男嫌いのシングルマザーの俺VS絶対俺を番にしたい男

Q矢(Q.➽)

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14 彼の過去に触れる (千道side)

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「この通り、俺は男性を受け付けないんです。

申し訳ありませんが…。」


彼の唇から紡ぎ出されたその言葉に、絶望と共に込み上げる歓喜。

つまり、男はいない。

そういう事だろう?






自分が触れた事で、気を失って倒れる程にショックを受ける潔癖さ。

俺は心底惚れ込んでしまった。
でも同時に思う。
では何故、娘がいるのか。
今現在、他の匂いが付いてないだけで、前は女性の連れ合いがいたのか?
男性が駄目なら相手は女性だったという事、だろう。
しかし男性でもΩである以上、ヒートの関係で殆どは産む側に回っているとの統計も出ている。
Ωの抱えるヒートという特性は、βでは絶対に埋められない。ペニスを持たないβ女性なら尚更だ。
いくら愛し合っていても、ヒートに苦しむΩはいつかはαを求める。そして、番う。
でなきゃ、ずっと苦しみを抱えて生きる事になるんだから。
ヒートに抗う事は難しい。
Ωでも、それに誘引されるαも。
そういう点を踏まえて考えれば、男性を受け付けないという彼の相手はα女性で、彼自身が娘を産んだと考えるのが妥当ではないだろうか。

α女性に抱かれて、彼はどんな風に啼いたのだろうかと思うと、興奮と嫉妬が同時に湧いて来て困った。
ちょっと倒錯的な絵面だ。

まぁしかし。それも憶測でしかない。
かと言って、その答えを会って間もない人間が聞くというのも不躾だろう。
…初見でいきなり手を握った俺が言える事でもないか。



出会い頭に手を握って告白し、失神させてしまうという前代未聞のミスを犯してしまった俺は、それからは適度な距離を取りながら毎日彼に挨拶をした。
百里の道も何とやらと言うじゃないか。

幸いな事に、子供の保育園の送迎時には、張っていれば絶対に会える。
多少時間が前後しても、会える。
多少迷惑がられているのは察していたが、俺自身は毎日彼を間近で見られて、幸せだった。
男が駄目だと公言するだけあって、彼の俺を見る目には、温かみは一切無く、黒曜石の瞳に浮かぶのは嫌悪と困惑。

俺には αに生まれ、全てに恵まれてきた自負がある。
生まれてこのかた、媚びた視線や誘惑する眼差しを向けられるのが常で、あんな負の感情を乗せた視線を向けられた事が無かった俺は、その度に尾骶骨がじんと痺れてしまう。
別に被虐趣味がある訳じゃないんだけど、どうした事かな。



少しずつでも俺に慣れてもらいたくて毎日朝に夕に彼に話しかけていると、保育園のママさん達からも彼に関する情報がちらほら入ってきた。
情報と言っても、さして重要でもない、取り留めの無い事ばかり。

在宅で仕事をしているらしいとか、結婚した事は無いらしいとか、恋人はいないらしいとか、パンよりご飯が好きらしいとか、いつも使ってるスーパーは○○だとか。

でもそんな事を1つずつ知る度に、今度本当か聞いてみようとか一緒に食事に行ってみたいなとか…そんな欲も出てくる。

最初は怖々と距離を取る事に気を張っていた彼も、俺が手を触れないのがわかったのか、少し気を緩めてくれるようになってきたように思う。





「莉乃ちゃんと嵐が行きたいらしいんですよ。」

ある日俺はそう言って、とあるテーマパークに彼を誘った。

渋る彼に連絡先を渡したのは、まあ賭けだった。
子供をダシにしたつもりは無い。本当に莉乃ちゃんと嵐の願いを叶えてやりたかった。
そのついでに、多少距離が縮められたら嬉しいな、程度の気持ちだった。

嵐と莉乃ちゃんはとても喜んだし、楽しそうだった。
あの人は何時にも増して綺麗で素敵だったし、何時もと違う表情も見られて、可愛いかった。
意外にドジな所もあって、食事中に火傷をしてしまった彼に、俺が慌てて触れてしまっても、驚きはされど 前のように倒れる事も無く。少しは気を許してくれてるんだろうか。
そう思って、嬉しかった。
俺に順調に慣れてくれている。



様子がおかしくなったのは、レストランを出てからだ。

一度すれ違った男が、あの人に声を掛けてから。

俺とそう変わらない体躯の、αだった。
威圧感が重い。
普通ではないと感じて、彼の前に壁として立ちはだかった俺に、殺気を放つ男。

鋭い切れ長の眼差しが放つ光に射殺されそうだと思った。

あの人に対するその男の執着は、只事ではないと感じた。

際限なく深く、重く、暗い。

まさか、と思う。


その鼻筋、小鼻の形、その瞳、その眉。

よく似た人を、知っている。

ぐつぐつと煮え滾るような嫉妬心が生まれた。


おそらく、あの男は彼の、そして彼の娘の…。




俺は考えが浅かった。

彼のあの極端な迄の男性に対する恐怖や嫌悪が、何時どんな原因で植え付けられたのか、それに考えが至らなかったなんて。

彼がどんな気持ちで、トラウマを抱えながら生きてきたのか、なんて。

ほんの少しも知らずに、俺は。




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