男嫌いのシングルマザーの俺VS絶対俺を番にしたい男

Q矢(Q.➽)

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15 連れ出された先で

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その日、スマホが鳴ったのは午前10時を少し過ぎた時だった。
仕事の連絡かと思って画面を確認せずに取ってしまった。


『先輩、ひどいじゃないですか。』

「さ……っ、」

低く威圧感のある声色。
なのに、何処か蠱惑を含んで甘く響く。

「……真田、か。」

一呼吸置いてそう返すと、電話の向こうで小さく笑っている。

『はい、俺です。
先輩から連絡くれるの期待してたのになあ。』

電話越しの真田はあの頃と変わらないように思えた。
それが嬉しいような気も、しなくはない。
けれど、俺はもうあの頃とは違うし、真田もだいぶ変化があったのは本人に会ってわかった。
真田のα性は俺には重圧が過ぎる。
あの日、近づかれただけで身が竦んだ。口の中がカラカラに渇いて、キツい誘惑のにおいが鼻をついた。

他のαの匂いはやっと嗅ぎ取れる程度なのに、何故真田の匂いだけはああも濃厚に?

それに真田はあの頃から俺の匂いをわかっていたと言っていた。
未だ、俺自身、自覚症状すらなかったあの時期に、既に。


怖くて、連絡なんか取れる筈がなかった。


「…すまん、忙しくて。」

言い訳だと見え見えなのはわかっているが、それしか言葉が出てこなかった。
だが真田は特段気にもしていないように、気軽な雰囲気で言ってきた。


『お昼に、ちょっと出て来ませんか?』

「え、昼?」
 
『仕事中なんですよね?でも昼飯くらいは食うでしょう。
久しぶりに付き合って下さいよ。ご馳走しますから。』

戸惑う。

昼と言っても、昼食は何時も適当に済ませてまたPCに向かう事が多いし、それに出かけるとなるとそれなりに身支度くらいはしなきゃならない。移動にも時間が取られる。

『心配しなくても、先輩の家の近くで大丈夫ですから。』

「ウチの近くって…言ったって…。」

そこ迄口にして、ハッとする。
真田は、ウチの場所を知っているのだろうか?
いや、まさか…。


「ウチの…って…。
お前、今本社勤めだろ?」

此処とは、車でも小一時間はかかるじゃないか、と言いかけて口を塞いだ。


『大丈夫ですよ。出先からそのまま迎えに行きますから。』

「出先?」

迎えに、って、お前…。


『雲入町迄、直ぐなんで。』

「……!?!」


知っている。
知られている、何故だ。

あの日から未だ3日しか経ってない。
俺の方の番号だって伝えてはいなかった。
あの日だって、真田に口頭で言われた番号を俺自身がスマホに打ち込んだだけなのに。

ゾッとした。

千道が危惧していたように、真田は本当に俺に執着しているのだろうか。何故?

俺が、Ωだから?

「……わかった。」

『良かった!

じゃあ、下に着いたら連絡入れますね。』


…下……。

下と言った。
マンション自体が、知られているのが確定した。
どんな手を使って知ったのか、怖くて聞けそうにない。

でも、無碍に断り続けるのも避け続けるのもあまり良い結果にならないような気がする。あの時の、真田の様子を見ていれば。

通話を切って、PC画面に目を戻した。
少しピッチを上げて、やれるところ迄やってしまおう。
もしかすると、昼の一時間では済まない話をしなければいけなくなるかもしれない。

俺の中にある疑念をぶつけて、彼奴が答えるのかはわからないけれど。






11時50分には切り上げて、顔を洗い直して着替えて、髪を適当に整えて。
12時ちょうどにスマホが鳴った。

『下にいます。』

「直ぐ降りる。」


マンションのエントランスを出ると少し離れた場所から真田が車の横で手を振っていた。
歩み寄ると当然のように助手席のドアを開けられる。
出来れば後部座席が良かったが、今更それも不自然と言えば不自然かもしれない、と思い直す。
変に意識し過ぎても刺激してしまいそうで、それも怖かった。

乗り込むと、革張りのシートの香りと混ざり、芳香剤の香りもしたが、それよりも真田の甘ったるい匂いの方が強く染み込んでいて、何となく全身の熱が上がったように思う。
因果な性を背負ってしまったものだ、と俺は自嘲した。


「先輩、何が食べたいですか?何でも言って下さい。」

「…和食、かな。魚が。
でも割り勘で良いから。」

「いえ、無理に誘ったのは俺なんで。
和食で魚なら、この辺には行きつけがあるのでそこでも?」

「ああ、任せる。」

料金は帰りに渡す事にするか、と思いながら頷いた。真田の行きつけがどんな店かも知らずに。



「あらまあ、真田の坊ちゃま。お久しぶりで。」

「久しぶり。2階の部屋、空いてる?」

「勿論空いてございます。
一昨日はお父様もお客様といらして下さいましたのよ。」

「…………。」


真田に連れて来られたのは、確かにウチの近所ではあるが、縁が無さ過ぎて何時も素通りしていた高級会席料理屋だった。

そして真田が坊ちゃんと呼ばれていた事に驚きと含み笑いを隠せない。

女将と話していた真田が、それに気づいたようにムッとするのを見て、吹いてしまった。
やっぱり真田は真田なのかな、と 構えていた気持ちが僅かに解れた。


通された部屋は2階の奥の座敷。多分真ん中辺りと思われる位置に襖。
人数が多かったら開けるのかもしれない。

「では、直ぐにお持ちしますから。」

そう言って女将が退出していき、俺は真田に話しかけた。

「良い店だな。俺には縁の無いとこだ。」

黒檀の座卓の前の座布団の置かれた座椅子に座って、俺は部屋中を見回した。

あの床の間の掛け軸とかって、本物だろうか。
花も活けてあるし、よくわからない壺もあるし、それだけを見てもここを折半で払うのはなかなか大変そうだ。

真田はそんな俺の様子を面白そうに見て、クスッと笑った。

「これからは常連になりますよ。」

「そんな訳あるかよ。俺は並の給料しかもらってないっつの。」

それにしても、真田はやはり一般的な家庭の出身では無かったのか、と思う。
どこかそんな感じはしていた。あの頃は周りと合わせていたのか、別段高いスーツを着ていた訳でも無かったが、それでも品があったし食事の所作も綺麗だった。

真田は俺の返答に少し何か考えるような仕草をして、そして微笑んだ。


「大丈夫ですよ。
先輩が、俺と結婚してくれれば。」

「……は?」



真田が何を言っているのか、俺は暫く理解出来なかった。









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