男嫌いのシングルマザーの俺VS絶対俺を番にしたい男

Q矢(Q.➽)

文字の大きさ
16 / 30

16 真田の告白

しおりを挟む



結婚。

今、真田は結婚と言ったのか。
何故急に、俺と結婚って事になるのか。
少なくとも、俺とお前はそういう関係ではなかった筈だ。

表面上では。

俺は呆けていた意識を戻す。


「突飛な事を言い出すなよ。」

「突飛、ですか?」

真田のきつい眼差しにじっ、と見据えられて、俺は座り心地の悪い気持ちになった。 

そこに女将と仲居が食事を運んで来て、少し雰囲気が和らいだ。

長皿に盛られた刺身に箸を付ける。


「ここね、魚料理美味いんですよ。女将さんのご実家が魚屋さんなんだそうで。」

「へえ…あ、うん、美味い、俺やっぱ鮪は赤身派だわ。」

「俺もそうだなあ。
今度土日にでもマグロ丼食いに行きましょうよ、3人で。」

「3人?」

「?だって、置いてけぼりは可哀想でしょ?莉乃ちゃん。」

「……うん。」

教えた覚えの無い莉乃の名を知っている事にも、もう驚かない。
どうやら真田が俺にある種の執着を抱いているという千道の読みは正解だったらしい。
流石、α同士と言うか…。いや、俺が鈍いだけなのか。

俺はふと箸を止め、真田に聞いた。


「……真田。

俺、今からお前に変な事聞くけど、出来れば正直に答えて欲しい。」

平静を装っているが、箸を握る俺の手の平の中も背中も汗でじっとりだ。緊張している。
真由以外には、医師にすら明かせなかった事。
俺の人生の黒歴史であり、恥部。
だが、それが莉乃という大切な存在と出会わせてくれたのも、事実。
だから敢えてはっきりさせておきたい。


「莉乃の父親は、お前…だよな?」


真田は俺の言葉に一瞬虚をつかれたようにぽかんとしていたが、直ぐに面白そうに笑い出した。

「ははっ、ほんと先輩って、相変わらずダイレクト…。」

意味がわかっている。
真田は、俺の質問の意味を理解している。
一頻り笑って、真田は頷いた。


「よくわかりましたね、あの夜の男が、俺だって。
ま、わかるか。

莉乃ちゃん、俺によく似てますしね。」

心臓が、どくり と鳴った。

あの夜の恐怖と絶望がつい今しがたの事のように蘇って来て、体が小刻みに震え出すのを止められない。
真田に失望した。

けれど一方では、何故、という気持ちより、やはり、という気持ちの方が勝ったのは自分でも意外だった。
通りすがりの、誰かもわからない犯罪者が父親であるのと、やった事は犯罪でも父親が真田だと明確になっているのとでは、莉乃の将来的には断然後者の方が良いに決まっている。
俺の事は、もう置いておいて、莉乃の為に。

でも、でも、どうしても理由を聞いておきたかった。


「……何故、俺をあんな風に…?」

襲った、のか。


すると真田は箸を置き、座卓の上に力無く置かれた俺の左手の指先に自分の右手の指で触れてきた。

びくり、と俺は指を退こうとした。また、鳥肌が立つと思ったからだ。
けれど、鳥肌は立たず、悪寒は走らなかった。

代わりに、妙な安堵を感じた。何故だ。

コイツは、俺が散々苦しんだトラウマの張本人ではないのか。
なのに何故、俺の体はコイツを拒否しないんだ。

俺は混乱した。

真田の指は俺の指に絡み、その後ゆっくりと肌の上を滑りながら、袖に隠れた手首を撫でた。
ぞくり、としたのは、悪寒ではなく快感だった。


「貴方が、」


俺の表情をずっと観察していた真田が、愉しげに口を開く。鋭い目が細まり、懐っこい表情になって。
あの頃、俺はこの顔を見るのが好きだった。
こんな時にそんな顔をするのはずるい。


「何故、他の男を受け付けなくなったか、教えてあげましょうか。」

「……な、に?」


男にレイプされたからだろう。他に何がある?


「俺が、そうしたからです。

本当はね、あの時噛むつもりでした。番にする為に。

でも、貴方が後天性Ωだとしたら、それでは拒否されるかなと思って。
だから取り敢えず、深い所迄マーキングだけをしておいたんです。

俺以外を拒否するように。
因みに男だけじゃ、ないですよ。女性αにも、それは有効ですから。」

「……なんで…そこまで…?」

真田の口から次々放たれる言葉を咀嚼しなければならないのに、脳の処理が追いつかない。
何故、真田は俺なんかを。
Ωだから?後天性Ωが何だって言うんだ。

だが真田が口にした答えは、俺の想定していた答えとは少し違っていた。


「貴方がΩじゃなかった時から、俺は貴方を好きだったから、ですね。」

「…え、」

「俺はそもそも、番を持つ気はありませんでした。
どんなΩの匂いも、不快でしかなかった。
だからβでも、好きになった貴方を口説いて伴侶にする気でいたんです。」

「いたんです、って…お前…。俺が断るってのは考えてなかったのかよ。」

「どんな手を使ってでも、絶対、落とす気でいたので。」

「……。」


その言葉は、今なら確かにその通りだとわかる。
実際、コイツは俺をレイプしたんだから。


「なのに、何時の頃からか、貴方から良い匂いがして来たじゃないですか。

しかも、俺にとってはこの上もない極上の香り。

運命だと直ぐにわかった。」

「……俺は、そんなもの…、わからない。」
 
わからない、と言いながら 体は確かに真田に傾いている。
ヒートでもないのに、真田に反応している。
唯一受け入れられていた千道の爽やかな匂いを遥かに凌駕する、甘ったるい真田の匂いに溺死しそうになっている。


「俺を誤魔化そうとしても、無駄です。

"わかる"から。」





息が、浅くなる。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ファントムペイン

粒豆
BL
事故で手足を失ってから、恋人・夜鷹は人が変わってしまった。 理不尽に怒鳴り、暴言を吐くようになった。 主人公の燕は、そんな夜鷹と共に暮らし、世話を焼く。 手足を失い、攻撃的になった夜鷹の世話をするのは決して楽ではなかった…… 手足を失った恋人との生活。鬱系BL。 ※四肢欠損などの特殊な表現を含みます。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...