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12 僥倖 (真田side)

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うやむやの内に流されて奪ってしまったとはいえ、曲がりなりにも体は手に入れた。後はじっくり心を手に入れるだけ。

そう思っていた。




週明け。

あの後、冷静さを取り戻した俺は、先輩を自分の伴侶として迎える足場固めに本腰を入れる為、じいさんと親父に掛け合う事を決めた。

大丈夫。

100%αを産み出せる後天性Ωは別格だ。
しかも、生まれながらのΩが、体があまり丈夫ではなく生涯に出産出来るのが一人、多くて二人といわれているのに対し、元がβの体力を持つ、しかも男性の後天性Ωとなれば、丈夫で体力もある。
その気になれば3人はαを産める可能性もあるだろう。
それに、後天性Ωが産むα達は、αの中でも総じて優れている場合が多いという。
そこが、αに対しての優位性を保てるとこらしいが。

とにかく、普通のα家系の者ならば、何を押しても家系に組み入れたいと思う存在の筈だ。

先輩がもう少しΩとして安定したら、正式に番の申し込みをする。最初は驚いて戸惑うだろうが、そこはαとΩだ。
しかも俺と先輩は匂い的にも頗る相性が良い。
きっと受け入れてくれる筈。


そう、増長していた。

先輩の様子がおかしい事には気づいていたが、本社との行き来が始まり、先輩を共に連れていく根回しに奔走しだしていた俺は、それを見過ごしてしまっていた。
今思えば、あの時こそ何らかのフォローが必要だったのだ。
根回しに少しばかり気を取られている間に 先輩は会社を辞めていた。

退職理由は健康上の理由、と、部長に聞かされた。

病気が発覚した、というより、やっと自分のバースを理解したという事だろうか。
それならまた別の形で傍に置けるな、と俺はほくそ笑んだ。
Ωとして本来あるべき形。

俺(α)が囲い込んでしまおう。


だがその後、俺は調べておいた先輩のマンションを訪ねて驚いた。
そこは既に無人。どういう事なんだろうか。

先輩はやっと自覚した自分のバース性に苦悩しその事実を持て余し、そこに親しい俺がαとして現れれば、俺に縋ってくるものとばかり…。

まさか、俺に何も告げずに引越すなんて。

上着のポケットからスマホを取り出し先輩に電話を掛けるが、それはもう繋がる事はなかった。

全てが絶たれた。

予想していなかった事態に俺は唇を噛んだ。
大家は何も聞いていないようだったし、社内にも連絡先を知る人間はいなかった。

当然、捜索を始めたが、何時も見えない壁のような何かに阻まれ、たどり着けない。

そこにΩ保護法が立ちはだかっているのは明白だった。
おそらく、先輩はΩとしての登録を行い、その身柄と個人情報は国家に可能な限り護られる事になったに違いなかった。

その証拠に、先輩を見つけたという報告も上がらない。


逃げられたのだ。


そこに至って俺はようやく、自分が先輩にそこ迄させてしまう程、計り知れない恐怖を与えたのだろうかと気づいた。
先輩が、自分を犯した犯人が俺だと気づいたのかはわからない。だが、被害に遭った場所の近くにずっと住み続けようとは思えなかったのは理解できなくもない。

でも俺だって、出来ればもう少し段階を踏みたかった。
あの夜先輩からあの匂いさえしなければ、余裕を持って口説き落とすつもりでいたのに。
俺が悪いのはわかっているが、俺だけが悪いんじゃない。Ωの匂いに惹かれるのはαの本能だ。
まして、それが憎からず思っている相手からのものなら尚更。
突如として襲ってくる、暴力的な迄の獣じみた欲。
可愛いΩを前にして、耐えられるαがどれだけいるだろうか。

身も蓋もない言い方をするが、所詮 αという生き物は至極自己中心的な生き物なのだ。



居なくなったからといって、俺は先輩を諦める気はなかった。
その内必ず見つかる筈だ。
国外にでも行かれていれば別だが、より良い治安を求めて引越したのだとするなら、国内にいると考えるべきだろうし…。

俺は本社に移り、着々と足場を築いていった。何時でも先輩を迎え入れられるよう、揺るぎない力を持つ為に。

その間にも親戚の伯母からはぼちぼちと見合い話は持ち込まれたが、やはり先輩以上の人間がいる訳も無く。
仕事以外は退屈な日々の繰り返しで、欲が溜まれば適当な人間を抱く。

そして、数年。

気晴らしにセフレの女の提案にのった。
俺は1ミリも興味の無い、女子供が好きそうなテーマパーク。
高校生の頃に当時のカノジョと一度行った程度の場所だ。
日々が退屈過ぎて、本当に只の気紛れで行ったその場所で、まさかの僥倖。


先輩がいた。


以前より幾分痩せて、髪を下ろしている。
唇の下の特徴的な色っぽい黒子も健在。
アレがいやらしくて、よく舐めたい衝動に駆られていたのを思い出した。

そして、先輩は1人ではなかった。

俺とほぼ同じような身長の、一目でαとわかる男と一緒にいて、最初は一瞬頭に血が上ったが 先輩からはソイツの匂いはしなかった。

どうやら "そういう関係" ではなさそうだ。
でも、相手のαの目付きや庇うような言動を見ればわかる。

目の前のこのαは敵だと。

近い将来、絶対に俺の不利益になる奴だ。
それに加えてソイツには見覚えがあった。
仕事関係だったろうか。


そんな事に気を取られていた俺は、先輩が一緒にいたのがその男だけでは無い事に気づくのが遅れた。
先輩は言った。


「あの子は俺の子だ。」



本当の事を言おうか。

わかっていた。
あれが、先輩の血をひく子供だという事は。

そして、俺の血が流れている事も。


何故ならその子供の顔が、俺の幼い頃によく似ていたからだ。そして直感でわかった。  

その幼女がαだと。



あの夜にデキていたのか…。
流石は先輩、貴方は本当に俺の期待を裏切らない。


俺と再会した先輩は、直にあの子の父親が俺だと気づくだろう。
それはつまり、俺があの夜自分を襲った犯人だと知るという事でもある。

その時、貴方は俺を赦すだろうか。
責め立てて罵倒するだろうか。



いや、赦さなくても良い。
俺は貴方を、屈服させて捩じ伏せてでも傍に置くだけだ。





やっと貴方を見つけた。










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