他人の番を欲しがるな

Q矢(Q.➽)

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5 接触してくる意図がわからない

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夜中迄飲んで、翌日は昼前には新居に戻った。
午後にはベッドや家電が搬入される予定だったからだ。
佐田も手伝いに着いてきてくれて、未だ何も無い新居の初めての客になった。


15時過ぎには全ての家電の設置が終わって、業者が帰ってからもう一度全部を除菌シートで拭き、2人で床を掃除し直してラグを敷いていたら今度はタイミング良くベッドとソファが来た。

夕方迄には片付いて、食料の買い出しに出て、ようやく今夜は人並みの部屋で寝られると思いながら、引越しそばと買って来た惣菜の天ぷらで簡単な食事にして2人で食べた。
食事が済むと明日は仕事だからと佐田は帰って行き、それを駅迄見送った後、帰宅してざっくり掃除したバスルームで初風呂に入った。

水周りはリフォームして2年足らずだと言うだけあって、風呂場も綺麗で広い。

温泉の素の錠剤を湯船に入れたので、湯は白濁している。

ゆっくり浸かっていると、ここ数日の疲れが湯に溶け流れ出して、ささくれだった心が癒されていくような気がした。
思い出したくもない光景は、何時もふとした瞬間に脳裏に浮かんで俺を苦しめる。

気持ちはどんどん固く冷たく、すり減って小さくなっていくのに、切り捨てる事だけは上手くなって。

特に今回と前回の元恋人達は、年齢的にもそろそろかな、と真剣に番を考えた相手だったし、これ迄の相手達とは少し違うと思っていたから、ダメージはことのほか大きかった。
数人の会社の同僚や後輩には会わせた事もあったし、本当に婚約というか、番秒読みかなと思っていた。

愛されていたと思うし、愛を返せていたとも思う。
可愛いと思っていた。
忙しくても、できる限り優先したし、大切にしていた筈だ。
 
それでも足りないなら、もう俺には手に負えない相手だったんだと思う。

好きでも愛しくても、他の男の体で善がる相手を、俺はこの先抱けはしないし、その場面を見れば一気に冷めるのは普通だ。

友人も、友人だ。

そんなに俺の恋人を好きなら、もっと早く言ってくれたら。

じわりと涙が出てくるのを、手のひらに湯を汲んで洗い流した。

切り替えよう。
あれはもう、終わった事だ。
佐田に酒に付き合ってもらって、話を聞いてもらって、この風呂でデトックスして、全部リセットしよう。

そして明日からはまた新しく始めれば良い。

出会いにはもう、当分期待はしないと決めた。
誰かと付き合うのも、暫くやめておこう。
いい加減面倒臭い。


「明日、高畑に礼言わなきゃな。」

言葉で礼より、何か珍しい食べ物でも差し出す方が良いかもしれない。

「昼飯でもご馳走するか…。」

決めた所で湯船から上がった。

新しいタオルは水を吸いにくくて、俺は少し不機嫌になった。
一回全部洗濯乾燥で回そうと決める。
朝迄には余裕で終わるだろう、と新品のバスタオルとフェイスタオルを新しい洗濯乾燥機に突っ込んで洗剤を入れてコースをセットした。

音は気にならないくらいに静かで、俺の安眠は邪魔される事はなかった。







翌日、新居から会社迄は、電車と徒歩込みで25分程度だった。
何時ものように出社して仕事して、昼飯食って仕事して、退社して。
俺の身に何が起きても日常は淡々と過ぎていく。
普通にしていれば、普通に生きていられる。
恋がなくても友情が無くても、番なんかいなくても。



新居で新生活を送り始めて数日。終業後に会社を出ると、駅に向かって歩き出した先にやはり仕事帰りらしいスーツ姿の友人が 人待ち顔で立っていた。
正確には、友人だった元友人だ。今回の元恋人の相手だった男で、俺は素通りした。
まさか、俺に用だとは思わなかったからだ。

後ろから手首を掴まれて振り返ると、思い詰めたような表情のその男が言った。


「頼む。少しで良い、話したい。」


俺は仕方なく、溜息を吐いて頷いた。



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