好きでも愛しくても、他の男の体で善がる相手を、俺はこの先抱けはしないし、その場面を見れば一気に冷めるのは普通だ。
友人も、友人だ。
そんなに俺の恋人を好きなら、もっと早く言ってくれたら。
じわりと涙が出てくるのを、手のひらに湯を汲んで洗い流した。
切り替えよう。
あれはもう、終わった事だ。
佐田に酒に付き合ってもらって、話を聞いてもらって、この風呂でデトックスして、全部リセットしよう。
そして明日からはまた新しく始めれば良い。
出会いにはもう、当分期待はしないと決めた。
誰かと付き合うのも、暫くやめておこう。
いい加減面倒臭い。
「明日、高畑に礼言わなきゃな。」
言葉で礼より、何か珍しい食べ物でも差し出す方が良いかもしれない。
「昼飯でもご馳走するか…。」
決めた所で湯船から上がった。
新しいタオルは水を吸いにくくて、俺は少し不機嫌になった。
一回全部洗濯乾燥で回そうと決める。
朝迄には余裕で終わるだろう、と新品のバスタオルとフェイスタオルを新しい洗濯乾燥機に突っ込んで洗剤を入れてコースをセットした。
音は気にならないくらいに静かで、俺の安眠は邪魔される事はなかった。
翌日、新居から会社迄は、電車と徒歩込みで25分程度だった。
何時ものように出社して仕事して、昼飯食って仕事して、退社して。
俺の身に何が起きても日常は淡々と過ぎていく。
普通にしていれば、普通に生きていられる。
恋がなくても友情が無くても、番なんかいなくても。
新居で新生活を送り始めて数日。終業後に会社を出ると、駅に向かって歩き出した先にやはり仕事帰りらしいスーツ姿の友人が 人待ち顔で立っていた。
正確には、友人だった元友人だ。今回の元恋人の相手だった男で、俺は素通りした。
まさか、俺に用だとは思わなかったからだ。
後ろから手首を掴まれて振り返ると、思い詰めたような表情のその男が言った。
「頼む。少しで良い、話したい。」
俺は仕方なく、溜息を吐いて頷いた。
48
あなたにおすすめの小説
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
【BL】声にできない恋
のらねことすていぬ
BL
<年上アルファ×オメガ>
オメガの浅葱(あさぎ)は、アルファである樋沼(ひぬま)の番で共に暮らしている。だけどそれは決して彼に愛されているからではなくて、彼の前の恋人を忘れるために番ったのだ。だけど浅葱は樋沼を好きになってしまっていて……。不器用な両片想いのお話。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!
ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!?
「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??
《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる