魔法の鏡、DKに転生する〜モブですらない無機物キャラだった筈ですが〜

Q矢(Q.➽)

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14 奇跡ってあると思う(木崎side)

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 足の肉を焼く、灼けた鉄の靴。それを強引に履かされて脱ぐ事も許されず、熱さと痛みから逃れる事も出来ず、悲鳴を上げながら地団駄を踏みながら死ぬ――。

 それが俺の前世の終わりだった。


 そうだな、確かにそんな死に様に見合う生き方はしていたって自覚はある。何人も呪い殺したし、物理的手段で葬る事もあった。その全ての動機が、この世で最高の美でなければならないという執着の為だった。今にして思えば、強迫観念ってやつだったのかも。
 前世…あの人生での俺は、女で、それもとびきり綺麗な女で。それから、すこぶる性根が悪かった。
 当たり前みたいに権力も好きだったし、金も好きだった。小さい頃から魔法の才能があったのがまた、幸いというか災いというか…。成長していくに従って、その性根の悪さを助長した最大の要因になったから、やっぱ災いの方だな。
 より強力な魔法を覚える度に傲慢になり、自分なら世界のすべてを手にできると増長した。

 
 美しさを見初められて、妻に先立たれたその国の王の後添えに収まった時、王の元には幼い王女が居た。先妃の産んだ娘だ。子供なんてと思ったけど、城には多くの召使いが居るし乳母や教育係も居るから、義理の娘ったって別にこっちが面倒を見る必要は無い。たまに顔を合わせた時に適当にあしらっていれば良いだろって程度の気持ちだったよ。
 だけど、実際に王女を見た時、俺は戦慄した。まだあどけないその義理の娘の顔は、既に大人顔負けに完成されていて、それまで見てきた世界中の美女達を遥かに凌駕していたからだ。
 間違いなく、あと数年も経たない内にこの世の誰よりも美しい女になる。そんな確信を持ってしまった。
 そして、確信の後に襲ってきたのは嫉妬と焦燥。けれどプライドの塊だった俺は、こんな幼い子供に脅威を感じている事を認めたくはなかったんだ。

 けれど、何年も経たない内に、そうも言ってはいられなくなった。
 ある日、俺の大切な相棒だった魔法の鏡が放った一言によって。

 

『この世で1番美しいのは、白雪姫』

  曇りひとつない滑らかな冷たい鏡面から、抑揚のない声でそのセリフを聴いた時…俺の心臓には焼けた杭が刺されたかのようだった。
 数十年、毎朝毎晩聞いてきた馴染みのあるその声。日夜俺に安寧を与えてくれたその声が、数年ぶりに俺以外の名を呼んだ。 
 
(とうとうこの日が来た…)

 確信はあったが、まさかこんなに早くにその時期が来るとは思ってもみなかった。腹立たしい現実から目を背けたかった俺は、故意に義娘とは顔を合わせるのを避けるようにしていて、その成長具合いの確認が出来ていなかったんだ。
 でも、鏡には俺の姿ではなく、少し成長した義娘の姿がはっきりと映し出されていた。
 滑らかな、白い陶器のような肌は透明感があり、毛穴ひとつ見つけられない。紅を塗っている訳でもなさそうな唇は、白肌との対比が映える赤。大きく艶やかな黒い瞳の中にはきらきらと星が煌めくようだった。幼女特有のふっくらとした頬を囲む、豊かで艶やかな黒髪…。

(負けた…)

 僅か7歳の子供に負けた…。その衝撃は、なまじ成長した大人の女達を相手にするよりも強烈な敗北感で俺を打ちのめした。   
 自分の美しさを自覚したあの日から数十年。日々励んでいた美への研鑽も努力も何もかもが、若さと生まれ持った素材の前に全て無意味と化してしまう。…なら、もういいか…。

 やけっぱちな気持ちになった。

 しかし―――。

『白雪姫は美しい。…お妃様、貴女よりも…』

 肩を落として俯いているところに、ダメ押しのようにそう告げる鏡の声が、萎えかけた俺の気持ちを引き戻した。
 皮肉な事に、既に敗北を認めた自分の心よりも、大切にしていた筈の鏡からそう言われた事が、当時の俺の闘争心に火をつけてしまったんだ。
 
 許さない。
 その声が呼ぶ名が、俺とは違う名であってはならない。いつの間にか、俺の執着の向かうところは"世界一の美"だけではなくなっていたんだ。

 今の人生を得て、真っ先に思い出したのは、鏡の声だった。
 思い出したのは幼稚園の頃だ。
 夢の中で俺は女で、綺麗な装飾の施された、よく磨かれた鏡の前に居た。俺はその鏡に何度も問いかけ、鏡はそれに答え、まるで会話のようだった。頬を寄せると、鏡はひんやりと冷たい。なのに俺の呼びかけに答えるその声は、抑揚が無く無機質なようでいながらも、時折こちらを気遣うような気配を感じさせる穏やかなものだった。
 
 同じ夢を何度も見た。それは回を重ねる毎にリアルになり、小学校に上がる頃には俺は完全に覚醒していた。それはタダの夢ではなく、幼稚園で時たま先生が読み聞かせしている有名な創り話の童話でもなく、ひとりの女の愚かな生涯だと。
 
 そして、切望するようになった。もう一度あの声で呼ばれる事を。

 でも、相手は鏡だ。道具だ。物だ。その話の登場人物である人間だったなら、ワンチャン俺みたいに生まれ変わってたりする可能性もあるかと思ったが…鏡じゃな。
 それに、調べてみた限り、どうやらこの現世はあのおとぎ話の世界とは次元というか、世界線が違うような気がする。限りなく似たような逸話はあるけれど、俺の居た世界とは微妙に違う気がして、同じ世界線だっていう確信が持てない。
 となると、この世界にはあの鏡は存在しないんじゃないだろうか。もし奇跡的に世界線が同じだったとしても、時代的に何百年も昔の物が残っているとは思えない。残っていたとしても、在り処すらわからない。

 俺と相棒(鏡)の再会は絶望的に思われた。


 でも、奇跡は起きた。
 
 進学した高校での、眠いばかりの入学式。
 何一つも期待なんか持たずに行ったそこで、俺は見つけた。
 何故だろう、一目見ただけでわかったんだ。名前を呼ばれ短く返事をした声を聞いて、胸が震えた。
 
 それは俺が覚醒してからこっち、散々追い求めてきた鏡の声そのままだったからだ。


(かがみ、ういち…各務、宇一…)

 居並ぶたくさんの同級生達の中、俺はそいつの名だけを胸に刻んだ。

 まさか、会うのは絶望的だと諦めていた相手に出会えるなんて。しかも、同じ人間になってるなんて。

 今世の俺は、最高にツイてると思ったんだ。












 
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